見出し画像

【インタビュー】リーグ優勝を決めた巨人の現在地。日本シリーズへ向けて、ソフトバンクとの差はどこにある?

野球ファンのみなさまにご好評頂いているゴジキ(@godziki_55)さんの連載「巨人軍解体新書」。今回は、ジャイアンツのセリーグ2連覇を記念して特別インタビューを実施!
日本シリーズを控える巨人の課題、コロナ禍の今シーズン特有の難しさやソフトバンクとの違いなど、たっぷりとお話を伺いました。

※このインタビューは2020年10月30日(巨人がリーグ優勝を決めた日)に収録しました。

■優勝はしたものの、露わになった課題

―巨人、優勝しましたね。おめでとうございます。

ありがとうございます。

―ただ、優勝が見えてきた頃から失速しているようにも感じられます。最近の記事でも色々と課題をご指摘されていますが、改めてそのあたりはどう考えますか?

チームとしてのピークはおそらく、9月頭(9/1~9/13)の大型連戦だったと思います。9割以上の勝率でした。その時もそうですし、遡ってシーズン全体を通しても、「勝ちパターン」クラスの中川の無理な起用が目立ちました。また、移籍したての高梨や二軍から上がってきた大江に関しても、適した場所ではあるんですけど、使い方があまりよくなかった。1イニングに3人使ったり、5点差のセーフティリードの状況で彼らを投げさせたり。

―いわゆる「レバレッジ」の効かないシチュエーションで投げさせてしまっているわけですね。投手起用については前々から懸念を示されていましたが、どこに原因があるのでしょうか? 

2つあって、1つ目は試合数とイニングの短縮を過度に意識していた気がします。今シーズンは試合数が143から122に減ったとはいえ、120試合以上あるじゃないですか。昭和の時代とさして変わらないわけです。メディアで「短縮試合」と出ていたのを真に受けて錯覚してしまったようにも見えます。また、延長戦が10回までということも頭の中にあったと思います。そこまで抑えれば負けはない、という発想でつぎこむことがあったのかなと。それによって登板過多につながったと考えています。

―突然の開幕延期やいつ始まるのかわからなかった状況などを考慮すると、通常のシーズン以上に調整の負荷がかかっていたとも言えますしね。

はい。2つ目は、巨人の投手運用自体がもともと良くなかった点です。去年はたまたま、先発から回った大竹、澤村、田口のような回またぎをしたりある程度イニングを重ねたりしても何とかなる投手がいて、かつ中川やデラロサがいました。それで何とかして終盤に強い体制を構築できた。今年も試合終盤には強かったです、守備も堅くて。ただ、大竹や中川が抜けてチーム力が下がっていった時にカバーできるほどではなかった。同時に守備もよろしくなくなって、シーズンの失策数の約半分が9月に集中しました。菅野が今シーズン初の負け投手になった試合でも1試合3エラーしています。

■ピークを過ぎたチームがどう戦うのか

―なるほど。現在のチーム状況はどのように見えていますか?

チームのバランスが最も良かったのは坂本・丸・岡本のコアの調子が上がってきて、守備も堅く、救援陣もまだもっていた8月下旬~9月上旬。その時の状態で日本シリーズに出ていたらいい勝負はできたと思います。
ただ、現在は菅野と戸郷の調子も落ちてきて、結構厳しい戦いになるかなと感じます。

―大型連戦にピークがあったからこそ独走でリーグ優勝できたようにも考えられますが、そのあたりは(シーズン最終盤で調子を上げた)ソフトバンクと対照的に見えますね。

ソフトバンクはシーズン序盤~中盤、あれだけの戦力にかかわらずイマイチでしたからね。でも柳田を筆頭に、中村晃なんかもシーズンを通してみたら実力を発揮している。遅れてきた選手がシーズン後半に仕上がってきている。

あと周東。巨人でいうと鈴木尚広に対して「フルシーズン出たらどれくらいの成績を残せるんだろう?」という期待がありましたが、それを本当にやってしまった。代走でこれだけの数字だからフルシーズン……という換算をリアルに体現したのはすごいです。
例えば昔、中日に中里という良いストレートを投げる選手がいて「怪我さえなければ藤川球児以上になれた」と言われたりしていました。そのような一瞬の輝きではなく、再現性を高めてシーズンを戦えた。そういう選手がゴロゴロいるのがソフトバンクの強さかなと。

―チームの調子が上がるまでは若手の活躍で埋めて、最後は主力が帳尻を合わせる。豊富な戦力ゆえにできることですね。

シーズン序盤は内川や長谷川が「代打の切り札」で出てましたからね。内川は構想外になりましたけど。結局は石川柊太も千賀と近い数字になっているし、去年良かった高橋礼を中継ぎにするくらい選手層の余裕がある。

■今シーズン特有の「ピーキング」の難しさ

―投手起用と守備面以外に巨人の課題はどこにありますか?

