(2)入学後――英語ヒエラルキーの世界での苦悩
1.英語環境の過酷さ――英語による承認の崩壊
EMI実施学部に対する期待と、英語能力に対する自信を持って入学した彼らであったが、実際に入学した後の振り返りでは、〈英語で苦労した〉〈英語が分からない〉〈授業が理解できない〉といった言葉によって、英語環境の過酷さが語られている。
帰国子女ではなく、入学以前の海外経験もない、のぞむ、あすか、じゅんは、言語の壁に突き当たっていた。
のぞむにとって、当該学部の環境は、転部を検討するほど過酷だった。全く分からない授業での先生からの率直なコメントが追い打ちとなり、精神的に追い詰められてしまった。
一方で、あすかは、必修の授業のクラス分けテストで良い点数を取ってしまったため、全く事前知識がないのに、中級レベルからの授業になった。
あすかの場合、手助けしてくれる友人や相談に乗ってくれた先生がいたため、何とか日々を乗り越えたが、授業に出たくないと思うほど辛かったそうだ。じゅんは英語が聞き取れないため、自分が何をしているかも分からなかった。
前節で記述したように、のぞむ、あすか、じゅんの3人とも、高校生まで〈英語が得意だった〉と言っていた。しかし、EMIでの英語に支配された環境は、どんなに英語が得意であっても、帰国子女ではなく、留学経験もない日本人学生にとっては、過酷な環境であるということがうかがえる。
また、のぞむ、あすか、じゅんは、〈良い成績を収めなければならないというプレッシャー〉があったとも語っている。
当該学部では、1年間の留学が卒業条件の一つであるが、希望する留学先に行けるかどうかは、1年生の1学期の成績が大きく関わってくるため、少しでも良い成績を取らないといけないというプレッシャーがかかっているのである。
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著者プロフィール
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