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『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』本文公開①

前回の大統領選の年の6月、全く無名の男性が書いたメモワール(回想録)が刊行され、大ベストセラーとなりました。J.D.ヴァンス著の『ヒルビリー・エレジー』です。なぜこの本が注目を浴びたかといえば、トランプ大統領の主要な支持層と言われる白人貧困層=「ヒルビリー」の実態を、当事者が克明に記していたためでした。それから4年、大統領選を前に再び本書がクローズアップされています。11月24日は、ロン・ハワード監督による映画もネットフリックスで公開されます。本連載では、本書の印象的な場面を、大統領選当日まで短く紹介していきます。

私は「ラストベルト(さびついた工業地帯)」と呼ばれる一帯に位置する、オハイオ州の鉄鋼業の町で貧しい子ども時代を送った。そのころの記憶をどれだけさかのぼってみても、当時から現在にいたるまで、その町は、仕事も希望も失われた地方都市であることに変わりはない。

ひいき目に見たとしても、私と両親との関係はずっと複雑だった。一方の親は、私が生まれてからずっと薬物依存症と闘っている。私を育ててくれた祖父母は、どちらも高校も卒業しておらず、カレッジを卒業した親類もほとんどいない。統計資料によれば、私のような境遇に育った子どもは、運がよければ公的扶助を受けずにすむが、運が悪ければ、ヘロインを摂取しすぎて命を落とす。昨年、私の故郷の小さな町で何人もが亡くなったように。

私自身も、将来に望みのない子どもの一人だった。高校では落第しかけ、この町では誰もが抱く、怒りやいらだちに屈しかけていた。この町の人々は、現在の私を、まるで天才でも見るような目で眺めている。彼らにとって、私がいまの職業に就いたことや、アイビー・リーグの名門大学院を修了したことは、非凡な人物にしか達成できない偉業だからである。

しかし私には、そうした考えがまったくのたわごとに思えてならない。何かの才能があったとしても、愛情深い何人かが救いの手を差し伸べてくれるまで、私はその才能をほとんど浪費していたからである。

本書は、私の人生の偽りのない物語である。自分自身に見切りをつけようとしたときに、どう感じるのか、なぜそうせざるをえないのかを、多くの人に知ってほしい。本書を通じて、貧しい人たちの生活がどのようなものなのか、精神的・物質的貧困が、子どもたちにどれだけ影響を及ぼすのかを伝えたい。(続く)

J.D.ヴァンス著 関根光宏・山田文訳『ヒルビリー・エレジー』(光文社)より



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