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コロナ禍でも引く手あまたな仕事に、未来の働き方への変化をみる

コロナ・ショックを受けて日本で失業した人は、6月はじめの時点で全国2万人を超える。コロナ禍は、我々に、これまでの働き方、雇用の在り方の見直しを迫っている。では、私たちはどんな近未来を描けばいいのか——。時代を先取りする働き方ともいえる「事業創造型」のフリーランスの視点を通して、新しい働き方と課題を探る。

コロナ禍でも引く手あまたなのはなぜ?

「この春は忙しくてオンライン飲み会に参加するヒマもなかった」

こう話すのは、フリーランスとして新規事業の企画立案やPRなど、常に4〜5社の案件を手掛ける大島理香さん(39)。

この4月からは、新たにAI関連の新規事業企画を業務委託として受け、週3日のリモートワークをスタート。加えて、今だからこそ企業の姿勢やサービスを発信したいというPR業務依頼が次々と舞い込んだ。

コロナ禍でも引く手あまたなのはなぜか。

大島さんは、携帯サービス会社や大手PR会社でマネジャーを務め、子会社社長を務めた経験もある。5年前に子育てと仕事の両立のために独立。シングルマザーのため、家計を支える責任も負う。新事業の企画やPR業務に加えて、引退した五輪選手のマネジメントを担うなど、新たな分野も開拓しつつ走り続けてきた。今回コロナの影響が最小限だったのは、大きな取引先がIT業界だったことも大きい。

IT企業

インディペンデント・コントラクターとは?

内閣府の2019年試算によると、日本でフリーランスとして働く人は全就業者の約5%にあたる350万人弱で、うち、3分の2が本業、3分の1が副業とみられる。労働政策研究・研修機構の調査によると、全体の4割ほどが特定の企業の仕事を受け、契約上弱い立場となりがちな「名ばかりフリーランス」、つまり、コロナ禍で大きな打撃を受けた層である。

一方、フリーランスのなかでも、冒頭の大島さんのように専門性をもってプロジェクト単位で働き、複数企業と契約して「雇われない、雇わない」働き方を貫く人は、インディペンデント・コントラクター(IC)とも呼ばれる。経営企画や人事、マーケティング、財務など、経営の根幹にかかわる仕事を業務委託で受け、コンサルティングしながら遂行する働き方だ。

IT業界や食品小売は別として、あらゆる業界で事業が滞るなか、多くのICは、いま、プロジェクトの中止に直面している。

多くのICが苦境に立つものの、「(彼らから)新しい未来をつくろうというエネルギーを感じる」と、IC協会理事で人材組織コンサルタントの池照佳代さん(52)は言う。ICは受注型の仕事ではなく、自ら大企業に提案する事業創造型の働き方だからだろう。

池照さんは外資系企業を中心に人事でキャリアを積み、2006年に独立、この10年ほどはポストの空いた人事部長の仕事を週3回ほどの業務委託で請け負い、採用や人事管理をしながら、1年ほどかけて後任を探すといった仕事を手掛けてきた。コロナで単発の仕事は減ったが焦りはない。「再び勉強するインプットの時間とする」と、その決意を語る。

こうした働き方は、これまで正社員が担ってきた仕事を切り出してプロジェクトごとに外部人材に委ねる、近未来のプロジェクト像のひとつともいえる。

近未来

企業と働き手のメリットとは?

では、このプロジェクト像は、企業と働き手、双方にどんなメリットがあるのか。

大島さんに新規事業の企画を依頼するウェルヴィル松田智子社長(52)は、「社内にないアイデアをもらいつつ、正社員を雇うリスクを回避できる」と言う。一方の大島さんにとっては、「子育てとの両立のために正社員として縛られたくないし、様々な業界の仕事をして刺激を受けたい」というニーズを満たす。

こうしたニーズをつなぐプラットフォームも登場し、業績を伸ばしている。ウェルヴィルと大島さんを仲介した人材サービス会社Warisは、人事、マーケティング、広報などを、プロフェッショナルな在宅ワーカーらに紹介する。

登録者は30代から40代前半の女性が中心で、約1万4000人、顧客企業は約1500社で、うち3割は大手企業だ。登録者に支払われる時給は、2000円から7000円ほどと高水準である。美智子さん(仮名)の場合も、子供服小売りや玩具メーカーで管理職を務めた経験を活かし、子ども向けネットサービスの事業企画立案を時給3500円で週2日手掛けている。

オフィスレディ

この働き方はバラ色か?

こうした働き方がバラ色かといえば、そうではない。冒頭の大島さん自身、コロナの影響を受けての契約打ち切りも経験した。「正社員のとき以上に、成果を出さなければいけないという緊張感がある」日々だ。子どもを寝かしつけてから仕事を再開することも珍しくない。

腕に自信のあるICはコロナ危機を何とか自力で乗り越えようとしているが、一方で交渉力の弱いフリーランスは苦境に立たされている。

前述したように、一社との専属契約に近いフリーランスや、ネット上のアプリなどを通して仕事を受けるギグワーカーなどだ。彼ら・彼女らは法律上、「労働者」ではなく「個人事業主」と扱われるため、労災補償や最低賃金といった保護から外されてしまう。こうした人たちへのセーフティネットという課題が、今回のコロナ禍を受けてより顕著に浮んできた。

米国カリフォルニア州では、ギグワーカーを守るための州法が施行された。日本でも、ウーバーイーツの配達員らが待遇改善を求めて組合を立ち上げた。連合は、フリーランスも組合員として受け入れる方針を発表している。

今後は企業に対して書面による契約を義務付ける、最低賃金や労災の対象とするなど、保護の強化も必要だろう。中長期的には、雇用保険から支払われる育児休業給付金がフリーランスは対象外となるといった社会保障上の課題も検討する必要がある。

ウーバー

加速する働き方の変化

コロナ禍を受けて、これまでの働き方、そして日本型雇用の見直しが一気に進んでいる。

テレワークへの取り組みが広がったことで、仕事内容を明確に定めて評価する「ジョブ型」の導入も加速している。正社員を終身雇用で抱え込む「メンバーシップ型」から「ジョブ型」へと移行するなかで、雇用の流動化も進んでいくだろう。

「雇われない働き方」をする人が増えるなかで求められるのが、あらゆる働き方に対するセーフティネットである。ポスト・コロナに向けて、成功組だけではなく、すべてのフリーランスが安心して働くことができるセーフティネットを築くことが急務である。

野村浩子(のむら ひろこ)ジャーナリスト。1962年生まれ。84年お茶の水女子大学文教育学部卒業。日経ホーム出版社(現・日経BP)発行の「日経WOMAN」編集長、日本経済新聞社・編集委員などを務める。日経WOMAN時代には、その年に最も活躍した女性を表彰するウーマン・オブ・ザ・イヤーを立ち上げた。2014年4月~20年3月、淑徳大学教授。19年9月より公立大学法人首都大学東京(20年4月より東京都公立大学法人)監事、20年4月より東京家政学院大学特別招聘教授。著書に、『女性リーダーが生まれるとき』(光文社新書)、『女性に伝えたい 未来が変わる働き方』(KADOKAWA)、『定年が見えてきた女性たちへ』(WAVE出版)などがある。

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