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登場!ノンアル酒場|パリッコの「つつまし酒」#107

居酒屋でお酒が飲めない時代

 令和3年4月25日から、東京、大阪、兵庫、京都の4都府県を対象に、昨年から数えて3度目となる「緊急事態宣言」が発令されました。しかも今回の要請には「飲食店での酒類提供禁止」という内容が含まれています。
 もちろん、お酒が嫌いな人がいるのはわかるし、お酒というのは飲めばどうしても気がゆるむものだから「当然だ」という意見もごもっともです。一方で、こうして「つつまし酒」なんていう連載をやらせてもらっている僕のような酒飲みからすると、これは寂しくて悲しくて切ない事態。一時的なことなのでがまんはしますが、もしもこんな状態が一生続くなんて言われたら、それは僕にとってこの世の終わりにも等しいものです。
 そもそも、飲食店におけるウイルス感染最大のリスクは、複数人がマスクをしないで喋りながらの会食をすることだと思います。ならば、なにもお酒を提供禁止にしなくても、他に方法はあるんじゃないか? 政治家のみなさんやメディアはもっともっと大々的に「飲食する瞬間以外はマスクをつける」ことの大切さを打ち出したほうがいいと思うし、なんなら入店人数の制限を設けてもいい。「最大ふたりまで」とか、なんだったら「ひとり客のみOK」でもいい。
 そりゃあ僕も、友達とわいわい酒場で飲む酒の楽しさは知っています。でも、今はそういうことをがまんしなきゃいけない時期だとわきまえている。一方で、この連載ではしつこくしつこく書いてきましたが、「ひとり酒」の時間というのもまた、酒飲みにとってはこの上ない幸せじゃないですか。別にいつでも誰かとしゃべりたいわけじゃない。カウンターで黙々と、「これ、うまいな」「次は何にしようかな?」なんてことだけを考えながら飲む時間も、僕の人生には必要なんですよね。むしろこの状況、ひとり飲みの良さを多くの人が再認識するチャンスにもなりえたんじゃないかな? なんて勝手なことを、たくさんの大好きな飲食店が苦労をしているのを見ると、思ってしまったり。

酒=悪が今の風潮

 また、最近はついに「路上飲み」や「公園飲み」までが諸悪の根源のように言われていますね。ほんの少し前までは、僕とスズキナオさんで始めた「チェアリング」という遊びが、コロナ禍の今に合った息抜き法だということで、多くの媒体に取材をしてもらったりもしました。が、突然時代の風潮が「公園飲み言語道断!」となり、もはや我々ふたりが悪の権化、怪人酒男と呼ばれる存在になりはてるのも時間の問題でしょう。
 とはいえ、外飲みを悪と考える人々の気持ちもわかるんです。僕らがいくらマナーに最大限注意し、広々とした公園内で人のいない場所を探し、お酒はそれとわからないように缶ホルダーに入れ、「ほんの少しだけここで飲ませてください。飲み終わったらすぐに移動しますんで」という気持ちで飲んでいても、TVから流れてくる映像はショッキングなものばかり。駅前の路上や公園で、大人数の団体がマスクもせずに密集し、酒を飲んで大騒ぎしてそのままゴミを放置していく。こんなシーンを見てしまったら、一瞬「禁止にしろ!」って、僕でも思っちゃいますもん。
 それにしても、僕が生きてきたなかでかつてここまで酒に逆風が吹いた時代はなかった。そういう意味では今、とても貴重な経験をしているとも言えるのかもしれませんね。

ノンアル酒場「とおるちゃん」

 当然、今回ばかりは営業を休止せざるをえない居酒屋が多いなか、我が地元、石神井公園が誇る人気酒場「とおるちゃん」はやってくれましたね。
 これまでもさまざまなアイデアでお客を楽しませ、常に進化を続けてきたお店。さっそく定食用の食器を買いそろえ、メニューを開発し、昼も夜も「定食屋とおるちゃん」としての営業を開始。さらに夜営業では、出せるメニューは限られるものの、従来どおりのおつまみメニューも頼める。
 それだけならば珍しくはないかもしれないけれど、「酒屋さん応援ドリンク」として、多数のオリジナル「お酒風ノンアルドリンク」までもがメニューに加わったんです。つまり「ノンアル酒場」。逆境すらもアイデアで楽しんでしまうこのお店らしい試みに興味を持ち、すぐに行ってみることにしました。
 確実に人生初と思われる「居酒屋でお酒を飲まない」という珍しい夜。さてどうだったのかというと、結論から言ってこれがけっこう楽しかったんですよね。

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やってきました、とおるちゃん

 まず一杯目はノンアルコールビールから。昨今のビール会社の企業努力はすさまじく、極力のどで味わう感じでゴクゴクゴクといくと、かなりビール気分。

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おつまみもしっかり頼みます

 おつまみには、冷製調理された「牛タン先刺」を注文。こういうものを酒なしで食べるというのもなんだか不思議な感覚ですが、いつもなら2、3切れ食べるとあとは惰性になってしまうところ、酔っぱらってないので最後のひと切れまでじっくりと味わえました。サクッとしてムチッとして、肉の爽やかな美味しさにネギ塩だれがマッチして、うまいなぁ。これまで酒場のつまみをいかにぼんやりと味わっていたのかを反省するなぁ。

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お刺身も頼みましょう

 続いては、お刺身の「ひとり飲み限定盛」。いつでも間違いないクオリティのお刺身が、たっぷりとのって800円。やっぱりすごいな、とおるちゃんは。さてこのへんでホッピーか、刺身だから日本酒にでも移行するか。と思いきや、そうだ、今日はノンアルなんだった。そこで、「ノンアルガリガリくんサワー」「ノンアル梅干しサワー」「ノンアル国産レモンサワー」と3種類あるオリジナルサワーから、レモンサワーをチョイス。

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あくまでノンアルコールです

 やってきたのは、大迫力の見た目は完全にレモンサワー。これまたのどで味わうように(ノンアルはのどで味わうのがポイントですね)ぐいっと行くと、まぁ炭酸水に氷とレモンがたっぷりと入っているだけではあるんでしょうが、シチュエーションとも相まってかなりレモンサワーですよ、これも。なんだか若干酔っぱらってきた気すらする。
 お刺身のなかでも、シメサバや味噌たっぷりの甘海老なんかは、さすがにお酒があってほしいなぁと思いながら食べましたが、それはそれとして楽しく、いろいろと考えるきっかけにもなった体験でした。
 冒頭で、お酒が飲めないなんてこの世の終わり! 的なことを言いましたが、よく考えるとウイルスの影響以前に、僕などいつドクターストップがかかってもおかしくない男。ただ、もしそうなってもノンアル飲みがこんなに楽しいなら、がまんできそうかもしれないな、と思ったり。……いや、どうかな? ……いや、するしかないか。

パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。
2020年9月には『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)という2冊の新刊が発売。『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。Twitter @paricco


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