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団体ツアーで瀕死の「禊」体験 in 沖縄|辛酸なめ子 その1

アウェイ空間で「圧倒的成長」?

 大人になると、自分にとって不得意な分野や苦手なことはスルーするようになります。子ども時代に苦しめられていた体育の授業も、大人になってからは回避可能。誰かにプールやアスレチックに誘われても断ることができます。でもいっぽうで、苦手なことをそのままにしていると、人間的に成長できないとか、来世に持ち越すことになる、という説も。私の場合、運動全般が不得意だったのですが、中でも泳ぎに関しては水恐怖症といっても良いレベルでした。過去生で水の事故に遭ったのかもしれませんが、記憶にある限りでは、小学生の時いじめっ子にプールで頭を水に沈められ押さえつけられたという体験が尾を引いているのでしょうか。その後、プールがない中高を第一志望にして進学し、泳がないまま大人になって、今に至ります。しかし日本は海に囲まれていて水害も多いし、水に慣れ親しんだ方が良いという気もしていました。

 そんな折、縁あってマリンアクティビティ系のツアーに参加する機会がありました。たまに家電量販店で見て気になっていた、GoProゴープロ HEROヒーロー11 Blackというカメラのプレスツアーです。このカメラの公式サイトには「冒険のお供に最適なスポーツアクションカメラ」と、書かれていました。運動音痴にとっては「冒険」「スポーツ」「アクション」など、縁のない言葉が並んでいます。でも、あえてアウェイの場に飛び込むことで自分を成長させることができるかもしれません。愛読している著者の本『ヒマラヤ大聖者の「手放す」言葉』(相川圭子 著)にも「嫌いとか、できないといった限定した心を外すと意外とできるのです」とありました。

遺言書、書きました

 ツアーは石垣島の近くのはまじまで行なわれます。日程表を見ると、マリン系アクティビティとして「夕暮れカヌー」「電子モーターSUPサップ」「半日シュノーケル」といった項目がありました。ちなみに何年か前SUPに挑戦したのですが、結局波打ち際から進むことができず、海の家のお兄さんに「フィンが折れる」と怒られ、回収されたことがありました。「離岸流」(沖に向かって流れる海水。毎秒2mに達することもある)が怖くて沖の方に出られなかったという不甲斐ない思い出が。今回はモーター付きなので電動で行って戻って来られそうです。カヌーもちょっと自信ないですが、何よりも緊張するのはシュノーケルです。スケジュールが来てから、「シュノーケル 泳げない」などで日々検索。通常なら泳げなくてもシュノーケリングできて、ライフジャケットがあれば沈まないそうです。私の場合は普通以下なので、できるかどうか危ういところです。たまった水を抜いたりする、マスククリアやシュノーケルクリアといった作業も必要のようです。海で海水でも飲んだらパニックになってしまう予感が。もし万が一のことがあったらツアー全体に迷惑をかけてしまう……そんな不安に襲われながら、念のため遺言書を書いて当日を待ちました。

 久しぶりの飛行機に乗って石垣空港へ。空港でチャイを飲んだりして、この時はまだ余裕でした。船で小浜島港に渡り、リゾナーレ小浜島という素敵なホテルに向かいます。


▲ 余裕があった頃


到着してすぐ、電動キックボードに乗る、というミッションが。ちなみに私は水泳ができないだけでなく、自転車、車などあらゆる乗り物にも乗れません。乗れるのは多分シニアカーくらいです。電動キックボードも、乗ってみてすぐムリだと体感。両脚を乗せるとグラグラしてバランスが取れません。最近都内ではLUUPで走っている人をよく見かけて,自分でも乗れるかも? という気になっていましたが、リゾナーレ小浜島の敷地という快適な空間でしばらく練習して、10秒くらい両脚を乗せるのがやっとでした。世の中の人はなぜ、何でもすぐにこなせるのでしょうか? でも、自分にはLUUPはできないことがわかっただけでも収穫でした。電動キッックボードはほとんど降りて押して歩いていましたが、GoProのタイムラプスモードで撮影したら、早回しで高速で進んでいるような動画が撮れました。

陽キャの、陽キャによる、陽キャのための……

 そのあと、室内でGoProの方によるレクチャーがありました。紹介動画によるとGoProは「繰り返し挑戦する人」「限界を超えようとする人」のためのカメラで、マウンテンバイクで疾走したり、アクロバティックにスキーしたり、急流でラフティングしたり、パラグライダーで飛んだりしながら撮影する勇者たちの映像が流れました。私など遺言書を何枚書いても足りません。今まで狭い世界で生きていたことを痛感しました。GoProのCEOのニック・ウッドマン氏はカリフォルニアでサーフィンをするのが趣味のイケメン。GoProは陽キャによる陽キャのためのカメラなのかもしれません。ぜひカメラの力を借りて人生を好転させたいところですが……。

