教養としてのロック名曲ベスト100【第9回】92位はあの人気曲! by 川崎大助
「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」ザ・ビートルズ(1968年11月/Apple/英)
(旧西ドイツ盤の画像です)
Genre: Rock, Blues Rock
While My Guitar Gently Weeps - The Beatles (Nov. 68) Apple, UK
(George Harrison) Produced by George Martin
(RS 136 / NME 382) 365 + 119 = 484
またもやビートルズ、しかも「あの」人気曲だ。レノン&マッカートニーのクレジットが支配する巨大領地の片隅で、静かに、しかし見まごうことなく着実なる光を放つジョージ・ハリスン作のナンバーのなかでも、1、2を争う人気曲がこれだ。
とはいえ、この曲の主役はジョージではない。ほかの3人でもない。ハリソンの招聘によって、助っ人ギタリストとして参加させられたエリック・クラプトンの、まさにタイトルどおりに「やさしく、むせび泣く」エレクトリック・ギターの至高の芸こそが、主役だ。イントロから始まって、ソロを経て曲の最後まで、途切れることなく「泣き」続けるギターの情緒性の渦にすっぽりと包み込まれて、聴き手は、メランコリーの霧に覆われた深い森のなかへと踏み入っていくことになる。そこで迷子になる。
「僕のギターがやさしくむせび泣くあいだに」この歌の主人公は、いろんなことを観察し、考える。愛の終焉や、信頼がおけなくなった他者の存在などが描写される。でもただそれだけで、主人公は「I don't know」と繰り返すばかり。現実的には「なにもできない」様子ばかりが、繰り言のように続く……という、あらゆる面で「煮え切らない」ポイントだけが凝縮しているのがこのナンバーなのだが、まさにそこが受けた。
たとえば70年代初頭に一世を風靡する、ロサンゼルス周辺の「キャニオン系」シンガー・ソングライターたちと一脈通じるところも、この曲にはあった。私的な題材を適度に抽象化してみることで、核となるテーマのみを純粋培養する――といった作法だ。つまり言うまでもなく、きわめてソロ・アーティスト的な視座から始めるたぐいのもので、驚くことにハリソンは、地上最強のロックンロール・チームの一員でありながら、そんな立脚点をいつの間にか確立していたことになる。つねに弟分あつかいだったせいか。
巷間、この曲はレノンとマッカートニーの不和をハリソンが嘆いているのだ、との読みがある。が、もしそれが本当だったとしても、当曲はより大きな「普遍的真実」を指し示している。関係性のなかにふと差し込む一瞬の影をとらえ得た名曲として、幅広い人気を得た。通称「ホワイト・アルバム」と呼ばれる、ビートルズ第9作目のイギリス盤オリジナル・アルバム(68年、『教養としてのロック名盤ベスト100』第3位)にこの曲は収録。英米ではシングル発売はなかったものの、「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」のB面曲として他国では流通。豪、オーストリア、スイス、西ドイツほかで1位を獲得した。
(次回は91位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)
※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki