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【79位】ザ・ママス・アンド・ザ・パパスの1曲―「ここから遠い」楽園の永遠を、夢を見る哀切を代償に

「カリフォルニア・ドリーミン」ザ・ママス・アンド・ザ・パパス(1965年12月/Dunhill/米)

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Genre: Sunshine Pop, Folk Rock
California Dreamin' - The Mamas and The Papas (Dec. 65) Dunhill, US
(John Phillips, Michelle Phillips) Produced by Lou Adler
(RS 89 / NME 343) 412 + 158 = 570 

ご存じ「夢のカリフォルニア」との邦題で、ここ日本でも人気が高い曲だ。たしかにちょっと昭和歌謡っぽく、歌声喫茶のロシア民謡調でもある。マイナー・コードの哀調と合唱部風コーラスの印象からなのだが、ここが日本人の琴線に触れた。もちろん日本人以外の「カリフォルニアから遠いところ」にいる、世界中の多くの人々にも触れた。

のちにキャロル・キング『タペストリー』などの名盤を数多く手掛ける名プロデューサー、ルー・アドラー率いるダンヒル・レーベル最初の大ヒットが当曲だ。ビルボードHOT100では最高位4位、17週にわたってチャート内に留まる、息の長いヒットとなった。キャッシュボックスの年間チャートでは、タカ派のヒット曲「グリーンベレーのバラッド」と並んで堂々の1位を獲得。全英ではリリース当時は23位止まりだったのだが、しかし97年に9位まで上昇した。ビールのCMに使われたせいだ。

そんなふうに末永く愛され続けている最大の理由は「ここにはないものに焦がれる想い」を歌っているからだ。ゆえに前述の如く、曲想はカリフォルニア「らしさ」の対極にある。燦々と輝く太陽が「ない」場所に主人公はいる。冬のニューヨーク、曇天の寒い一日のなかで「もしロスにいれば、安泰であったかかったのになあ」とつぶやく。遠く離れた場所から、ただただ「カリフォルニアを夢見る」想いだけが繰り返される……。

女性2人、男性2人のグループのうちのカップル一組、ミッシェルとジョンのフィリップス夫妻がこの曲を書いた。そして当欄にはまとめ切れないほどの男女関係のもつれや軋轢を経たあとにグループは解散。74年に他界したキャス・エリオットを始めとしてメンバーは次々鬼籍に入り、これを書いているいま現在、地上に残っているのはミッシェルだけだ。女優でもある彼女は、デニス・ホッパーと一週間だけ結婚していたことでも知られる。まさに「サマー・オブ・ラヴ」の時代を、全身でもって生き抜いてきた彼女と仲間たちの、ひとかけらの輝きが永遠の生命を得たものが、この曲だったのかもしれない。

そんな曲なのでカヴァーに名演も多いのだが、79年公開の米同名映画サントラにも使われたアメリカ(バンド名)によるものが最も有名だ。またザ・ビーチ・ボーイズによる86年のカヴァーは、ザ・バーズのロジャー・マッギンに12弦ギターを弾かせるなどした「カリフォルニア・サウンドの王者」らしい貫禄の豪華ヴァージョンだった。ウォン・カーウァイ監督『恋する惑星』(94年)での使用は、多くの映画ファンの心に残った。

(次回は78位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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