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巨人のエース菅野智之のキャリア考察

熱烈な巨人ファンで、多くの野球マニアや選手たちからフォローされるゴジキさん(@godziki_55)が巨人軍を分析。
今オフ、メジャーへの移籍がささやかれながらも巨人残留の運びとなった菅野智之投手。ジャイアンツの絶対的エースのキャリアを振り返るとともに、そのすごさと「最後の課題」を分析します。

2017~2018年の全盛期を振り返る

菅野のキャリア全盛期であった2017・2018年の2シーズンを振り返る。2017年は得点圏に走者を置いた場面で127人の打者と対戦して被打率.156という圧倒的な数字で、ピンチでの勝負強さを見せた。最終的には17勝5敗 防御率1.59などキャリアハイの成績を残し、最多勝と最優秀防御率の二冠を獲得。自身初の沢村賞にも輝いた。

2018年は、キャンプから新球種であるシンカーの習得に重点を置いていたが、それによって開幕から調子が上がらず、開幕2戦で自責点9という結果を受けてシンカーを封印した。その結果、4月13日の広島戦では8回1失点10奪三振でシーズン初勝利。その後もさらに調子を上げていき、29回2/3連続無失点を記録した。最終的には15勝8敗 防御率2.14 勝率.652、202回 200奪三振 の成績で最多勝、最優秀防御率、最多奪三振の投手三冠と文句なしの2年連続沢村賞を獲得。さらに、クライマックスシリーズでは、自身初のノーヒットノーランを達成した。

この頃の菅野の投球は、まさにエースに相応しい内容であった。相手打者への威圧感はもちろんのこと、要所の場面で力の入れ具合や、投球術のバランス感覚が素晴らしかった。2017年のシーズンから打者を圧倒するオーラを醸し出すようになり、試合序盤はボールが緩くても要所でギアを上げていき、得点圏にランナーを出しても点を取られる気配が全く感じられなかった。さらには、三振を取りたい場面は三振を取り、併殺を取りたい場面は併殺を取る投球をして、高い水準で変幻自在だった。具体的には、ストレートの質が一気に高まり、変化球も大きく曲がるスライダーとスラッターを上手く使い分け、パワーカーブやスプリットも組み合わせて完璧に近い投球を見せた。

「負けない投手」へ成熟した2020年

2019年は怪我や故障により不甲斐ない成績に終わったものの、2020年のシーズンは開幕13連勝を飾り、沢村賞こそ候補にあがりながらも逃したが、リーグ優勝に大きく貢献してキャリア3度目の最多勝と2度目のMVPを獲得した。

低調だった前年ゆえ「背水の陣」のようにも見えた状況で、菅野からは開幕前から強い意志が感じられた。そして、開幕戦から復活を見せつけた。前年の不甲斐なさを払拭するかのように平均球速150.4km/hを記録しただけでなく、ピンチの時や終盤はギアを上げるなど内容的にも充分。2017~2018年とはまた異なるピッチングスタイルを披露した。その後もハイパフォーマンスが続き、特に7月は4試合中2試合で完封勝利を記録した上に月間成績は4勝0敗防御率0.30と文句なしの成績を残した。

菅野の2020年の投球内容を総括すると、2017~2018年のように変幻自在でありながら圧倒的な投球スタイルではなかったものの、課題点や試合序盤の課題点を上手く修正した上で流れを作る「ゲームメイク力」が、これまでのキャリアで飛び抜けていた。その結果、エースとして「負けない」投球を続け、開幕から連勝を伸ばしていった。最終的には14勝2敗でシーズンMVPを受賞。チームは67勝45敗で貯金22だったので、菅野1人で約半分の貯金を作り出したことがわかる。

技術的なレベルの高さはもちろんのこと、それ以上にかつての田中将大や斉藤和巳にも見られた「負けないエース」の姿は極めて印象的だ。データ的な観点からよく言われる(低調だった2019年シーズンからの)揺れ戻しではなく、ピンチの場面などの要所で「ギアチェンジ」をしたピッチングでほぼ確実に相手を抑え、自軍の打線も乗せていくことでチームに勝利を呼び込んでいる。9月終了時までの13連勝中の戦い方は、間違いなく20年の巨人が見せたベストパフォーマンスだっただろう。

課題はシーズン終盤からポストシーズンのピーキング

菅野の投球配分を見ると、スラッターとスライダーを投げ分けた上でパワーカーブなど球種ごとの配分も変化させて、バランスよく投げることが今後の鍵になっていくと思われる。

技術的な観点以外では、シーズン終盤や重要な時期へのピーキングや調整力に課題が残る。昨シーズンを振り返ると、9月の防御率は2点台となんとか抑えていたが、明らかに開幕当初から夏場までに見せていたボールの強度はなく、結果的にアウトになっていてもボールを芯で捉えられている打球が多かった。そして10月は打ち込まれる場面も増えていき、2敗を喫して月間防御率も3.24と成績が下降した。新型コロナウイルスの影響で調整の難しいシーズンだったが、キャリアを通して見ても、シーズン終盤からポストシーズンといった勝負所に向けてコンディションが低下するところは一番の課題だろう。

オフにはメジャー移籍の話もあった菅野だが、残留の運びとなった。現在の巨人投手陣には若手が多く、彼らへの「生きる教科書」として模範となり、投手陣の大黒柱としてチームとともに成長していく姿が楽しみだ。なんとしても、キャリアで唯一達成できていない「日本一」というミッションを成し遂げてほしい。

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