例えば坂本や丸は2番に置くのが、現状の戦力を考えると最も良い配置です。今は松原が務めていますが。ただ、現状それ(松原2番)で「勝てちゃっている」ことも大きい。そのオーダーで成功体験が積み上げられてしまったので、チームの調子が悪くなっても切り替えがなかなかできない。シーズンを通して、「もっと楽に勝てた試合」が多いです。打順や投手起用をもっときちんとしていれば、ここまで落ちずに日本シリーズに出られたのでは。

―特に今年に限っては、チームとしても選手個人としてもピーキングは難しかったのでしょうか?

それは間違いないですね。いったんギアを上げてきたものが開幕延期になって中断されて、落ちたものをもう一度上げるわけですから。しかも坂本は直前でコロナにかかって練習量も落ちてしまったのかなと思います。その中でここまで上げてきたのは流石です。

―「最低限」のラインは確実にクリアしている。

実績のある選手はそのあたりがうまい。例えば2009年に、ヤクルトの青木が前半戦に絶不調だったのに最終的には打率3割に持ち直したり。

―当然チーム内の状況はわかりませんが、メンタルの部分はどのように見受けられますか?独走して気が緩んでいるなどはあるのでしょうか?

それはないと思います。ただ、全体的にうまく噛み合っていないかなと。
例えば、投手起用でなあなあになっているのが守備に連動して集中力の低下につながっている気がします。継投がスムーズだと守備もリズムよくいけるんですけど、そこがうまくいってません。プロに限らずあることですが。あとはマツダスタジアムや甲子園のグラウンドには苦手意識があるかも。

■もしCSがあったら危なかったかも?

―日本シリーズまでそんなに時間もないですけど、ここから再び立て直すことは可能でしょうか?

セリーグは良くも悪くも、CS(クライマックスシリーズ)がないので実戦から遠ざかるんですよね。巨人はこれまでシーズン1位でCSに出た時、2回しか初戦に勝っていないんですよ。あとは全て初戦を落としています。(ファイナルステージ通算の初戦成績は2勝7敗)。2014年に至っては阪神に4連敗して敗退している。一軍クラスの生きた球を初戦では対応できていないケースが多いんです。同じことが日本シリーズで起きないか心配です。

―体調を回復できるメリットよりも、実戦から離れることのデメリットが出がちなんですね。

実戦形式でトレーニングしても試合勘は養えないですからね。パリーグからソフトバンクがきたら、その投手陣にはなおさら対応が難しい。

―そしたら、セリーグもCSがあったほうが良かったのかもしれないですね。

いや、もしCSがあったらまくられている可能性もあります……(苦笑)。今の状況を見ていると結構危ないです。2014年の対阪神(4連敗)のようになりかねない。

巨人が調子の良かった時期は菅野と戸郷で2勝は計算できたんですけど、それができなくなったのが大きいですね。勝利を計算できない。サンチェスもいますが、1番手2番手という格ではないので。シーズン終盤だけの力を見ると昨シーズンの方が上ですね。去年は優勝争いの渦中のDeNA戦でクック(巨人)対今永(DeNA)で勝ったりしてましたから。あとは5,6回を投げて試合を作ってくれるメルセデスの離脱も痛いです。去年のポストシーズンは山口俊よりいいピッチングをしていましたから。

■リーグ全体で拮抗した勝負をする必要性

―独走するのもいいことではないのかもしれませんね。パリーグの場合、結局はソフトバンクが勝つにせよ対抗馬が毎年出てきますからね。今年も最終的には圧勝でしたが、途中まではロッテと競っていました。

2010年代に日本シリーズを制したセのチームは巨人だけなんですよね……。また、今年は言ってしまえば「CSがない=優勝以外に意味がない」シーズンじゃないですか。中日の落合監督黄金期や広島3連覇時代など一部を除いて、巨人以外のチームは「Aクラスに入れればいい」発想で、本気で優勝を狙ってないような感じもあります。今年はそういう意識の差が如実に出たと思っています。

―(ほかのチームが)最初から優勝を本気で目指していたら、違った結果になっていた可能性も?

2000年代後半に中日や阪神が巨人と拮抗していた頃のような本気度がないですよね。あるいは広島に黒田が復帰した時に「いくぞ!」という雰囲気になったような。

―スポーツなのでサイクルがあるのは必然ですが、「再建期」に甘えているといつまでたっても勝てないですよね。ちなみに、ゴジキさんから見てパリーグの王者であるソフトバンクのすごさはどのあたりでしょうか?

選手層の厚さはもちろんですけど、結局投打の柱は千賀と柳田という生え抜きなんですよね。お金があるのは事実ですが、育成も含めてどんどん主力を育てているのはすごい。他には外国人の使い方もうまいです。グラシアルやモイネロとか。

―なるほど。巨人の今後の補強戦略についても伺いたいところですが、今日はこのあたりで。ありがとうございました。

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!

光文社新書ではTwitterで毎日情報を発信しています。ぜひフォローしてみてください!