衆院選を終えて振り返る、自民党支持層の本質。安倍政権を評価する人はなぜ「筋トレ」と「美容」に関心が高いのか?
10月31日に投開票が行われた衆院選で、自民党が465議席の内「絶対安定多数」となる261議席を獲得しました。様々な逆風もあった中で自民党の強さが際立つ結果となりましたが、どのような人々が自民党を支持しているのでしょうか?
衆院選に先立って刊行された光文社新書『大下流国家』(三浦展/著)では、全体の半分近い文量を割いて安倍政権支持者の調査を行っています。歴代最長の在任期間となった安倍晋三の政権を誰が支持していたのかは、今の自民党を考える上でも重要な分析事項です。
今回は、その中でも特に興味深い分析をされている第3章の一節「強さ志向としての筋トレ・美容」と、全体の目次を紹介します。(光文社新書編集部 高橋)
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強さ志向としての筋トレ・美容
安倍政権を評価する人は美容・健康に力を入れる人が多いようである。
たとえば男性で「スタイルを維持するため、筋力トレーニングやヨガ等を行う」人の安倍政権評価を集計すると、「あてはまる」人の66%もが安倍政権を評価している(図表参照)。特に45~54歳では75%にもなる。男性平均の46%よりかなり多い。
逆に「あてはまらない」人は「評価しない合計」が40%と多い。スタイルを良くするために体を鍛える人ほど安倍政権評価が高いのだ。
図表にはないが、女性もややその傾向がある。特に25~44歳の女性では「スタイルを維持するため、筋力トレーニングやヨガ等を行う」に「ややあてはまる」人のほぼ50%が安倍政権を評価している。女性全体の35%と比べてかなり多い。
また「エステで痩身、美白を行う」や「美容整形手術」についても「あてはまる+ややあてはまる」人は男女ともに安倍政権評価が高い。特に男性でそうである(男性は美白ではなく痩身が中心だと思うが、最近は顔のシミをレーザーで消す男性も増えているらしい)。
しかも「筋トレ・ヨガ」に「あてはまる」男女で、かつ「経済・経営・法律」の本を読む人(50人)は70%が安倍政権を評価している! 「痩身・美白」を行う男女(52人)で、かつ「実務・ビジネスノウハウ・自己啓発」の本を読む人は75%が安倍政権を評価している‼
男女ともに筋トレをすること、男性でも肉体改造や美容に励(はげ)むことは、現代のビジネスパーソンの必須行動のひとつである。筋肉を鍛えると体力が増し、体力が増すと精神的な疲れも感じにくくなるのだそうだ。精神的に疲れなければ仕事が順調に進むだろう。外見に自信が持てればやはり仕事が順調に進むだろう。そうした価値観・行動と安倍政権評価に相関があるのだ。
外見の良さと安倍政権評価を結びつけるのは、ひとことで言えば現実主義である。自分の好き嫌いにかかわらず、今ひきしまった肉体と美しい容貌を持つことが、仕事上得で経済的上昇に結びつくのであれば自分もやりましょう、ということである。
実に今時のビジネスパーソンの典型がそこに見えるではないか! ポジティブ思考で、筋トレをして、美容に気をつかい、仕事に成果を上げる。そんな人たちが安倍政権を支えてきたらしい。
また図表にはないが、女性については、高収入な人ほど化粧・美容・ファッションにお金をかけるので、安倍政権を評価する人と化粧・美容・ファッションなどの多くの消費行動に積極的な人との相関も高い。肉体・外見の美や強さ志向と安倍政権評価が相関しているのである(拙著『露出する女子、覗き見る女子』参照)。
すなわち、美容は女性的な美しさを磨く時代から、心身の癒しの時代を経て、男女ともに現実を生き抜く「強さ」を得るための手段と見なされるようになったと言えるだろう。そうした価値観・美意識と安倍政権評価が結合していたのである。
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『大下流国家』目次
第1章 オワコン日本
1‐1 62%が日本の繁栄はすでに終わっていると思っている
「ソノイは中国のメーカーか韓国のメーカーか? 」/2100年に日本の人口は世界50位前後になる/日本は酒と観光の国になるのか/10歳で「失われた10年」を知った世代はもう30歳
1‐2 消費における格差の定着~資生堂、トヨタ、花王などの変化
資生堂がTSUBAKIをやめる/日常食品にも格差が広がった/「いつかはクラウン」の時代がついに終わる/スーツは5000円/中国、アジアも格差拡大、高級化志向強まる
第2章 「ニセ中流」の出現と日本の「分断」――デフレに慣れた人々
2‐1 「平均点」の低下
中流意識が回復しているという謎/「45〜54歳」の公務員は中流以上が88%、男性パートは下流が82%/非正規雇用や年収300万円未満でも下流が減った!? /ニセ中流・デフレ中流=給料が上がらなくても階層意識が上昇/アベノミクスで食料費が増えたのに/自分の点数が下がっても平均点も下がれば問題ないという心理/「中流」という概念がもう古い/典型的下流と典型的中流が減少し、「ニセ中流」が増加/分厚い中流のいる社会を望んでいるが
2‐2 生活満足度・人生観・日本認識
