岩田健太郎「アメリカの新聞記事を読むと謎が解け、日本のそれを読むと謎が深まる」(新刊より一部公開)
本日(10/15)発売の岩田健太郎著『丁寧に考える新型コロナ』(光文社新書)。長期戦が予想される新型コロナ対応に向けて、この辺りで腰を落ち着けて、「分かったフリ」から「本当に分かった」に転ずるために、じっくり読んでみたい1冊です。
本書の「はじめに」で、岩田氏は「日本の新聞はほとんど読まない」と言っています。さて、その理由は? ここでちょっとだけ紹介いたします。
アメリカの新聞記事を読むと謎が解け、日本のそれを読むと謎が深まる
ぼくは日本の新聞をほとんど読まないのですが、どうしてかというと、アメリカの新聞記事を読むと謎が解け、日本の新聞記事を読むと謎が深まるからです。
このことに気づいたのは、アメリカに住んでいた1990年代後半です。
『ニューヨーク・タイムズ』や『ワシントン・ポスト』といったクオリティ紙が丁寧に事象の謎を解き、「分からない」を「分かった」状態に持っていこうと努めているのに対して、日本の新聞はそのイデオロギーとは無関係に「表面的なところを伝えて、分かったような話にしてしまっている」。
例えば、2020年2月18日の『朝日新聞』では、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号での新型コロナウイルス感染の政府対応について「菅義偉官房長官は『適切だと思っている』と述べた」と伝えています(*)。
このような新聞記事はぼくの意見では「謎が深まるばかりの記事」です。
本当に「適切」だったのか、「適切」であるとはそもそもどういうことなのか。仮に適切だったとして、その根拠となるデータはあるのか。あるならなぜ開示されないのか。
こういうツッコミを重ねて「分からない」を「分かる」ようにするのがジャーナリズムの務めであり、ジャーナリストの仕事でしょう。
しかし、日本の新聞はたいてい、こういう記者会見があると、会見で述べられたことをそのままコピペして流すだけです。これでは政府広報の仕事をしているのと何ら変わりありません。
ほぼ同時期に書かれた『ワシントン・ポスト』が、アメリカの乗客を下船させてアメリカに帰国させるべきか否かを是々非々で丁寧に議論しているのとは対照的です(**)。
ぼくは日本のメディアが間違っていて、アメリカのメディアが正しい、という主張がしたいのではありません。アメリカのメディアもしばしば間違えます。
が、日本のメディアが「分かっていない」状態に無頓着で、分かっていないままに記事にしてしまう(けれども、分かったような雰囲気だけは醸し出す)のに対して、アメリカのメディア、少なくともクオリティの高いメディアは、「真実はどこにあるか」を一所懸命希求するのです。
たとえその結果、失敗することはあったとしても。
註(*) 「菅長官、クルーズ船の対応『適切』感染拡大批判に反論」『朝日新聞デジタル』
https://www.asahi.com/articles/ASN2L3QF5N2LULFA00C.html
註(**) Lena H. Sun, Lenny Bernstein, Shibani Mahtani and Joel Achenbach.Coronavirus-infected Americans flown home against CDC’s advice . The Washington Post.
https://www.washingtonpost.com/health/coronavirus-diamond-princess-cruise-americans/2020/02/20/b6f54cae-5279-11ea-b119-4faabac6674f_story.html
以上、「はじめに」のうちのほんとちょっとだけをご紹介いたしました。いかがでしたか?
「はじめに」のその他の項目は、以下の通りです。
はじめに
◆分かりやすい、は分かりにくい。
◆一般化できるデータを見分ける――専門家の重要な仕事
◆「結果」を出すより「形式」重視――官僚の仕事
◆「やってる感」「分かったつもり」「安全より安心」はNG
◆アメリカの新聞記事を読むと謎が解け、日本のそれを読むと謎が深まる
◆分かるまで、時間をかけてくどくどと説明します
光文社新書『丁寧に考える新型コロナ』は全国の書店にて本日発売です。電子書籍は10/23(金)リリースです。ぜひ、読んで見てくださいね。
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