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教養としてのロック名曲ベスト100【第15回】86位は…!? by 川崎大助

「ラスト・ナイト」ザ・ストロークス(2001年11月/RCA・Rough Trade/米)

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Genre: Garage Rock Revival, Indie Rock
Last Nite - The Strokes (Nov. 01) RCA•Rough Trade, US
(Julian Casablancas) Produced by Gordon Raphael
(RS 478 / NME 5) 23 + 496 = 519 
※86位、85位が同スコア

ゼロ年代初頭のガレージ・ロック・リヴァイヴァルを先導した彼らのデビュー・アルバム『イズ・ディス・イット』(『教養としてのロック名盤ベスト100』では56位)からの第2弾シングルがこれだ。まずイギリスで受けて、インディー・チャートでは1位、全英では14位(米ビルボードHOT100にはランクインせず)を記録。この曲の人気がアルバムの成績を牽引し、同作は全英2位まで伸びた(米では33位)。

というこのナンバーについてまず言うべきことは、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの歴史的名曲「アメリカン・ガール」(76年)のパクリだという事実だ。冒頭から最後まで鳴り響き続ける爽快なギター・リフおよび、基本構成もよく似ていて、これについてはメンバー自身がインタヴューの席で告白もしている。しかしそれを読んだペティ本人には爆笑の末に許されて(?)彼のツアーで前座を依頼されりもした。

これらの点から、パッチワーク・ソングであり、アイドル・バンドの「若気の至り」ナンバーだ、という見方は否定できない。ヴォーカルのジュリアン・カサブランカスによる歌詞も荒っぽい。「落ち込んでる」と言った昨夜の彼女の言葉に「ぴんと来なかった」主人公の、痴話喧嘩後の愚痴めいた独白だ。自分を棚に上げ世の相互理解不全を嘆いたりもするが、すべて尻切れトンボに投げ出される……だがしかし、そのドライな「語り口」には独特のチャーミングさがあった。それが歴史的に無二のタイミングで世に放たれた。

アルバムが7月に発表され、11月にこのシングルが出るまでのあいだに、彼らの地元、ニューヨークでは9・11が起こる。ゆえに「Last Nite(昨日の夜)」のちょっとした恋の行き違いに、聴き手が胸かきむしられるようなセンチメンタリズムを感じ取っても、不思議はなかった。それは「二度と戻っては来ない日々」の転写ともとれたから。

元来ロックの歌詞には「今夜(Tonight)」を歌うものが、伝統的に、圧倒的に多い。「これから来る、今日の夜」つまり近未来を指しているわけだ。「ここから先」への素朴な期待や願望こそが、ポップ・ソングを下支えしていた……米作家マイケル・シェイボンは、パワー・ポップを題材として、このテーゼの出どころを喝破した。「なぜならば、先へと繰り延べていられるあいだだけは『その夜は完璧であり得る』からだ」と。

だがこの曲に「Tonight」はない。見事に後ろ向きだ。しかし完璧な未来が見えなくなった瞬間に、それこそが人々の琴線をとらえ得た。立ちのぼる黒煙を眼前にして。

(次回は85位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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