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【43位】ザ・ローリング・ストーンズの1曲―脱進歩・始原をたどって旅した先に「未来の普遍」があった

「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」ザ・ローリング・ストーンズ(1968年5月/Decca/英)

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※こちらはアメリカ盤シングルのジャケットです

Genre: Rock, Blues Rock
Jumpin' Jack Flash - The Rolling Stones (May, 68) Decca, UK
(Jagger/Richards) Produced by Jimmy Miller
(RS 125 / NME 131) 376 + 370 = 746

連続してストーンズだ。しかも奇遇にも、これも68年。「シンパシー・フォー・ザ・デヴィル」に先立つこと7ヶ月、バンドの「起死回生」を図る1曲として、シングル・リリースされた。彼らの数多いレパートリーのなかでも、1、2を争う人気ナンバーであり、発表後、すべてのツアーで漏れなく演奏されている「定番曲」でもある。

と、それほどまでに聴き手とバンド双方から深く愛された理由は、彼らがここで「ブレイクスルー」できたことと深く関係している。サイケデリック時代の迷走を経て、ルーツであるブルースに回帰することで、唯一無二の「ストーンズ節」を確立していく、その第一歩となったのがこの曲だったからだ。名プロデューサー、ジミー・ミラーと組んで初めて取り組んだアルバム『ベガーズ・バンケット』用のセッションから生み出され、同作の露払いとして単独リリースしたところ、「ペイント・イット・ブラック」(60位、66年)以来の全英1位を奪取。ビルボードHOT100では3位のヒットを記録した。

この曲の魅力とは「古くさく、同時に新しい」ところだ。言葉遊びのような歌詞は、ブルースの伝統の上に立っているのだが、あまりにも極端な「簡潔さ」ゆえ、まるで2010年代のラップ・ソングみたいな箇所もある。「ジャンピンジャックフラッシュ、ガスガスガス」なんて、普通あまり、繰り返しはしない。同様の構造は、ギター・リフにもある。「サティスファクション」を簡略化したようなフレーズなのだが「あまりに簡単で」一度聴いたら一生忘れられなくて当たり前。しかしレコーディングではひと工夫あって、それがこの独特の音色となった。キース・リチャーズはオープン・チューニングのアコースティック・ギターのみを使用、カセット・テープに録音したフレーズをスピーカーで大きく鳴らし「音が荒れた」状態のものを、再度テープに取り込んだ。この発想と嗜好性は、サンプラーを「楽器」ととらえた90年代初頭のヒップホップ・アーティストとほぼ同じだ。

さらには、文学もあった。近年の研究では、ウィリアム・ブレイクの詩「ザ・メンタル・トラヴェラー」と、当曲の歌詞の類似についての指摘がある。ヴァース3における、頭上の棘付き冠や出血する両足といったイメージが、ブレイクの同作と共通している。

ライバルのビートルズが、音楽的豊穣さや実験性で新天地を創造したのに対して、ストーンズはまったく逆に「やることを絞った」。文学のみを手に、ブルースの河を遡っていった。そこで手にした黄金の最初の一片こそが、超特大のこれだった。

(次回は42位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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