僕が4年前に光文社の最終面接で話したこと|#私の光文社新書
こんにちは、光文社新書の高橋と申します。編集部唯一の20代です。
諸先輩方の精神年齢が若いのか私のおっさん化が加速しているのかわかりませんが(たぶん両方)、和気あいあいとやっております。
高齢化の著しい出版業界ですが、若いだけでみんな優しくしてくれるしおいしい居酒屋も教えてもらえるし、悪くないと思いますよ。就職や転職の候補として是非。
さてさて、「私の光文社新書」と題して、偏愛の光文社新書について綴るシリーズ。編集部員第2弾として私もやってみます。
私が紹介したいのは…こちら!
伊藤亜紗さんの『目の見えない人は世界をどう見ているのか』です。
後世に残すべき、名著中の名著ですね。マジで。既に10万部売れているヒット作ではありますが、個人的には100万部売れるべき本だと思っています。
書店では写真右側、ヨシタケシンスケさんのイラストが印象的な「全面帯」仕様で並んでおります。
(最近の新書は「全面帯」「オリジナルカバー」など、通常の表紙とは異なるデザインのものが増えています。これについてはまたの機会にお話しできればと。)
実は私、光文社の最終面接でこの本の話をしました。というのも、本書が刊行されたのは2015年の4月。就活真っ最中の時期だったのです(田頭さんの話と被るな…笑)。
当時通っていた大学の近くに日本点字図書館があり、近くの道を歩くと、目の見えない人たちの姿をよく見かけました。
なんとなく、本当になんとなく気になっていました。「自分は目が見えなくなったとして、こうやって普通に外を歩けるだろうか?」なんて妄想して、目を閉じて歩いてみたり。当然、数メートルも歩けば横に逸れるし、何より怖くて目を開いてしまう。
(もちろん並々ならぬ訓練のたまものだと思いますし、すべての人がそうだとは限りませんが、)目の見えない人たちはどうしてこんなにも自然に歩けるのか? 未知の世界そのものでした。特別何か印象に残る交流やエピソードがあったわけでもないのに、妙に頭に焼き付いて離れない。
そんな折、ジュンク堂池袋店でこの本に出会い、タイトルを一目見て完全にやられました。いわゆる「ビビッときた」というやつです。
滑らかかつキャッチ―で、大変上手なタイトルだなと今でも思います。
当然、内容もどストライク。
「良い本」には往々にして、
・人間が何かをわかりあうとは、どういうことなのか。
・わかりあえない中で、どうすればよりよく生きていけるのか。
という問いに対するヒントがあるわけですが、この本にはそれが詰まりまくっていました。
まず、冒頭の入り方が良い。わかりやすく、美しい文章です。
人が得る情報の八割から九割は視覚に由来すると言われています。小皿に醤油を差すにも、文字盤の数字を確認するにも、まっすぐ道を歩くにも、流れる雲の動きを追うにも、私たちは目を使っています。
しかし、これは裏を返せば目に依存しすぎているともいえます。そして、私たちはついつい目でとらえた世界がすべてだと思い込んでしまいます。本当は、耳でとらえた世界や、手でとらえた世界もあっていいはずです。
読み進めると他にも「メッシはブラインドサッカーをしている」「盲人もロダンをみる権利がある」「回転寿司はロシアンルーレット」など、とにかく驚きの連続。自分が「見ていた」世界はどれほど小さく、狭いものだったのか。常識の壁がベリベリと剥がされていきます。
とりわけ私が好きなのは、著者の伊藤さんが目の見えない人とコミュニケーションをとる際の心がけについて書いている、次のくだりです。
でも、違いを認めることと、特別視することは違います。「視覚障害者はすごい!」と誉めているんだから、特別視するのはいいことじゃないか、と思われるかもしれません。(中略)
本棚から本を探し当てることは、見えている人にとっては「当たり前」の行為です。しかし、見えない人にとっても、それは同じように「当たり前」のことなのです。自分にとって当たり前のことを「すごい」と言われたら、誰だって「おいおい、ナメないでおくれよ」となるでしょう。
だから私は「すごい!」ではなく「面白い!」と言うようにしています。(中略)「へえ、そんなやり方もあるのか!」というヒラメキを得たような感触。「面白い」の立場にたつことで、お互いの違いについて対等に語り合えるような気がしています。
自分はいろいろなことに肯定的なんだ、多様性を認める人間なんだと暗に主張したいがために、ついつい「すごい!」と言ってしまう。そんな時、この言葉を思い出します。「すごい」じゃなくて「面白い」だなと。
目の見えない人の身体感覚に、気づかされ、驚かされ、(ここが重要なのですが)楽しくなってくる。入り口は好奇心で、出口では人間観と世界観が更新される。
こんな感じのことを面接で話した気がします。
比較的新しい本を取り上げましたが、おそらく10年後もその先も、いろんな人に読まれ続けているはずです。
私も願わくば、この本のような「自分が死んだ後も絶対に読まれる」と確信できるものを作っていかないとな~と日々痛感します。
余談ですが、砂川秀樹さんの『カミングアウト・レターズ』や、最近爆売れしているブレイディみかこさんの『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』、開高健ノンフィクション賞を受賞した濱野ちひろさんの『聖なるズー』なんかも、扱っているテーマこそ違えど似たような感覚を味わえるのでオススメです。ではでは。