【62位】ラモーンズの1曲―コミックブック・ヒーローのパンク、爆発的に誕生する
「ブリッツクリーグ・バップ」ラモーンズ(1976年1月/Sire/米)
※画像はUK盤ピクチャー・スリーヴです
Genre: Punk Rock
Blitzkrieg Bop - Ramones (Jan. 76) Sire, US
(Tommy Ramone, Dee Dee Ramone) Produced by Craig Leon
(RS 92 / NME 237) 409 + 264 = 673
これぞパンク、これがパンク! 邦題の「電撃バップ」で、みんな覚えているはずだ。ニューヨーク出身の4人組である彼らのデビュー曲。同年4月に発売のデビュー・アルバム(『教養としてのロック名盤ベスト100』では43位)のオープニング・ナンバーも、これだった。騒々しく華々しいこの曲から、まさしく、パンク・ロックのすべてが始まった。
特徴はまず、とにかく「短い」こと。実際の曲タイムよりも短く感じるはずだ。約2分10秒だから、63位の「シー・ラヴズ・ユー」よりもたった10秒短いだけなのだが……体感的には「約半分」ぐらいではないか。なぜならば「単調」だからだ。コードは基本3つなのだが、荒削りなディストーション・ギターが繰り返すリフは「一種類」しかない。
さらにビートが「馬鹿っ速い」。BPM、つまり1分間に4分音符を打つ数はおよそ177! この時代以前にはまれな速度だった。しかもギターもベースも8分音符を基本に「ダウンストローク(ピッキング)しかしない」から――とにかく凄絶に素早く、1秒間に幾度も幾度も手首を上下に振り続けなければならない!のだ。
そしてなにより、例の「ヘイ! ホー! レッツ・ゴー!」だ。あのチャントが、ビートに乗って繰り返される。これはコンサートに集ったキッズを祝福し、もっと盛り上がれと焚きつける目的で、ドラマーのトミーが開発した。元ネタは当時爆発的に売れていたスコットランド出身のアイドル・バンド、ベイ・シティ・ローラーズの「サタデイ・ナイト」で、あの曲の「S-A-T-U-R...」と連呼するところを真似た。言葉のほうは、R&Bの名曲「ウォーキング・ザ・ドッグ」のローリング・ストーンズ・ヴァージョンより「High low, tippy toe」のところをいただいてから、変えた。そして世紀のチャントが生み出された。
タイトルの「Blitzkrieg」はドイツ語で、ナチス・ドイツの「電撃戦」の意味だ。一列横隊で何者にもめげず、一気に進撃していく悪ガキ軍団のイメージだった。ベースのディー・ディーの子供っぽい戦争趣味の反映だったのだが、もちろん、物議をかもした。
チャート・アクションは、アルバムも含め、まったくの不発だった。しかしまずはイギリスで、大変なことになった。この曲の真似からUKパンクは始まった。さらに、いつになっても、いつまでも、映画やTVでこの曲は使われ続けている。『スパイダーマン:ホームカミング』(17年)でも大きくフィーチャーされていた。これはスパイディと同じクイーンズ区に育った、4人の「オリジナル・パンク・ヒーロー」へのオマージュを意味した。
(次回は61位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)
※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki