【#1-1】ロケの手ごたえゼロだった「水曜どうでしょう」の新作は、なぜ、おもしろかったのか
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【#1-1】ロケの手ごたえゼロだった「水曜どうでしょう」の新作は、なぜ、おもしろかったのか

嬉野珈琲店へようこそ。
 マスターは大の珈琲好きである「水曜どうでしょう」カメラ担当ディレクターの嬉野雅道さん。店ではこだわりの珈琲を淹れながら、マスターが人生のあれこれについてじっくりと語ります。マスター独特の視点から語られる、胸に詰まった息がすっと抜けるお話――。本日は、「水曜どうでしょう」でおなじみの人たちとのお話です。

嬉野雅道連載写真

2年間も編集を放置していた「水曜どうでしょう」の新作

さて、気がつけば今年も師走の風が吹き、はや12月、2020年は、まもなく終わろうとしていますね。大晦日になれば、あの大泉洋さんが、NHKの「第71回紅白歌合戦」に白組司会者として出演なさるというのが今年下期の大きな話題で、しかも今年は「紅白」史上、初の無観客での生中継、いったい当日、大泉さんは、いかなる首尾とあいなりますか、いずれにしても、未曾有の困難の始まった2020年の年の瀬に、大泉洋さんが日本国民に、つかの間、明るい時間を提供し、希望の光を新しい年へと繋げてくれるのかしら、と、それはそれで今から楽しみなのです。

ですが、今年はもうひとつ、その大泉洋さんが出演されております北海道テレビのバラエティ番組「水曜どうでしょう」が、去年に続き、なんと2年連続で新作を放送した年でもあったのです。

そしてこの、10月28日から、毎週水曜日の夜に、7夜に渡って放送され、今月9日に放送を終えたばかりの2020年の新作「21年目のヨーロッパ21カ国完全制覇」に、私は図らずも深く教えられるところがあり、それに寄せる私の特別な想いというものを、この場を借りて話してみようと思うのです。

画像5©hiroko

先に言っておきますと、放送開始から、この新作「21年目のヨーロッパ21カ国完全制覇」が実に好評で。視聴者の中には、「これまでの『水曜どうでしょう』の中で一番好きかもしれない」という感想をSNSに上げる人さえ出はじめるほどで、その手放しの歓迎ぶりは、番組開始から24年目を迎えた「水曜どうでしょう」の歴史を知る者としては実に驚くばかり。

でもその、「一番好きかもしれない」という印象は、関係者である我々の中にもまた同じようにあるのです。チーフディレクターの藤村くんなどは、赤平の森にツリーハウスを建てた去年の新作「北海道に、家、建てます」(昨年12月~今年2月に放送)よりヨーロッパの方が好きだなと公言するほどです。

ですが、その新作「21年目のヨーロッパ21カ国完全制覇」のロケに我々が出かけたのは、今から2年も前の2018年の夏だったのです。どうしてそれから2年もの間、ロケデータに手もつけず、放って置いたのでしょうか。

おそらく編集しようという気持ちに、なかなか、なれなかったからだと思います。つまり2年前、あの新作のロケから帰ってきた「水曜どうでしょう」関係者の我々4人は、誰もが「今度のロケは、そんなにおもしろいものにはならなかったな」と、どこかで、ぼんやりと意識し、危惧していたのです。

不思議でしょ? ロケから帰った我々は、4人それぞれに「おもしろくならなかった」と思っていたんですよ。じゃぁなんで、我々の心にそんなマイナスな印象しか残さなかった新作が、結果的におもしろかったのか。私には、ここがおもしろくてならない。

