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『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』のこと| パリッコの「つつまし酒」#122

「つつまし酒」の本第2弾、出ます!

 ありがたいことに、この連載の書籍化第2弾、
『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』
が、来たる8月25日に発売されることになりました。

 前作『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』は新書という形態でしたが、今回はいわゆる一般的なソフトカバーの単行本。サイズもグッと大きくなり、その全面に漫画家の谷口菜津子さんによる美麗なイラストが印刷された、素晴らしすぎる装丁となっております。
 加えて、大人気の酒テロクリエイターであり、最近は作家活動も盛んな酒村ゆっけ、さんに「私のつつまし酒」という特別寄稿をいただき、さらに信じられないことに、その著書や映像から酒場とはなんたるかをたくさん学ばせてもらった、大尊敬してやまない太田和彦先生に帯コメントをいただきました。こんなことが自分の人生に起きるなんて! にもほどがあるってもんですよ、本当に。
 詳しい内容に関しては、この連載の書籍化ということで説明不要でしょうか。が、書籍化にあたり、すべての原稿に徹底的に加筆修正は加えてあります。作業をしながら自分でも、一応一生懸命書いたつもりなのに、こんなにも直すところがあるもんか! と驚いたくらいで。

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ぜひ帯を外してもご堪能ください

コロナ禍におけるある酒飲みの奮闘記

 ところで本書には、2020年4月3日から2021年3月12日の間に公開されたぶんのエッセイが収録されています。つまり、まさにコロナ禍ドンピシャ。なので、ぜんぶで46本の原稿のうち、いわゆる外飲み、お店でお酒を飲んだ話は、わずかに12本しかありません。
 ……というようなことは、本のまえがきにも書いたので、もし手にされた方には読んでいただくとして、つまり本書は奇しくも「コロナ禍におけるある酒飲みの奮闘記」とも言える内容になってしまったわけです。
 なので、いや〜、読み返してみると、今までの本にはない感慨がありますね。仕事場にビールケースで「マイ酒場」を作り、ベランダに人工芝を敷いてピクニックや野宿をし、家飲み向上のためのグッズをひたすら試し、そして、くり返される緊急事態宣言の合間を縫って、数ヶ月ぶりにおそるおそる酒場で飲んだりした、あまりにも特殊すぎた1年間。それを毎週記録し、あまつさえ1冊の本にまでまとめてもらえる。今まで出してもらったどの本もそうですが、僕の人生にとって、また特別な1冊になったなと、強く感じています。
 今回のサブタイトル『あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』は、本書のなかに収録された一編のエッセイタイトル。僕の外食の原体験とも言える一軒の町中華にまつわる、さかのぼれば30年以上にもおよぶ話で、このことも、自分へのけじめというかなんというか、生きてるうちに精算できたことにすごく大きな意味があったなと思える出来事でした。というとまぁ大げさですが、とにかく関わってくれた編集者さんたちも気に入ってくれているエピソードで、満場一致でサブタイトルへの引用が決定しました。

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銀将のラーメン

表紙イラストができるまで

 最後に、表紙のイラストについての話をさせてください。
 今年の7月2日、これまたありがたいことに、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)というエッセイ集も新しく出させてもらいました。

 これは何冊かあるスズキナオさんとの共著も含めると、僕にとって11冊目という節目の本。そして、「酒」がメインテーマではない初めての本。自分にとっていろいろと新しい試みの詰まった内容だったわけですが、表紙の装画もそのひとつでした。

 今まではもちろん編集者さんらと相談しつつも、基本的にはデザイナーさんにお任せすることが多かった表紙のデザイン。だけど、作業を進め、本の完成予想図が明確になっていくに連れ、自分のなかでどんどん、表紙イラストのイメージが「これしかない!」と固まっていった。そこで初めて、ちょっとだけわがままを通させてもらい(もちろん編集さんには賛成してもらえたのですが)、大好きなイラストレーター、ボブa.k.aえんちゃんさんにお願いし、「こういうモチーフで、こういうコンセプトで」ということを細かく伝えて描いてもらったのが、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』の表紙イラストというわけなのです。
 で、それも参考資料としつつ今回の本の打ち合わせに臨んだところ、編集さんたちがみんな『ノスタルジー〜』の表紙を絶賛してくれた。これは嬉しかったですね。「発売日が近いから、書店でこの2冊が並んだときに映えるデザインにしましょう!」とまで言ってもらえた。
 そこで、調子にのってまたまたわがままを発動し、コンセプトや人選を僕が決めさせてもらってできたのが、今作の表紙イラストというわけ。
 ノスタルジーが寒色系なので、こっちは暖色系がいいだろう。ノスタルジーが真っ昼間なので、こっちは夕方の雰囲気がいいだろう。ノスタルジーでは昔から僕が好きだった、夏! アーバン! リゾート! な感じを120%やり切れた。じゃあ残っているのはなんだ? そりゃあもう、僕が愛してやまない大衆感、場末感ですよね。そっちの方向でやり切ってみたい。それでいて暖色系。そういえば僕は昔から、風に揺られる町中華の赤いのれんの裏側を店内から眺めながら飲むのがなぜか好きで、妙にグッときてしまうところがある。それをモチーフにするのはどうだろう? あ、考えてみれば今回のタイトルともぴったりじゃん!
 ここまで来たら、お願いするのは谷口菜津子さん以外に考えられませんでした。谷口さんとは以前から飲み友達でもあって、いつか一緒になんらかの作品を作れたらとは、ずっと一方的に思っていました。が、あのぶっ飛びすぎた天才的感性と、僕の書く雑文にはとても接点がないように感じ、具体的にイメージできたことがなかった。だけど、漂う空気感こそが大事になりそうな今回のモチーフは、谷口さんにしかお願いしたくない! と、直感的に思ってしまったんですね。
 結果、谷口さんは快くオファーを受けてくださり、しかも、まだぼんやりとしたところもあったイメージを、「後ろ姿のたぬきが飲んでいる」という、やはりどう考えても天才的なアイデアで、何倍にも素晴らしいものに昇華してくれました。
 この、見ているだけで吸い込まれるような、勝手に涙がこぼれ落ちてきそうな、繊細な空間の表現。別に買わなくてもいい。ただ、本屋さんで見かけたらぜひ手にとって、実際に見てみてほしいな、なんて思います。あ、もちろん、その手に持ってる本、ままレジへ持ってってくれてもいいんですからね!
 というわけで、なんだか長々と自分語りをしてしまいましたが、『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』、今自分ができる範囲では、最善の本になった思います。ご興味あればぜひ~!

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忘れられない夏になったな
パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco


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