【32位】ビヨンセ・フィーチャリング・ジェイ・Zの1曲―燃え上がる女神の出立を、婦唱夫随で「社長」が盛り立てる
「クレイジー・イン・ラヴ」ビヨンセ・フィーチャリング・ジェイ・Z(2003年5月/Columbia • Music World/米)
※こちらはヨーロッパ盤CDシングルのジャケットです
Genre: R&B, Hip Hop, Funk
Crazy in Love - Beyoncé feat. Jay-Z (May. 03) Columbia • Music World, US
(Rich Harrison • Beyoncé Knowles • Eugene Record • Shawn Carter) Produced by Rich Har-rison and Beyoncé Knowles
(RS 118 / NME 82) 383 + 419 = 802
※33位と32位の2曲が同スコア
前回の「ヘイ・ヤ!」と同スコアながら、リリース時期が早かったため、ルールに基づき、こっちが上位に入った。その差はたった4ヶ月。そしてこちらも、すさまじいメガヒット。HOT100の1位を8週連続、トップ10内に15週もランクインして「この夏」をほぼ完全制覇した(そのあとの秋にアウトキャストが暴れた)。全英でも1位を取得した。
当曲はビヨンセのソロ・デビュー・アルバム『デンジャラスリィ・イン・ラヴ』の先行シングルとして発表された。すでにデスティニーズ・チャイルドの一員として、あるいは映画出演などでスターとなっていた彼女だが、しかしソロでの成功はまだ未知数だった。ゆえに幾度か、アルバムの発売予定が延期された。作り込みが続いていた。そうやって「さらなる強い曲」を模索していたビヨンセが、ソングライター/プロデューサーのリッチ・ハリソンと温め続けていたアイデアのひとつが、この曲だった。
ループする印象的なホーン・リフは、ソウル・グループ、ザ・シャイ・ライツの曲「アー・ユー・マイ・ウーマン?(テル・ミー・ソー)」(70年)からのサンプリングだ。ここに「オッ・オー、オ・オー~」という、これまた印象的なビヨンセのコールが繰り返される。歌の主題は、燃え上がるような恋に囚われて「おかしくなっちゃった」心根だ。だからとにかく、ドラマチックに、エモーショナルに歌は進み、情念のホーンが吹き上がる――というところに「社長」だ。冒頭からジェイ・Zが、見事なラップでビヨンセを盛り立てる。史上最強のパワー・カップルが協調した、最初のメガヒットがこの曲だ。
両者の共演は、前年のジェイ・Zのナンバー「'03ボニー&クライド」に続いてのものだった。ビヨンセとハリソンがおよそ3ヶ月間、ああでもないこうでもないと試行錯誤した果ての、レコーディングの最後の最後。ジェイ・Zは深夜の3時にスタジオ入りすると即興でラップして、一瞬でこれを決めた。所用時間は約10分だったという。
かくしてこの夏、世界中のいたるところでMVのビヨンセの動きを真似つつ「オッ・オー、オ・オー~」と歌う人が続出した。「04年に最も演奏された曲」とも呼ばれている。意外なところでは、トーキング・ヘッズの頭脳、あのデヴィッド・バーンが、エクストラ・アクション・マーチング・バンドとともに、05年のハリウッド・ボウル公演でカヴァーしている。オルタナティヴなサンバ調の演奏からの、メドレーだ。つまりまさに「神速で」米ポップ文化界の永久所蔵品となったがごときナンバーが、これだった。
(次回は31位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)
※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki