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【第77回】人類はどこから来たのか?

光文社新書

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★現代の日本社会では、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」こそが、最も厳選されたコンテンツといえます。この連載では、高橋昌一郎が「教養」を磨くために必読の新刊「新書」を選び抜いて紹介します!

DNA解析が明らかにする人類の起源

2001年7月、北アフリカのチャド共和国で「サヘラントロプス・チャデンシス」と名付けられた最古の人類の化石が発見された。男性の頭蓋骨で身長約130cm・体重約35kgと推定され、ほとんどチンパンジーと変わらない。ただし、脊椎が通る「大後頭孔」が頭蓋骨の下方にあるため直立二足歩行していたと推定される。約700万年前チンパンジーから分岐した最初の人類である。
 
その後、約420万年~200万年前に「アウストラロピテクス」などの「猿人」、約200万年~20万年前に「ホモ・エレクトス」などの「原人」が出現する。中国で発見された約70万年~40万年前の「北京原人」やインドネシアで発見された約160万年~25万年前の「ジャワ原人」の化石も、古人骨のDNA解析から同じ「ホモ・エレクトス」のグループに属するものと分類されている。
 
約60万年~40万年前に「ホモ・ハイデルベルゲンシス」や約30万年~4万年前に「ホモ・ネアンデルタレンシス」などの「旧人」が出現する。約60万年前にホモ・ネアンデルタレンシスとの共通祖先から分岐したと推定されるのが「ホモ・サピエンス」すなわち「新人」である。両者は数十万年にわたって共存し、しかも交雑していたという。その後、ホモ・ネアンデルタレンシスは絶滅し、我々の祖先ホモ・サピエンスだけが生き残ったのである。
 
ところが、中国人だけはホモ・サピエンスより遥かに古い北京原人の直系子孫だという説がある。この説は、中国人こそが「世界で最古の特別な民族」だという「国威発揚」にも利用されているらしい。1997年、この説を立証しようとした復旦大学のチン・リー教授は、中国・アジア圏の162の民族から12,000人以上のサンプルを集めてDNA解析を行った。ところが、北京原人の直系子孫は一人も存在せず、逆に全員が同じホモ・サピエンスの子孫だと証明されてしまった。リー教授は、「人類全員が親戚だとわかり喜ばしいことだ」と述べている。自分の仮説が覆っても事実を認める科学者らしい態度である。
 
本書の著者・篠田謙一氏は1955年生まれ。京都大学理学部卒業後、産業医科大学助手、佐賀医科大学助手・講師・助教授、国立科学博物館人類研究部長などを経て、現在は国立科学博物館館長。著書に『日本人になった祖先たち』(NHKブックス)や『DNAで語る日本人起源論』(岩波書店)などがある。
 
さて、卵子から受け継がれる「ミトコンドリア」と呼ばれるDNAが存在する。ミトコンドリアは精子の影響を受けないので、ミトコンドリアDNAを調べていけば、母親・祖母・祖母の母親のように、女系先祖を遡ることができる。多くのDNA調査の結果、現生人類はアフリカの「ミトコンドリア・イブ」を共通祖先に持つことがわかっている。7万年~6万年前、数百人単位の集団がアフリカを旅立ち、アジアやヨーロッパに到達したのが我々の祖先である。
 
本書で最も驚かされたのは、2021年、ホモ・サピエンスのDNAの一部をホモ・ネアンデルタレンシスのものに置き換えたiPS細胞から、脳皮質に似た組織を作り上げた実験が行われたことだ。詳細は本書を参照してほしいが、最先端のDNA解析から「人類の起源」に迫る展開は実にスリリングである!


本書のハイライト

一九世紀以降、生命科学の研究は、それまで宗教や人文社会科学の領域だと考えられていた分野に進出するようになりました。ダーウィンの進化論によって「神」の存在を前提とせずに生物の多様性を説明できるようになり、脳科学の進歩によって心の理解にも大きな進展がありました。そうして生命科学は、ヒトに関わる既存の学問、特に人文科学の分野に大きな影響を与えてきました。一般にはまだそれほど認識はされていないかもしれませんが、近年の古代DNAの研究は、同じくらい大きなインパクトを考古学や歴史学、言語学の分野に与えており、さらには「人間とは何か」という巨大な問いにも新たな答えをもたらそうとしているのです(pp. iv-v)。

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著者プロフィール

高橋昌一郎/たかはししょういちろう 國學院大學教授。専門は論理学・科学哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『フォン・ノイマンの哲学』『ゲーデルの哲学』『20世紀論争史』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』など、多数。


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