減少する不満/不満増大の理由は団塊世代だった/若者の不満から中高年の不満へ逆転/若い男性は去勢されたのか/20~30代の年収300万~400万円台の満足が増加/親子揃って楽しく食事ができれば生活に満足/「第四の消費」が満足度を高める/「個人志向」の強さ/配偶関係による人生観の違い/中高年が「世の中をよくする」ことへの関心をどんどん失った/競争主義、成果主義、グローバル化に否定的/「中」と「中の下」の間に格差がある/高年収男性は自己責任論的、新自由主義的/竹中平蔵みたいな高年収女性の日本認識
第3章 「強さ」を求める時代――安倍政権8年を誰が支えたのか
3‐1 属性別に見た安倍政権評価
女性は安倍をあまり好きではない/若い世代は安倍政権への評価が多いのではなく、評価しない人が少ない/男性1人暮らしで評価が高いがシングルマザーでは低い/無党派層で安倍政権を評価した人の影響力は大きい/高学歴女性は安倍政権評価が低い/高年収ほど評価する人も評価しない人も増える/高年収の若い男性は安倍政権評価が非常に高い/35~44歳で年収200万円未満の男性は「評価しない合計」が44%と多い/45~54歳で年収600万円以上の女性は安倍政権評価が低い/15年間で豊かになったか貧しくなったかで安倍政権評価は大きく変わる/相続する資産が多い人は安倍政権評価が高い/パート・派遣の安倍政権評価は低い/離別女性の安倍評価は低い/階層上昇できた女性は評価が高い/安倍政権が専業主婦に人気がないのはなぜか? /高学歴の非正規男女と大学院修了女性は安倍政権評価がとても低い
3‐2 安倍政権評価と階層意識・人生観・日本認識
階層意識が高いほど安倍政権評価も高いが、下流でも評価する人は多い/階層意識が「上」なのに安倍政権を評価しない人は誰か?/階層が「下」なのに安倍政権を評価する人は誰か?/安倍晋三はバブル世代の下流に人気/安倍政権評価と正義感の衰弱/資本主義しかない世界で社会正義志向が弱まるのか? /自分のことだけで精一杯か/憲法で保障されている権利を知らない日本人が多数派/ポピュリズムは好きだが民主主義は好きではない
3‐3 安倍政権評価とメディア・消費
安倍支持者は本を読まないバカが多いか?/人文系女性は天敵/感染対策で図書館を閉鎖する反知性知事/外資系ディーラーが『日本語が亡びるとき』を読む/若者が本やマンガをスマホで読む傾向と安倍政権評価は相関する/SNSを積極的に使う若者は65%が安倍政権を評価する/ネットニュースをよく見る若い人は安倍評価が高い/マスコミに期待するのは無理そうだ/消費志向と安倍政権評価/強さ志向としての筋トレ・美容
【コラム】 タワーマンションに住むのはどんな人?
年収は高いが年齢は低い/タワマン女性は女らしさを拒否/日本の繁栄が好き/持って生まれた資質と生まれが大事だと思っている/格差の遺伝は望まない
第4章 ユーミンはなぜ泣いたか? ――バブル世代下流中年と安倍政権
4‐1 安倍政権評価と日本認識
日本認識別に見た安倍政権評価/下流なのに安倍政権評価が高い人の日本認識/下流の中年層は「愛国的」「復古的」で安倍政権評価が高い/中年下流層に対する「ゴーマニズム宣言」の影響/安倍政権評価が「どちらでもない」人とは? /分厚い中流をつくれば野党は支持されるのか? /安倍政権評価が高い人は自助志向が強い/90%が日本の繁栄はすでに終わっていると回答
4‐2 下流なのに安倍政権評価が高い人々
バブル世代と安倍政権評価/クリスタル世代だった安倍夫妻/ユーミンはなぜ安倍辞任で涙したか?
第5章 さよなら、おじさん――若者はなぜ東京集中・地方移住するか
5‐1 地方の女性はなぜ東京に集まるのか?
若い女性はおじさん文化が嫌で地方を出ていく/わきまえすぎる人たち/都心ほど女性が増えた理由/東京都に定着する女性/多様性を認める企業・都市に女性が吸収される/都心部ほど出産も多い/共働きで子育てしやすい地域が選ばれる/山の手は女性就業率が低い/女性の多様な生き方が可能であることが、地域発展の必須条件
5‐2 移住希望者と非・希望者の意識の違い
「定住型男性」と「移住型女性」の価値観の差が大きい/移住したい地方在住女性はジェンダー的な問題に不満が多い/東京圏から移住したい女性は現代社会に疑問を持っている/東京圏で移住したい女性は高学歴・正規雇用・高年収が多い/東京圏で働く彼女たちの不満とは/東京から移住したい女性はシェアリングに関心が高い/古いものを活用することで若者が地方にとどまる/「百年」を軸に街をつくる/歴史で人を集め未来をつくる/ワーカブルな地方をつくる/都会的な仕事が地方でできるようにする/団塊ジュニアにバトンを渡そう/女性が主役の地方づくり
著者プロフィール
三浦展(みうらあつし)
1982年一橋大学社会学部卒業。(株)パルコ入社。マーケティング情報誌『アクロス』編集室勤務。86年同誌編集長。90年三菱総合研究所入社。99年(株)カルチャースタディーズ研究所設立。消費社会、世代、階層、都市などの研究を踏まえ、時代を予測し、既存の制度を批判し、新しい社会デザインを提案している。この10年の関心事は、シェアを基礎とする社会・コミュニティ、住宅のリノベーション、郊外の再生など。著書に『下流社会』『下流社会 第2章』『東京は郊外から消えていく! 』『首都圏大予測』(以上、光文社新書)、『都心集中の真実』(ちくま新書)、『これからの日本のために「シェア」の話をしよう』(NHK出版)、『第四の消費』(朝日新書)、『ファスト風土化する日本』(新書y)、『あなたの住まいの見つけ方』 (ちくまプリマー新書) など多数。