『新聞記者、本屋になる』落合博さんの「平均点を超える」文章の極意を特別公開!
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『新聞記者、本屋になる』落合博さんの「平均点を超える」文章の極意を特別公開!

編集部の田頭です。光文社新書9月刊、落合博さんの『新聞記者、本屋になる』の重版が決まりました。書店開業記、セカンドキャリア論、自叙伝、出版流通論、書店論…と多種多様な読み方をしていただける1冊ですが、落合さんの無駄のない文体へのご好評をたくさんいただいています。重版を記念して、本書の「書くことについて」に触れた箇所を特別に公開いたします。落合さんはご自身のお店 Readin'Writin' BOOKSTOREでライティングの教室も開催されています。興味のある方はこちらをご覧ください。

ライティングのレッスン

「書くことは読む人の立場になって考えること、読むことは書いた人の立場になって考えること。」以上はツイッターの自己紹介の書き出し部分で、続きはHPに書いてある。

 読むことと書くことはつながっています。
 双子のような関係かもしれません。
 文章を書くレッスンを始めます。

 本を売ることは素人だが、書くことに関してはそれなりの経験がある。30年以上の新聞記者生活で得たスキルと言えば、文章を書くことくらい。本屋を始めるに際し、これを生かさないのはもったいないと思いついたのがライティングの個人レッスンだった。

 まず、日時を決め、その際、課題を伝えている。「本/本屋」「食/食べる」「夏/暑い」「東京」など。最近は「せつない/せつなさ」が多い。400字前後にまとめて前日までにメールしてもらう。当日は書いてきてくれた原稿を材料にディスカッションする。レッスンを踏まえて、リライトした原稿を1週間後をめどに送ってもらい、コメントして終わり。レッスン代は90分で5000円。高いのか安いのか。

 レッスンでは、申し込んでくれた理由や経緯、どんな文章を書いてみたいのかなどを聞きながら、いろいろなことを話している。

 文章を書くうえで僕が重要だと考えている三つのことがある。テーマ、字数、締め切り。何について書くのか、何文字で書くのか、いつまでに書くのか。これが決まっていないと書き出せない。最も重要なのが締め切りで、今日まで、1週間後、1カ月後、半年後、1年後では態度や姿勢が違ってくる。三つは制約であり、縛りでもあるが、起動力になる。

 著名人や有名人であれば何を書いても読んでくれる人はいる。朝起きて何を食べて、どこかに出かけ、誰かと会って、こんなことをして、こんな感想を持ったとか。彼ら、彼女たちの身辺雑記はエッセーとして雑誌などに掲載される。

 名前も知られていない一般の人が日常の出来事を書いても誰も読んでくれない。その人に好意を寄せている人は別として。だから読んでもらうための工夫が必要となる。

「分かりやすい文章を書けるようになりたい」という人がいる。「分かりやすい文章」は「いい文章」だろうか。「好き」という言葉を使わないで好きな気持ちが伝わる文章を書くことはできないだろうか。そんな話をしている。

「好き」という言葉を使うことは読み手の楽しみを奪うことにならないだろうか。書き切らない、言い切らない。それによって余白や行間が生まれる。

 10人が読んで10通りの感想が出てくる文章は「悪い文章」だろうか。さまざまな解釈が生まれる余地のある文章こそが読み継がれていくのではないだろうか。読み捨てられない文章、賞味期限の長い文章を書いてほしい。そう話している。

 書き手の考え、判断をそのまま書かないようにしてほしい。言いたいことは、事実を積み重ねて伝える。形容詞や副詞を使うことは「分かりやすさに逃げる」ことだ。

 事実を集めるためには取材が必要だ。取材とは何か。人に会って話を聞く、現場に足を運ぶ、調べる。

 以上のことは誰から教えてもらったわけではなく、本を読んで得たものでもない。ライティングのレッスンを始めるにあたって、自分は普段どんなことを意識して書いているかを洗い出してみて分かったことだ。裏付けとなるものは自分の経験でしかない。

『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』(ダイヤモンド社)で、著者でライターの古賀史健こがふみたけさん(バトンズ代表)は、なぜ取材をするのかについて書いている。「そもそもライターとは、からっぽの存在である」「天才物理学者の知識も、合衆国大統領の経験も、シェイクスピアのひらめきも、なにひとつ持ち合わせていない、からっぽな人間だ」「からっぽの自分を満たすべく、取材する」(いずれもP.31)と。

 新聞記者だった僕も同じことを考えていた。人に会って話を聞き、現場に足を運び、調べる。取材が終わっていないと書き始められない。書けば書くほど書くことへのハードルは高くなる。書けなくなる。

 身もふたもないことを言うと、僕のレッスンを受けて、すぐに文章がうまくなるわけではない。そんなことがあるわけがない。文章はその人の分身みたいなもので、価値観がにじみ出る。性格は簡単に変わらないし、変えられない。

 ただ、90分のレッスンで、いつも平均点はクリアできるくらいの書き方を伝えることはできるかなと思っている。一度うまく書けたからとして次もうまく書ける保証はないとも話している。うまく書けなくてもあきらめることなく、とにかく書き続けるしかない。それが30年を超える新聞記者生活で僕がつかんだことであり、伝えたいことでもある。

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