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世界的眼科医が警告「患者が”見ることの意味”を理解しないと満足できる視力は得られない」:『白内障の罠』とは何か|深作秀春

世界的眼科外科医である深作秀春氏。前著の視力を失わない生き方緑内障の真実に続き、新刊『白内障の罠において、白内障の予防のための栄養面での留意点や、日常生活での注意点、さらに手術法の歴史や、自らも開発に関わった最新治療法などについて、正しい情報を伝える。
また、同書では、プロの画家でもある著者が「見えるとは何か?」について解説する。なぜ「見えるとは何か?」を知ることが大切なのか――新刊から「はじめに」を抜粋し伝える。



はじめに――目の治療に関する情報には注意が必要


誰もがかかる、白内障老眼、さらに日本人に多い近視については、身近な視力の問題ですので、皆さんも関心が深いことでしょう。

しかし、これらの手術療法についての真の情報は知られていません。

ちまたにはインターネットでの宣伝やフェイク情報、また自費出版での白内障手術の宣伝本などがあふれています。

このような情報が満ちあふれている現状は、人々が正しい判断をするためには問題だらけです。宣伝文句にのって間違った判断を選び、後悔する方が多くいます。

前著の視力を失わない生き方緑内障の真実(ともに光文社新書)や視力を失わないために今すぐできること(主婦の友社)などの私自身の著書から、「真の」最先端情報を得て、自らの目を守る知恵を得た多くの方々からお願いされました。この、誰でもかかる白内障とその手術治療法や、近視などの屈折矯正手術の真実について、正しい情報を教えてほしいと。

私は絶対に自費出版のライターが書くような宣伝本は出しません。私が書くのは、多くの人々に真実を伝えたい、との私の思いからで、きちんとした出版社からの執筆依頼があった際に自らが全てを執筆するのです。

本を読む時は、読者の方々も十分にご注意ください。なぜなら、家庭の医学コーナーにある眼科本の宣伝情報によって、よいと勘違いして訪れた施設で手術に至り、失敗してしまって後悔して、私の施設に「治してほしい」と来る方がじつに多いのです。

目と知恵を使い、真実の情報を得てください。あなたの目は2つしかないのです。情報の8割から9割が入るとされる目です。こんな大切な目の治療をおろそかにしてはいけません。

「見るということ」の意味を知る重要性

 

つい最近ですが、白内障を放置していたので、その関連で目の中の水の流れが悪くなり、眼圧が上がり、緑内障での視神経障害が末期になり、かなり見えなくなった方が来院しました。

白内障で見えないと思っていたら、じつは重症の緑内障であったという方は数多く来院されますが、そのような方々の中でも、この患者は末期緑内障であり、強い視力障害が出ていました。

その方から興味深い質問がありました。

もともと地図を見るのが好きな方でした。彼は「視力障害が強くなってから、本を読もうとすると、字がよく見えずに、本の上に地図が見えるんです」と、自分の不思議な幻視について私に尋ねてきたのです。

これはじつは、重症の視力障害者の4分の1ほどの方々が普通に体験される幻視です。

この現象は、脳が出す勝手な電気信号が原因で見える幻視であり、シャルル・ボネ症候群(CBS:Charles Bonnet Syndrome)ともいわれます。

なぜ、本来そこにないものが見えるのでしょうか?

これは、「見るということは脳の認識行為」であり、「脳はたやすく騙(だま)される」からです。この興味深い幻視については本文で詳細に解説します。

また、私はずっと昔の20代の早い時期にRK(Radial Keratotomy=放射状角膜切開術。レーシックよりも古い近視矯正手術)をアメリカで習ったのち、レーシックや有水晶体眼内レンズなどに開発者として関わり、つねに世界の中のトップで活動してきました。

その中で、日本国内での屈折矯正手術という自費の手術が、美容外科的な経済的活動の一環となり、本来の、患者の視的生活の充実と快適さを高めるという目的を満たさない手術が行なわれ、評価を落としているのを見ています。

