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【48位】チャック・ベリーの1曲―疾風一閃、ロックンロールの最初の「威張り芸」を高らかに

「ロール・オーヴァー・ベートーヴェン」チャック・ベリー(1956年5月/Chess/米)

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Genre: Rock 'n' Roll
Roll Over Beethoven - Chuck Berry (May, 56) Chess, US
(Chuck Berry) Produced by Leonard Chess and Phil Chess
(RS 97 / NME 177) 404 + 324 = 728

ザ・ビートルズのカヴァーでも有名な、ロックンロール黎明期の伝説的名曲だ。書いて、ギターを弾き歌ったのは「ロックの創造者」のひとりチャック・ベリー。彼の天才性が縦横に発揮されたナンバーだ。同時にまた、曲中で「どうだこの才能は!」とひけらかしているような点が、後年のラップ・ソングの「威張り芸」にもつながる1曲でもある。

全編にみなぎるテーマは「ロックンロールという新しい音楽、そのパワーはもはや、クラシカル音楽なんかに負けてないぞ!」という、大いなる意気込みだ。だから大作曲家ベートーヴェンの名が引き合いに出されている。タイトルおよび歌詞中で繰り返される「Roll Over」は、「ぶっ飛ばせ」とよく訳されるのだが、これは英語の慣用句「Roll over in one's grave」から来ている。つまり後進の言動が先達を「驚かせて、脅かす」ようなニュアンスだ。だから続くフレーズでは、ベートーベンを驚かせたことを「チャイコフスキーにも教えてやろう」なんていう具合になる。

そのほか、ライヴァルであるカール・パーキンスのヒット曲タイトル「ブルー・スウェード・シューズ」も出てくるし、ボ・ディドリーを指し示しているような箇所もある。つまりとてつもなく「言葉数が多い」――のだが、「あっという間に」曲は終わる。わずか2分ちょっと。すさまじい高濃度。そしてイントロは、例の「あれ」だ。「ジョニー・B・グッド」や「キャロル」と基本同じ、なおかついつも「これしかない!」と聴き手に確信させるギター・リフ。あのテンポとスピードが、疾風の勢いで場をかっさらっていって、「どうだ、すごいだろう!」とベリーが高笑い……というようなナンバーが、これだ。若きビートルズが持ち歌にしたくなって、当然だ。

そもそもチャック・ベリーは苦労人だった。あのジェームス・ブラウンが「俺よりワルい奴がいる」として名を挙げたことがあるほど(?)の若き日々がありつつも、リサーチを重ねて「白人ティーンエイジャーの胸中」を歌にしていく手法を開発した。カントリーの影響下にある詞作における天才性、「たった2分」で掌編小説なみの世界を語りつくす技術は、55年のヒット「メイベリーン」で実証ずみだったのだが、ここではさらに一歩前進して「ロック世代みんなのテーマ曲」となるようなナンバーを、彼は構築し得た。

ビルボードHOT100では29位ながら、R&Bチャートでは2位を記録。そしてもちろん、ビートルズ以降も、無数のアーティストにカヴァーされる1曲として定着している。

(次回は47位。お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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