アイルランドに行って帰ってきただけの旅だったのに

今年の新作の中身は、平たく書けば「4人だけでヨーロッパへ向かい、ロンドンでレンタカーを借りて、アイルランドに入国を果たし、ただ帰って来ただけの旅だった」ということになるわけです。そこには、テレビ番組としてのひねりもなく、というか、旅の困難がまったく見えてこない分、いったいこれから何が始まるだろうという期待感すら持てない。ということは、当たり前ですが、予想外の展開も飛躍も起きはしないということです。とにかく眼前で進行していくのは、ひたすら4人だけでヨーロッパをレンタカーで移動しているだけのことなのです。いや、正確に言えば、ロンドンからダブリンまでの移動ですからもっともっと狭いエリアです。このような距離では、冒険的なハッタリすらかませられない規模です。そんな冒険のふりさえできない旅だなんて、世間的には、テレビの企画として、そもそも通用しないはずのものです、だって文字どおり「4人だけで行ったヨーロッパ個人旅行」でしかないのですから。

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そして、もちろんですが、そこまで考えなしの旅に、大泉洋や藤村忠寿が行きたがったわけではないのです。

藤村くんは、本当はユーコンに行きたかったのです。ユーコンに行って久しぶりにユーコンのよしに会いたかった。

ユーコンのよしは、2001年、我々が最初にユーコンに行ったロケのあとから、毎年、年賀状で「また来てください」のラブコールを送ってくれているのです。思えば、あのロケから既に20年ほどが経ってしまっていることを思えば、それは実に20年の時を経て続けられているラブコールなのです。

当時、まだ30歳ほどだった現地のガイド、ユーコンのよしも、現在、既に50歳の大台に乗る妙齢の婦人となっているのです。九州の久留米の実家に両親を残して、ひとり娘のよしは、とうとうユーコンにマイホームを建ててしまい異国の地に骨を埋める覚悟のようです。

藤村くんは、そんなよしを20年ぶりに訪ねて、もう一度、一緒にユーコン川をカヌーで旅したかったのだと思います。たしかにそこにはドラマがあります、人生があります、こうして書きながらも、そこにはイメージするだけで情感が溢れ、旅への期待感が湧き上がります。「その風景を、そのドラマを、この目で見てみたい」。藤村くんはそこへ自分の想いを馳せたのです。さすが、名ディレクター藤村忠寿です。

とにかく4人だけで旅がしたかった。

ですが、2年前の私は、そうであっても乗り気になれなかったのです。とにかく、いいかげん久々に、4人だけで旅がしたかったのですね。懐かしいユーコンのよしといえども、現地で他人と合流するのは、どうにも嫌だったんですね。

とはいえ、現実問題、我々4人だけで海外へ旅に出るとなると、もちろん道案内の必要となる大自然の中を行くわけにはいかないので、せいぜいヨーロッパか、アメリカの田舎町をレンタカーで旅するくらいです。

当然、そのとき私に思いついていたことは、ミスターが「21カ国、回らなかったら、ぼくはこの番組やめます」と言い放った、あの約束の旅の21カ国目のピース、最後まで残った未到達国、アイルランドへ行くことくらいでした。

でも、それはもうやり尽くした旅です。こうして改めて書いていても、そんな旅に、いまさら溢れる情感も見えなければ、ドラマだって生まれてくるようには思えない。でも、そこではなかったのでしょうね、ドラマや情感ではなかったのでしょうね、そのときの私が4人だけで旅がしてみたいと願った理由はね。

つまり、お恥ずかしい話ですが、私の願いは企画でもなんでもない私の欲求だったのでしょうね。どうしても、もう一度、4人だけの旅がしてみたいという。

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でも、その欲求はミスターにもあったようなのです。

おそらく藤村くんにしてみれば、きっと予想外のことだったでしょうね。私が、藤村くんの提案に同意しないなんてことはね。

そして、その私の不同意に、ミスターも、「そうですね、今回は4人だけで旅をする方がいいかもしれませんね」と言い添えたのです。

「4人だけで旅をしたいとは、実は大泉も言ってることなんですよ」とも。

ミスターにまで、そう言われてしまっては、藤やんも、「そうかぁ、ミスターもそうかぁ」と、ユーコンを諦めるしかなかった、そういうことだったと思います。

ですが、大泉洋が求めていた4人だけの旅というのは、もちろん企画性のある4人だけの旅ということであって、間違っても、すでに3回もロケをしている「ヨーロッパ完全制覇」に、この際ピリオドを打つとかいった、そんな行って帰るだけの4人旅ということではなかったのです。