こういったことは、白内障の多焦点レンズ手術のような、裸眼で見えるようにする屈折矯正を含む、白内障手術でも見られます。

ちまたには、多焦点レンズの本質的な特性を知らないで、多焦点レンズ移植術を宣伝して移植している施設は多く見られます。

このために、本質的な「見ることの意味」を知らずに手術をされた患者は、単に表面的な遠方視力だけがよくなって、近くや中間が見えないことになったり、手術直後の視力はよくても、年数の経過とともにどんどん術後視力が落ちる、などの問題を起こし得ます。

残念ながら宣伝本の広告につられて、表面的な甘い話に乗って多焦点レンズ移植術を他院で受けて、その結果に落胆して当院に助けを求めにくる患者をじつに多く診てきました。

これらの経験から、本質的な「見るという意味」を、眼科外科医とともに患者もしっかりと理解していないと、生涯にわたり満足できる視力を得られないのだと強く思うのです。

手術後に心から満足するために


そこでこの本では、これまでの拙著以上に、本質的な「見えるとは何か?」という話題を多方面からひもといて解説します。

脳の解釈によって成り立つ「見る」という行為について、「見ることの本質」から理解しないと、「本当の意味でよく見える」治療ができないのです。

つまり、近視矯正手術や老眼手術、さらには白内障手術などでも、目の機能全般や脳による認識を十分に考慮した手術を計画しないと、患者の視力への満足度を上げることはできないのです。

もちろん白内障手術などの手術治療においては、手術の技術が一番重要であり、技術によって術後視力に差が出るのですが、「見ること」が脳の活動であることを理解しないと、手術後の視機能では患者の望むよい結果が出ないのです。

逆のいい方をすれば、患者自身が「見ることの本質」を理解して、「自分の望む見え方は何であるか」を主張できないと、いくら最高の手術技術をもってしても、患者を心から満足させられないのです。

見えるということの本質を理解していただいた上で、続いてさらに、世界最先端の白内障手術や屈折矯正手術について言及して、「本質的に重要なものは何か」についてお話ししたいと思っています。

そこまで理解できれば、ご自分の求める「真の白内障手術」と、「最もふさわしい近視屈折矯正手術」などを考えられると思うのです。

人が得る情報の8割から9割は視覚から受け取るといわれています。そのように大切な目です。しかもたった2つしかない目です。安易な宣伝情報やフェイク情報に惑わされて判断することは恐ろしいのです。

誰もがかかる病気だからこそ、正しい知識が必要ですし、またじつに複雑で面白い「見る世界」について、深い知識を知ることは、知的好奇心を刺激することでしょう。

私は眼科外科医であるとともに、プロの画家でもあります。また芸術を医学的に分析する研究者であり、美術評論家でもあり、そうした執筆も多いのです。つまり、生涯をかけて「見えるということの本質的な意味」を追求して研究してきたといえます。

はじめは少々難しく感じるかもしれません。ですが、専門的な内容をできるだけ分かりやすく、目の前のあなたに語るように解説していきますので、一緒に学ぶように読んでいただけたらと思います。

さらにいえば、「見るとは何か?」といったじつに興味深い命題を、この本を読むことで私とともに追いかけ、見るということの本質がこんな面白いことだったのかと、読了後に感じていただけたらと思います。

この本での知識が、皆さんの生涯にわたる、最もよい視力を提供できる一助になることが最大の願いです。

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著者プロフィール



深作秀春(ふかさくひではる)
1953年神奈川県生まれ。運輸省航空大学校を経て、国立滋賀医科大学卒業。横浜市立大学附属病院、昭和大学藤が丘病院などを経て、1988年深作眼科開院。眼科専門医。米・独などで研鑽を積み、世界的に著名な眼科外科医に。白内障や緑内障などの近代的手術法を開発。米国白内障屈折矯正手術学会(ASCRS)にて常任理事、眼科殿堂選考委員、学術賞審査委員、学会誌編集委員などを歴任。世界最高の眼科外科医を賞するクリチンガー・アワード受賞。ASCRS最高賞を20回受賞。深作眼科は日本最大級の眼科として知られ、約25万件の手術を経験。画家でもあり個展を多数開催。多摩美術大学大学院修了。日本美術家連盟会員。『視力を失わない生き方』『緑内障の真実』(光文社新書)、『眼脳芸術論』(生活の友社)など著書多数。



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