【第1回】 なぜ「新書」を読むべきなのか?|高橋昌一郎
「知的刺激の宝庫」としての新書
連載第1回から拙著を取り上げるのはおこがましいことを十分承知しているが、本書には2019年7月〜2023年7月に刊行された約5000冊の新書の中から私が責任を持って選び抜いた「新書100冊」を紹介してあるので、ぜひご一読いただき、「視野を広げる新書」のエッセンスを味わっていただけたら幸いである。
本書の書評は、世間に普及する一般的な書評のように、単純に新書の中身を紹介するだけではなく、世間話のようなエッセイから始まって、いつの間にか新書の重要な情報とその意義に迫り、最後に「本書のハイライト」で著者自身の言葉を引用して終わる形式になっている。その余韻の中で、読者には、その先に何が見えてくるのか、じっくり考えていただくという趣向である。
100冊の順番は、類似した内容が並ばないように考え抜いて配置してある。読者が「視野を広げる読書」ができるように「多様性」を重視したからである。読者には、ランダムに気が向いたページから眺めていただきたい。ついでに隣のページを読み進めてみると、まったく新たな分野に視野が広がるはずである。
100冊の書評を書き終えて、絶対に「その著者だけにしか書けない新書」として、とくに印象に残っている新書がある。縄文式小屋に暮らし、古代人の道具と材料だけで「丸木舟」を作った雨宮国広氏の『ぼくは縄文大工』、カラスを騙す多彩な方法を研究し、カラス食を推奨する塚原直樹氏の『カラスをだます』、「中絶によって振り回されてきた自分の生涯」を突き詰めて、性と生殖問題の専門研究者となった塚原久美氏の『日本の中絶』、歴史学者として生きてきた自らの半生を曝け出し、今後の日本の歴史学に警鐘を鳴らす本郷和人氏の『歴史学者という病』、「なぜ高山植物は美しいのか」を解明するために日本中の山を歩き回り、「高山植物」に研究人生を捧げた工藤岳氏の『日本の高山植物』……。
一流の科学者が最先端の研究成果をわかりやすく解説してくれる秀逸な新書もある。衝撃的なタコの能力を解説する池田譲氏の『タコの知性』、熱帯魚が鏡像自己認知テストに合格することを発見した幸田正典氏の『魚にも自分がわかる』、世界で最高の超高圧実験に成功した廣瀬敬氏の『地球の中身』、古代DNA解析から人類の発祥に迫る篠田謙一氏の『人類の起源』、「マルチバース理論」の科学的な反証可能性を解説する野村泰紀氏の『なぜ宇宙は存在するのか』、人間の脳が積極的に記憶を消す理由を解き明かす岩立康男氏の『忘れる脳力』……。
日本の抱える諸問題に本質的に斬り込む斬新な新書もある。宇野重規氏の『民主主義とは何か』、室月淳氏の『出生前診断の現場から』、神内聡氏の『学校弁護士』、瀬木比呂志氏の『檻の中の裁判官』、青木栄一氏の『文部科学省』、添田孝史氏の『東電原発事故』、古賀茂明氏の『官邸の暴走』、志賀賢治氏の『広島平和記念資料館は問いかける』、鈴木宣弘氏の『農業消滅』、濱島淑惠氏の『子ども介護者』、坂倉昇平氏の『大人のいじめ』、斉加尚代氏の『何が記者を殺すのか』、志水宏吉氏の『ペアレントクラシー』、久保田潤一氏の『絶滅危惧種はそこにいる』、田中圭太郎氏の『ルポ 大学崩壊』、高橋祐貴氏の『追跡 税金のゆくえ』、櫻井義秀氏の『統一教会』……。
いかに新書が「知的刺激の宝庫」であるか、この短い紹介だけでも感じていただけるのではないだろうか。とくに学生諸君には、SNSで動画を眺めている時間があったら、その半分の時間でも構わないので、ぜひ興味のある新書を手に取ってほしいと思う。最近の図書館は数多くの電子書籍の新書も提供している。
改めて本書100冊の目次を眺めてみると「壮観」である。本書の「多様性」が、読者の「視野を広げる読書」のお役に立つことを心から期待している。