見出し画像

【光文社:新人研修レポート③】果てしなきロボットの流れの果てに

 「君は生き延びることができるか」と、本書を読了後に永井一郎さんの声が聞こえた気がした。

 ロボットアニメといえば、もはや誰もが知っている一大ジャンルだ。『機動戦士ガンダム』や『マジンガーZ』など、誰もが名前くらいは聞いたことがあるだろう。ロボットものはアニメだけに留まらず、映画では『パシフィック・リム』、影響下も含めれば『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』、また『スパイダーバース』も印象的だ。小説では山田正紀『機神兵団』、三島浩司『ダイナミックフィギュア』(早川書房)、最新作がミステリマガジンで連載中の月村了衛『機龍警察』(早川書房)、安里アサト『86』(KADOKAWA)などがある。海外作品であれば、ピーター・トライアス『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』(早川書房)やシルヴァン・ヌーヴェル『巨神計画』(東京創元社)などを思い浮かべる人もいるだろう。
このようにロボットものはジャンルを越境し、フィクションでは重要な地位を占める。

 とはいえ、私はそこまでロボットものに思い入れがあるわけではない。直近で目にしたロボットが登場する作品は『魔進戦隊キラメイジャー』と『トミカ絆合体アースグランナー』くらいだ。

 では、なぜ、私が本書を熱く語りたいか。月村了衛氏の言葉を借りるならば、本書が「歴史の書」だからだ。

写真1(土谷浩之輔「私の光文社新書」)

 この写真から分かるように、私は中公新書派だ(申し訳ございません……!)。歴史に関する本が好きで、ついついそういったテーマばかりを手に取ってしまう。

 岩波新書についても語りたい。しかし、4月から光文社の一員となったので、それではいけない。光文社新書で好きな本が何かあったかと考えたが、文庫化されたものもあり、選択に悩んだ。そこで「そういえば歴史の本があった!」と本書を思い出した。

 この本では、技術開発に情熱を注ぎ、生き残りをかける玩具産業の攻防が客観的に描写されている。ロボットアニメの歴史は、企業の生き残りをかけた戦争だったのだ。

 そもそも、なぜ人がロボットに乗る必要があるのか。

 人がロボットに乗る理由、それはテレビアニメ特有の「マーチャンダイジング」にある。この場合、スポンサーは提供料を支払い、玩具やお菓子といったキャラクター商品を販売する。この手法を用いた『マジンガーZ』が大ヒットし、その後、形を変えながら続々と新企画が打ち出された。

 本書では、ガンプラの革新性、海外で人気を博し逆輸入された『トランスフォーマー』、『SDガンダム』に代表されるデフォルメロボットの人気など、具体的な商品が紹介される。以前、アニメ『サンダーバード ARE GO』で『超時空要塞マクロス』などで有名な河森正治氏が「サンダーバードS号」を手掛け話題を呼んだが、人形劇『サンダーバード』とロボットアニメの意外な関係性も明かされる。

 私がこれ読んで真っ先に思い浮かんだアニメは『新幹線変形ロボ シンカリオン』だった。2018年1月から2019年6月まで放送され、昨年12月に映画も公開された。主人公が発する鉄道ネタだけでなく、初音ミクをモチーフとしたキャラクターや『新世紀ヱヴァンゲリオン』とのコラボで話題を呼んだ。私もリアルタイムで観賞して楽しんだ。

 この映画が他のロボットアニメ作品と変わっているのは、実在する新幹線が登場する点だ。「はやぶさ」「かがやき」など新幹線が主人公たちの搭乗機として登場し、子どもたちを夢中にさせた。アニメ放送前に先行して玩具が発売されているが、最初に企画の了承をとったのはJR東日本だったという。(※1)機体の性能には、JR各社の判断が反映されている。

 このようにフィクションは現実と隔絶したものではない。

 本書では、玩具で実現した技術から新たなアニメが生まれた経緯、模型で披露された設定がアニメ作品に反映されるなど、現実の動きと作品のリンクが示される。

写真2(土谷浩之輔「私の光文社新書」)

数年前に建設途中だった実物大の某ロボットを撮影したもの

 玩具とロボットの関係は複雑だ。著者である五十嵐氏も「お前はオモチャ屋の手先なのか?」という発言を会議場で聞いたという。東野圭吾「臨界家族」(『黒笑小説』所収、集英社)でメーカーの玩具に右往左往する人々が描かれるように、両者の関係はあまり好意的な受け止め方をされていない。私も新商品がアニメに登場して反感を感じてしまうときがある。しかし、本書は日本アニメーションの発展をマーチャンダイジングが支えた点を見直し、玩具が果たしてきた役割を再評価する。

 昨年YouTube上で公開された『OBSOLETE』は、安価なロボット「エクゾフレーム」を登場させた。使い捨て可能な安価な「エクゾフレーム」が現実世界にどのような影響を与えるかを描き、緻密な設定と本格的な戦闘描写で注目を集めた。安価なロボットという設定はロボットアニメとして異色だった。

 ただ、虚淵玄氏や白土晴一氏のインタビューを読むと、そこにあるのはロボットアニメに対する敬意だ。芸術とビジネスと科学技術が互いを助け合って発展したロボットアニメは、今後もクリエーターたちを刺激し続けるだろう。

 人は曖昧に物事を把握してしまいがちだ。しかし検証していくと、その思い込みが単なる勘違いだということが判明する。本書のような「歴史の書」を読むことで、普段、自分が知っているようで知らない分野を見直すことができる。

 ロボットアニメが好きな方だけでなく、歴史の実証的な研究に触れたいという方にも読まれてほしい一冊だ。


※1.「『シンカリオン』×『スパロボ』鼎談!改めて考えるロボットアニメの面白さと『シンカリオン』の重要性」(『電ファミニコゲーマー』、https://news.denfaminicogamer.jp/interview/190417a、最終閲覧日4月10日)

この記事が参加している募集

光文社新書ではTwitterで毎日情報を発信しています。ぜひフォローしてみてください!