日本は自民党の〝一党支配〟のままでいいのか!? 有権者が考えておきたいこと
政党とは本来、政権を目指して集まった集団です。つまり、与党になって政策を実現するからこそ存在価値を持つわけです。しかし、日本の野党は歴史的に政権を取る意志に乏しく、「常に弱い」道を歩んできました。一方、自民党は昭和30年に結成されて以降、野党であった期間は5年も満たしていません。なぜ、日本の野党は勝てないのでしょうか。これは言い換えれば、なぜ、自民党が勝ち続けているのか、という問いでもあります。民主政治とは、選挙による政治です。そして民主政治には、健全な批判勢力が必要不可欠です。そのために、いま私たち有権者ができることは何でしょうか。政治を諦めないために、歴史から何を学ぶことができるのでしょうか。憲政史家の倉山満さんは、このたび『なぜ日本の野党はダメなのか?』を上梓しました。発売を機に、「はじめに」を公開いたします。
民主政治とは、選挙による政治です。民主政治をやる以上、最低でも二つの選択肢がないと選挙の意味がありません。
別に私は二大政党制論者として拘っているわけではなく、三つ目の政党が存在する余地があって良いと思います。ここで強調したいのは、最低でも二つのマトモな政党が存在しないと、選挙の意味がないことです。マトモな選択肢が一つあればいいと油断していると、いずれゼロになります。事実、そうなりました。
日本の現代政治は、自民党を抜きには語れません。一九五五年に結党してから、自民党が野党になった期間は五年もありません。民主国では驚異の勝率です。自民党がなぜこんなに強いのか、多くの分析がありますが、最大の理由は「野党が弱いから」です。
長らく、日本社会党は自民党の一党政権を支えてきました。これは皮肉ではなく、実際に癒着していました。
代わった民主党こそ政権を取る意志を示し実現しましたが、そこまで。再び野党に転落してからの民進党や立憲民主党は「自民党最大の支持勢力」に他なりませんでした。これは癒着していたのではなく、本当に無能だったのだと思います。その証拠に昨年(二〇二一年)の総選挙の敗北で枝野幸男立憲民主党代表が退陣した時、ある自民党の長老は「我々は守護神を失った」とつぶやいたとか(『産経新聞』令和三年十一月二日付)。自民党の弱点などいくらでもあるのに、常に頓珍漢な批判しかしてこない。自民党としたら有権者の批判に対して「では立憲民主党に政権を渡していいのか」と脅迫することができます。
実際、令和元(二〇一九)年の参議院選挙では当時の安倍晋三首相(自民党総裁でもある)は「あの悪夢の民主党政権に戻していいのか」と有権者を脅し、議席を守りました。
自民党と社会党はどちらも一九五五年に結成されたので、この両党が二大政党である体制を「五十五年体制」と言います。その特徴は、野党第一党の社会党に政権を取る意思も能力もないことです。だから二大政党制ではなく、「一・五大政党制」と言われました。そして民主党の政権転落以後は「新五十五年体制」そのものでした。
自民党の民主国家としては驚異的な政権独占は、無能な野党に支えられての賜物なのです。これを改善する処方箋はないのか。私はその病原体の究明と解決を歴史に求めました。
自民党は、戦前の立憲政友会の後継政党です。政友会も一九〇〇年の結党から政党政治が力をなくす一九三二年まで、純然たる野党の期間は七年だけ。一党優位の元祖です。なぜそんなに強かったかの分析は本文に譲るとして、そんな政友会の優位は大正末期には崩されました。
政友会の横暴に対し新党を立ち上げたのが桂太郎。桂が作ったのは立憲同志会です。桂の死後に志を継いで憲政会を「苦節十年」の末に政権につけたのが加藤高明。そして濱口雄幸が政友会を凌駕する立憲民政党を創設しました。
二大政党の試みは「憲政の常道」として成就しました。しかし、すぐに破れ、敗戦後に再建が試みられますが、挫折します。
本書では、「なぜ日本の野党はダメなのか?」を歴史に遡って考察します。
本書目次
【第一章】日本の野党の源流を探る――コロナ・幕末・自由民権
【第二章】なぜ「憲政の常道」は確立されなかったのか
【第三章】自民党が与党であり続ける理由
【第四章】日本社会党――史上最悪の野党第一党
【第五章】なぜ自民に代わる政党が誕生しないのか?
【第六章】政権担当能力を兼ね備えた政党は現れるのか
著者プロフィール
倉山満(くらやまみつる)
1973年、香川県生まれ。憲政史研究者。(一社)救国シンクタンク理事長兼所長。96年、中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程を修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤研究員として、2015年まで同大学で日本国憲法を教える。著書に『検証 財務省の近現代史』『検証 検察庁の近現代史』(以上、光文社新書)、『政争家・三木武夫』 (講談社+α文庫) 、『嘘だらけの日米近現代史』『帝国憲法の真実』(以上、扶桑社新書)など多数。現在、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」を主宰、積極的な言論活動を展開している。