ということになると、このロケは、これまで番組の命運を背負ってきた藤村・大泉の両名が望まない旅だったということになるのです。

もちろん、大泉洋が望まなかった旅はこれまでにも、公私ともに、たくさんあったわけですが、というか、だいたいそれだったわけですが、しかし、藤村忠寿までが望まなかった「水曜どうでしょう」の旅というのは、24年の番組史上、振り返っても、これが初めてのことだったのです。

そんなこと、旅に出たときにも、旅の途中にも、考えてもみなかったのですが、編集を始めることになってから、「はたして今回のどうでしょうは、おもしろくなるのか」という問題に直面して、今更ながら、そのことに思い至ったのです。

藤やんが編集しないでオレに任せるってどういうこと? 新作は〝前代未聞のロケ〟だった

そうです。
ここでハッキリ書き留めておきますが、今回、めずらしく藤村くんは、突然、新作の編集を私に振ってきたのです。もちろんこれまでにも、私が先に編集に入ることはありましたから、「とりあえず感じがつかめるように繋いでおけばいいのだろう」くらいに受け取っていましたが、あれは今年の年明けのことでした、まだコロナ騒動が始まる前、会社に顔を出してみると、いろんな人が、私を見つけるなり近寄ってくるのです。

「今度の新作ですけど、嬉野さんが編集するんですか?」
「え? なにが?」
「藤村さんが、そう、方々でおっしゃってるんですけど」

そう言って、私のところへやって来る者が、ひきもきらず。
その度に私は、

「いやぁ〜、たしかにそう言われたからオレ編集するけど、仕上げは藤やんがやるでしょう」

そう答えていたら、そこへ音響効果の工藤ちゃんまでが、ひょっこりやってきて、

「あ、うれしー、今回の新作、うれしーやるんだってね、藤やんから聞いたから、よろしくね」

そう言って帰っていくのです。
工藤ちゃんが来たということは、仕上げまでオレがやるということか。いかん、外堀はすでに埋められているじゃないか。

私はここに至ってようやく正気の頭で考え始めたのです。

ということは、これは、どういうことだ。

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つまり、編集が大好きな藤村くんが、その編集を私に振るということは、編集したいと欲求していない、ということになりますよね。ということは、ロケの現場で、現場を回しながら、頭の中では同時に編集を始めているんだ、と、いろんなインタビューの中で常に語ってきた藤村くんが、そのロケの仕上げを私に振るということは、藤村くんは、あのロケの間、頭の中で編集なんかしていなかったということになるわけです。彼は旅のどこかで、それもかなり早いうちに舵取りを諦めたということじゃないですか。そして、それを裏づける証言は玉木青くんが編集してくれたインタビュー本「週休3日宣言」の対談の最中に(本には記載されていませんでしたが)藤村くんの口からハッキリと発言されたのです、「オレも、今回のロケは、途中から蚊帳の外みたいな感じだったもんね」という言葉になって。

これは大変です。だったらこれは「水曜どうでしょう」史上、前代未聞のロケだったということになるのです。だって、藤村忠寿がロケ中に旅の進行をコントロールしていなかったなんて、だったらそれはつまり、どんな道を走っているかも分からないのに番組のハンドルを握る者が、あのロケ中、いなかったということになるのですから。

極端に言えば、それは4人全員が、自動運転の車に乗って、誰もが行く先に責任を持たず、長閑にヨーロッパを移動していたようなものだった、ということになってしまうのですから。

これは大問題であるはずなのです。(つづく)

追伸
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                              嬉野雅道

嬉野雅道(うれしの まさみち)
1959年生まれ。佐賀県出身。「水曜どうでしょう」(北海道テレビ)のカメラ担当ディレクター。愛称は「うれしー」。ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、文化庁芸術祭賞優秀賞など多くの賞を受賞したドラマ「ミエルヒ」では企画を担当し、福屋渉氏とともにプロデューサーも務めた。「愛と平和と商売繁盛」「負けない」がモットー。どうでしょう藩士と奥様に人気。著書は『ひらあやまり』『ぬかよろこび』(ともにKADOKAWA)など多数。

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