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髙津臣吾著『理想の職場マネージメント』よりプロローグ、目次を紹介

東京ヤクルトスワローズ、苦しい闘いが続いています。引き分けを挟んでの12連敗の時はどうなることかと思いましたが、交流戦に入り3連勝を達成。ようやくエンジンがかかってきました。とはいえ、もともと髙津監督は143試合を見据えての選手起用、采配を行っていると思います。2020年は7月12日に首位に立ちましたが、結局息切れし、かなり差をつけられての最下位。そうならないよう、選手にも無理をさせず、慎重に事を運んでいるように感じられます。長いシーズン、どのチームにも調子の波はあります。最後に笑うのはどこか? 期待して見守ってまいりましょう。

本記事では髙津監督の新刊『理想の職場マネージメント』より、プロローグと目次を抜粋、紹介します。

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プロローグ

 2022年の日本シリーズ、スワローズは2勝4敗1分でバファローズに敗れた。

 悔しい。とにかく悔しい。その思いを抱えながら2023年のシーズンに突入しているのだが、日本シリーズで戦った7試合の内容をほとんど覚えていないのだ。日本一になった2021年のことはよく覚えているのだが――。

 もちろん、第2戦で内山壮真が代打でスリーランを放ち、試合を振り出しに戻したことだとか、第3戦で1番に座った山田哲人が宮城大弥(ひろや)投手からスリーランを打ったとか、印象的な場面のことは記憶にある。ところが、細かい内容となると、どういうわけか記憶が薄い。

 シリーズを戦っているうちは、試合後のコーチミーティングもしっかりやるし、試合内容も反芻している。最前線で指揮を執っていたのだから、覚えていないはずはないのだが、日本シリーズが終わって1週間ほどの休みを終え、秋季キャンプが始まった時点で内容が抜け落ちていた。「あれ、細かい展開はどうだったっけ? リリーフ、誰から誰につないだっけ?」という状態になっていた。試合の記憶が薄くなることは滅多にないので、戸惑ってしまった。

 なぜだろうか?

 あまりに悔しかったせいかもしれない。

 あるいは、自分の感情を超えたもの、なにかシリーズの「流れ」のようなものに飲み込まれ、記憶が曖昧になってしまったのかもしれない。

 第3戦を終えて、2勝1分。シリーズを優位に運んでいたわけだから、勝ち切らなければいけなかった。

 この悔しさをどう受け止め、どう成長に結びつけるか。それが僕の仕事になった。

 2023年のキャンプインを前に、僕は選手たちにこう話した。

「去年の悔しさを晴らせるのは、今年しかないからね。ただし、だからといって必要以上に入れ込む必要はないから。今年しかできないこの挑戦をみんなに楽しんでほしい」

 勝つことは大切だが、毎日の職場であるクラブハウス、そしてグラウンドで楽しむことも大切だ。それが野球という仕事の基本である。選手たちにそのことだけは伝えたかった。

  さて、一軍監督として4年目のシーズンを迎えることになる。6位、優勝、優勝と成績が安定してきたので、ファンのみなさんの期待が高まっているのは承知している。今年も勝ちにいくのはもちろんのことだが、来年以降もスワローズが安定した成績を残すことも重要だ。そのためには、「収穫しながら、種を蒔く」ことを並行して進めていかなくてはならない。目の前の勝利に全力を尽くすのはもちろん、同時に将来の可能性も広げたいのだ。

 今回は、自分がどういった思考のプロセスを経て、「強いスワローズ」をつくろうとしているかを書いてみたい。

 そのターゲットに近づくためには、成功への青写真――「ブループリント」をつくることが大切だ。青写真を現実のものとするために、どのようにマネージメントをしていくか、球団の財産である人材をどう育成していくのか、可能な範囲でファンのみなさんにご紹介できたらと思う。

 プロ野球の試合は年間143試合、どれひとつとして同じシチュエーションになることはない。それでも、どんな状況になっても対応できるよう、キャンプから練習を積み重ねていく。キャンプで練習しても、シーズンでは一度も使わないプレーだってある。そうした準備があるからこそ、監督、コーチ陣は最適な決断を下せるようになる。

 野球とは準備のスポーツなのだ。

 それをファンのみなさんにご理解いただき、より深く野球を楽しんでいただけるようになれば幸いである。

2023年4月  東京ヤクルトスワローズ監督 髙津臣吾

こちらの記事でも新刊の内容が読めます。

目  次

プロローグ  

第1章 ブループリント――青写真のつくり方

オフに考えをめぐらせる/2023年、4つのメッセージ/チームの「核」を決める/先発投手の整備/年齢バランス/「ゆとりローテーション」/ブルペンのブループリント/序列/野手のブループリント/村上宗隆について/個性を重視して、ベンチの層を厚くする

第2章 書く、話す、気づきを与える

手書きのメモ/話す前に整理する/話す順番を考える/チームスローガン「さあ、行こうか!」/「再生工場」の言葉/「気づかせ屋」

第3章 同じ方向を向くために必要なこと

優勝旅行/面白さの質の変容/同じ方向を向くということ/良い組織になるために必要なこと/組織としての連動性/情報の共有化/正しい情報は、正しい準備につながる/新人の能力を見極める/意見をぶつけ合い、理解すること

第4章 人間関係に時間をかける

手間を惜しまない/遠慮は要らない/質問することの効果/リーダーは一歩引く/コーチに任せること/選手との関係をどう築くか/選手たちの世界には入り込みすぎない/職場のムードを大切にする

第5章 人事

チームバランスを考える/石川と青木の影響力/特殊な選手/中核を担う選手たち/外国人投手は繊細/マクガフが果たした役割/班長をつくる/班長、コーチになる/肩書は重要/打撃について

第6章 若手の成長について僕が考えていること――投手編

全体像/選手の能力を把握する/新戦力は、良いところを見つける/欲を持て/様々な「耐久性」/競争を仕かける手段はある/「ど真ん中に投げろ」/投手の視点、捕手の視点/視点を変えることの重要性/木澤自身の成長/若手は必ず失敗するもの/若手の育成には温かい目を

第7章 若手の成長について僕が考えていること――野手編

8つしかないポジション/長岡抜擢の裏側/長岡を呼び出した日/内山壮真のチャレンジ/内山のブループリント/二刀流の実践/古田さんが内山に指導する意味

第8章 成長するために必要な力

若手に望みたいこと/チャンスは平等にめぐってくるわけではない/「ヤング・スワローズ」の躍進/多彩な視点/スランプ時のアドバイス/成長する選手/試す力/育成に必要なのは、指導者の我慢

第9章 技術を伝える

レジェンドの知恵を集める/レジェンドの視点/技術の伝承の難しさ/アイデアは過去の経験にある……かもしれない/変化球には流行がある/小川泰弘のバント/コンディショニングについて/データとして表れたケガの減少/休み絶対主義/無理はしない/長時間練習のメンタリティ

第10章 試合中に考えていること 

秘密のサイン/「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし」/試合中のインテリジェンス/横から見るストライクゾーン/継投に対する迷い/迷いは選手に伝わる/裏目に出た時は……/ネガティブなことを考えつつ指揮を執る/選手が想像を超えてくれた時/目に見えない流れ/勝って兜の緒を締めよ

エピローグ  

2022シーズン 全試合戦績  

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