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あらゆるものを浅漬けに。|パリッコの「つつまし酒」#60

人生は辛い。未来への不安は消えない。世の中って甘くない。けれども、そんな日々の中にだって「幸せ」は存在する。
いつでもどこでも、美味しいお酒とつまみがあればいい――。
混迷極まる令和の飲酒シーンに、颯爽と登場した酒場ライター・パリッコが、「お酒にまつわる、自分だけの、つつましくも幸せな時間」について丹念に紡いだエッセイ、noteで再始動! 
毎週金曜日、そろそろ飲みたくなる17時の更新です。

谷口さんの『スキマ飯』をまねしてみたら

 大好きな漫画家さんであり、個人的に飲み友達でもある谷口菜津子さんが、『スキマ飯』という新刊を出されました。自分をとことん幸せにするための、“レトルト以上・ごちそう未満!”なオリジナルレシピがたっぷり詰まった1冊。信頼できる酒飲みである谷口さんがそんなコンセプトで本を書いてしまったんだから、そりゃ~ぜひ味わってみたいレシピのオンパレードです。

 先日そのなかから、「いろんなものを浅漬けにしてみる」って回をまねしてみたところ、これが超楽しかった! 浅漬けってーと定番は、キュウリやニンジンやキャベツなんかの野菜類ですよね。ところが谷口さんはそれにとどまらず、豆腐にゆで玉子にチーズ、さらには、刺身用の赤エビまで浅漬けにしてしまってるんですね。その発想はなかった。で、実際に作って食べてみると、確かにぜんぶ美味しいんですよ。

 今回はさらに一歩踏みんで、スーパーへ行って目についた、自分なりに試してみたい食材をだーっと買いこみ、まとめて浅漬けにしてみました。というわけで、いざ浅漬け晩酌のはじまりはじまり~。

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食材ジャンルごとにビニール袋に入れて、「浅漬けの素」に漬けて一晩

今夜ばかりは浅漬けが主役

 お漬物ってそもそも、食卓の脇役としてちょこんとあるものですよね。決してセンターに陣取るようなタイプではない。でも浅漬け晩酌でだけは違う。主役であるからして、大皿にドサドサっと盛られ、食卓の真ん中にどーんと鎮座させてやる。この違和感からしてまず楽しいんですよね。
 で、どれからいこうかな~なんて迷いつつ、あれこれつまみながらお酒を飲む。「お、これはうまいぞ!」「え~と、こっちはもう作らなくていいかな」なんて、頭のなかでぶつぶつつぶやきながら。これがもう、最高に楽しい!

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浅漬けがこんなにも鎮座する珍しい食卓

 あ、ちなみに今回浅漬けてみた食材はこちらになります。

・アボカド
・赤ピーマン
・エシャレット
・新玉ネギ
・カマンベールチーズ
・島豆腐
・ゆでちくわぶ
・しらたき
・なると

 どうです? 後半へいけばいくほど異常性が増していくでしょう? 味が気になっちゃうでしょう? では、実際に味わっていってみましょうね。

ず〜っと楽しいのが浅漬け晩酌

 実際にはこの順番に食べたわけじゃありませんよ? あくまで、次はどれにしようと迷いながら食べ進めるのがこの晩酌の醍醐味。ですが、今回はなるべくわかりやすいよう、先ほど挙げた順に、味の感想を記していこうと思います。

 というわけで、まずは野菜類から。「アボカド」は、本のなかで谷口さんも太鼓判を押していた食材。「大トロ」とか「クリーム」といった単語を思い起こさせるとろりとした食感と、ぎゅっと濃縮された旨味がたまりません。というか基本的に、浅漬けって、食材の味がぎゅっと濃くなるんですよね。これは全食材共通。ただし、アボカドは特に浅漬けの素が染みこみやすいようで、今回のなかでいちばんしょっぱくなってしまいました。漬けるのは数時間でいいかも。
「赤ピーマン」は定番的な美味しさ。ただ、前回漬けてみたパプリカのほうが、肉厚な感じで好きだったかもしれません。「エシャレット」も絶妙な仕上がり。ほんのりとした辛味と塩気で、味噌をつけて食べるのとはまた違うおもしろさがあります。「新玉ネギ」も良かった! 辛味が適度に抜け、ジューシーで食べごたえあり。これはこの季節に定番化してもいいかもしれない。

「カマンベールチーズ」は文句なしですね。みしっとした食感になり、そこにチーズのコクや旨味が凝縮され、かつ絶妙な塩気が加わっている。これ、ご飯のおかずにもかなりいいかもしれませんよ。

 後半の、おでんのなかに入ってそうな食材ゾーン。「島豆腐」がまず素晴らしい。もともとしっかりとした食感の豆腐ですが、さらに身が締まってあっさりとしたチーズのよう。濃い大豆の味も頼もしい。これ、個人的に殿堂入りかもしれないな~。と思ったら、「ゆでちくわぶ」も素晴らしい! 塩気の具合がちょうどハマってるし、こんなにも小麦の味を感じられるとは。え~い、こっちも殿堂入りだ! 「しらたき」、いいですね~。ぷりんぷりんの食感にそこまで変化はないけれど、きちんと味は染みていて良い一品おつまみになっています。
 こりゃ~今夜は全勝か? と思いきや、ラストの「なると」には、なぜか他の食材ほどの変化はなく、次からは素直にラーメンにでも浮かべて食べようと思いました。

 ちなみにおもしろい発見もひとつ。後半、違う浅漬けどうしを組み合わせたりしながらも食べていたのですが、豆腐とアボカドを同時に食べると、どこかカプレーゼなんかを思い出させる洋風な雰囲気になるんですよね。そこで思いたち、たらっとオリーブオイルを回しかけてみたところ……本日の優勝者が決定いたしました。

パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。著書に『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)など。Twitter @paricco


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