 レクチャーのあとにさっそく、浜辺に行きカヌーを体験することに。運動が得意そうなPR会社の女性と一緒に乗ることになったので、彼女に命を委ねさせていただきます。ライフジャケットを着用し、カヌーの中へ。思ったより簡易な造りで、板の下が海だと思うとドキドキします。パドルの動かし方を教えてくれた男性は、なんとカヌーでオーストラリアまで行ったことがあるとか。そんな方に、カヌーは危なくない、と言われると勇気が出ます。前の水を捕まえるように漕ぐ、右に曲がりたい時は左だけ漕ぐ、といった手法を学んだのですが、結局は私の漕ぎは推進力の役に立たず、ほとんど同乗の女性が漕いでくれて、夕日に向かって進みました。水深がだいたい10mはあると知って、怖くなって陸地に帰還。この間撮った動画には、長時間カヌーの内部が映っていました……。とりあえず生還できて、翌日はSUPの予定です。ちなみに経験者によると「電子モーターSUPはカヌーの50倍簡単」だそうでした。それを聞いて期待が高まったのですが、翌日、午前中は波が高くて電子モーターSUPは中止になってしまい残念でした。またこのリゾナーレ小浜島に宿泊する機会があれば、再チャレンジしたいです。決して中止になって良かったとかは思っていません。

「お姉さん」呼びで復活

 翌日はついにシュノーケルの日です。午後は波も少し収まり(といっても海の状態は5段階中4で悪かったようですが)、無事に出航できることになりました。準備を整えて、海岸に向かうバスに乗車。海やプールから長年遠ざかっていたため、最近「ラッシュガード」という水着のアンダーに着るアイテムがあることを知らず、1人だけ、ナイトプールで女子が着ているような普通の水着姿で羞恥心が。それもウエットスーツを着るまでの辛抱です。

 船で着てみると、ウエットスーツは思ったよりタイトで、脱ぎ着が大変です。シュノーケルではさらにフィンをつけることに。GoProが水に沈まないように、ハンドグリップを軽いものに取り替えました。沖に向かう船が結構揺れていたのですが、それがほとんど気にならないくらい、シュノーケルへの不安でいっぱいでした。途中、干潮の時に現れる小さい島で軽く泳ぎの練習がありました。水抜きの方法などを学んだあと、浅瀬に入りました。他のプレスツアー参加者は、皆さん迷いなく飛び込んで、スムーズに顔をつけ、フィンを動かして泳いでいます。私は浅瀬で腕立て伏せの体勢で、顔を少しだけつける練習をしました。あまりに腰が引けている私を見て、「お姉さん、がんばって! 大丈夫だから!」「お姉さんはできる!」と、船のスタッフの女性が励ましてくれました。それだけでもうやり切った感が。「お姉さん」と呼ばれるたび生きる気力がちょっと復活します。

「ここは足が立ちますか?」 「立ちません」

 そのあと、さらに沖に進み、シュノーケルスポットに行くことに。「色が濃いところは水深20mくらいですよ」なんて言われると生きた心地がしません。「船の後ろからエントリーしてください」というインストラクターさんの呼びかけで、皆さんGoProを手に、次々と海に入ってスイスイ泳いでいます。海の中はさぞ美しい動画が撮れることでしょう。あとで聞いたら、ナマコや小魚、ネムリブカと呼ばれるおとなしいサメがいたみたいです。

 私はいつまでも「エントリー」する勇気が出ず、泳ぐ人々を眺めていました。小学校の時、体調が悪いと嘘をついて何度もプールの授業をサボったカルマのツケが来ている感が。日焼けしたインストラクターさんに「ここは足が立ちますか?」とダメ元で聞いたら「立ちません」と即答。エントリーしそうでできない、船の後ろにしがみついた体勢で数十分。時々「大丈夫ですか?」「どう? できそう?」などと声をかけられます。ずっとこのままというのも情けないので、意を決して手を離して海に入ってみることに。動画を撮りながら一瞬だけ水中を撮影。思ったより深くて、絶体絶命と感じたので、船のスタッフの女性に介護のように抱きかかえられてまた船に戻らせていただきました。「体ガチガチだね」と言われながら……恐れ入れます。動画には、一瞬だけ海中と、船に必死でしがみつく自分の手が映っていました。


▲ 生への執着


爪が割れて、私はこんなに生きようとしている、生に執着している、ということを実感。しばらくして、「もうちょっとがんばってみます?」と声をかけられ、決死の覚悟で一瞬、顔をつけて写真を撮影しました。「もうやめるの?」と笑われましたが、もうこれで、シュノーケノングした、ということにしたいです。ちなみに海中の写真は黒っぽい岩場で、小魚とかは一切写っていませんでした……。でも、船にしがみついて海に体の一部浸かっただけでも、大自然のエネルギーを吸収できた気がします。浄化され、禊体験できました。

自分の限界を知って「魂のレベルアップ」

 こんな風に人知れず葛藤している間にも、他の参加者は楽しそうに泳ぎ回っていました。今回自己紹介タイムもなく、他の取材スタッフの方々とも面識がないままでしたが、逆にそれが良かったです。もしかしたらこういうツアーに参加するのは、アクティビティなどに慣れている方なのかもしれません。これまで、できる範囲ばかりで仕事してきたことを反省。その一方で、だいたいの人が普通にできることが、できない人もいる、ということも、知ってもらいたいです。今回のアウェイ体験で、自分の能力の限界を知り、私も初心に戻ることができました。苦手なことに挑戦して、魂のレベルも上がったと期待したいです。

 沖縄から戻ってから、「スポーツアクションカメラ」GoProで撮影したものというと、「レストランでの打ち上げ」「アメリカから来日した霊能者」「神父のスピーチ」「江の島の猫」「アキバのアイドル」「サイコロ占いの動画」など。

 気合いを入れるため、そろそろ新しい冒険に出た方が良いのでしょうか……。


今月の言葉

大自然の中での冒険は、心身を浄化し、都会でたまった罪や穢れを浄化してくれます。

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