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「日本語が不安」「英語にも自分にも自信がない」……英語で教育を受けた学生に何が起きているのか?:新刊『英語ヒエラルキー』が描く現実|佐々木テレサ、福島青史

大学でEMI教育(英語で教科を教えるプログラム)を受け、留学を経て卒業した学生の中に、母語である日本語の不安を覚える人が現れている。日本語だけでなく様々なことに自信を失っている。
新刊『英語ヒエラルキーでは、卒業生へのインタビューをもとに、グローバル人材育成教育の現実を描き出す。言語習得の臨界期以降の外国語教育の問題点と、「複数言語話者」の葛藤をコントロールする方法を考える。

この記事では同書の「第3章 やっぱりみんな不安だった――経験者の語りから見る英語ヒエラルキー」より一部を抜粋して公開します。



(2)入学後――英語ヒエラルキーの世界での苦悩


1.英語環境の過酷さ――英語による承認の崩壊


EMI実施学部に対する期待と、英語能力に対する自信を持って入学した彼らであったが、実際に入学した後の振り返りでは、〈英語で苦労した〉〈英語が分からない〉〈授業が理解できない〉といった言葉によって、英語環境の過酷さが語られている。

帰国子女ではなく、入学以前の海外経験もない、のぞむあすかじゅんは、言語の壁に突き当たっていた。


のぞむ:
やっぱ最初「純ジャパ」(「純ジャパニーズ」の略。外国語、主に英語が流暢に話せるようになるほどの長期の海外滞在経験のない日本人のことを自嘲的にこう呼ぶ)だからさあ、めっちゃ英語で苦労したよね。めっちゃ嫌だったな。

筆者:具体的には?

のぞむ:まず授業、何言ってるか全然分からないし。テストの点とかで、(友達の)韓国や他の国の子がもうほぼ英語ネイティブで、テストの点とかでもマウントとってきて、めっちゃ嫌だったそれが。

のぞむ:私、6月ぐらいに転部しようと思って調べたもん、そういえば。英語ついていけなさすぎて。〇〇(先生)で、本当にあの人の英語が分からなかった。一から十まで分かんなくて。一言も聞き取れなくて。それでめちゃくちゃ絶望したんだ。

のぞむ:エッセイ2回出したんだけど、1回目のエッセイで、私、「ちゃんと書いてください」みたいなコメントつけられて、"Your essay is annoying(いらだたせる、迷惑だ)" みたいなこと書かれて、ちゃんと調べてから来てくださいってこともめっちゃ書かれて、心すごい折れて。

のぞむにとって、当該学部の環境は、転部を検討するほど過酷だった。全く分からない授業での先生からの率直なコメントが追い打ちとなり、精神的に追い詰められてしまった。

一方で、あすかは、必修の授業のクラス分けテストで良い点数を取ってしまったため、全く事前知識がないのに、中級レベルからの授業になった。


あすか:ライティングの授業、(レベル)1、2、3って書いてあるじゃん。けど、私は純ジャパなのに2にぶち込まれたんだよね(笑)。で、全然知らないからさ。ライティング初めて行くじゃん。行ったら、私以外全員帰国子女。地獄で。(その授業で隣になった人が)その子ね、すごいいい子で、今でもすごく仲いいし、そこで分かんないとことかを全部訳して、教えてもらって、何とか乗り切って。でももうライティングが辛すぎて。何言ってるのか分かんなくて。

あすか:(別の授業の)先生に、「私、ライティング2にいる、今」みたいな。「めっちゃ辛いんだけど、何言ってるか全然分からん」って言ったら、事務局に言ってくれて。(中略)もうね(ライティングの授業に)毎週行きたくないと思った。月曜日にあったんだけど。嫌だった。(相談した先生に)すごくよくしてもらって。全然何言ってるか分からない、しゃべれないって相談したら、じゃあ自分(相談した先生)がけっこう(立場が)偉いからと言って、話をつけてくれて、助けられました。


あすかの場合、手助けしてくれる友人や相談に乗ってくれた先生がいたため、何とか日々を乗り越えたが、授業に出たくないと思うほど辛かったそうだ。じゅんは英語が聞き取れないため、自分が何をしているかも分からなかった。


じゅん:最初、全然英語が聞き取れない。その先生たちのしゃべってる英語とか、帰国子女の子が話してるのも全然聞き取れないから、何か授業についていけているのかも分かんない。なんか、今、自分がどこに立ってて、何をしてるのかも分かんない、みたいなのはあった。

じゅん:その授業(一番最初のセミナー)がたぶん一番やばかったね。何言ってるか分かんなかった。で、読んできてって言われて渡されたA4の紙も膨大で、毎回。たぶん膨大って言ってもね、5ページぐらいなんだよ、A4の紙が5ページの、英語のさ、英文が。でも5ページってさあ、膨大じゃん、当時の私たちからしたら。
 しかも何だろう、なじみが全くない分野の5ページだったから、毎回、毎回、辛くてね。何かプレゼンやんなきゃいけない上に、レポートも書かなきゃで。プレゼンはとりあえずもうたぶんダメダメだったけど乗り切って、何とかして、2人で一つ、やるやつだったから、その相方と一緒に頑張って。レポートはライティングセンターに通い詰めた。

前節で記述したように、のぞむあすかじゅんの3人とも、高校生まで〈英語が得意だった〉と言っていた。しかし、EMIでの英語に支配された環境は、どんなに英語が得意であっても、帰国子女ではなく、留学経験もない日本人学生にとっては、過酷な環境であるということがうかがえる。

また、のぞむあすかじゅんは、〈良い成績を収めなければならないというプレッシャー〉があったとも語っている。


のぞむ:1学期目って、留学に行けるかが決まるからさ、良い成績を取らなきゃいけないじゃん。それもプレッシャーだったな。

当該学部では、1年間の留学が卒業条件の一つであるが、希望する留学先に行けるかどうかは、1年生の1学期の成績が大きく関わってくるため、少しでも良い成績を取らないといけないというプレッシャーがかかっているのである。

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著者プロフィール

佐々木テレサ(ささきてれさ)
1998年東京都生まれ。2021年早稲田大学国際教養学部卒業、2023年早稲田大学大学院日本語教育研究科修士課程修了。専門は日本語教育学、言語不安、アイデンティティ等。現在、外資系企業勤務。早稲田大学在学中にデンマーク コペンハーゲン大学に留学。

福島青史(ふくしませいじ)
1967年鳥取県米子市生まれ。早稲田大学大学院日本語教育研究科教授。JICA、国際交流基金の派遣により海外6カ国で日本語教育に従事した後、現職。専門は日本語教育学、言語政策、言語教育政策。近著に『「日系」をめぐることばと文化』『複数の言語で生きて死ぬ』(共に共著、くろしお出版)がある。

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