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新政権に問われる「女性活躍推進」。安倍政権「202030」未達の理由と課題。


「202030」未達の原因とは?

第二次安倍晋三政権が7年8ヶ月で幕を閉じた。安倍首相は2014年のダボス会議で高らかに「2020年までに意思決定層に占める女性を30%に引き上げる」と世界に示した。その公約を達成できないまま、説明責任を果たすことなくトップの座を退くことになる。

そもそも「202030」(ニマルニマルサンマル)とは何だったのか。

さかのぼること17年前、2003年に政府は「各分野で意思決定層に占める女性の割合を2020年までに30%に引き上げる」と宣言した。なぜ30%かというと、ある集団の中で少数派が30%を超えると意思決定に影響を及ぼすようになるという、米ハーバード大のロザべス・モス・カンター教授の「黄金の3割理論」を根拠としている。

2020年7月、目標未達が必至であることを受けて、政府は年内に策定される第五次男女共同参画基本計画で「2020年代の可能な限り早期に30%を達成する」方針に切り替える見込みだと報道され、多くの女性がため息をついた。

これに対して、そもそも「どう計算しても達成できる数値目標ではなかった」という声がある。カンター教授の理論をそのまま日本に持ち込んで「目標30%」と掲げただけで、男女別管理職割合などをもとに、17年にわたって挑めば実現可能な数値として設定された目標ではなかったという。

しかし、分析・総括なしに、次のロードマップは描けない。そこで、この7年半、第二次安倍政権が推し進めてきた「女性活躍」を総括することで「202030」未達の原因を探りつつ、次のステップへの足掛かりをみつけたい。

職場環境

評価すべき点

安倍政権は発足当初、「3年間抱っこし放題」とうたい、仕事と育児の両立支援のために育児休業の3年を企業に要請した。しかし女性のキャリア形成にとっては育休を延ばすよりも、復帰後に無理なく両立できる職場環境を整えるほうがプラスになる。こうした反対を受けて、この提案は立ち消えとなった。直近ではコロナ禍での突然の休校宣言も、働く親の目線が欠けていた。

こうした失点はいくつかあったが、安倍首相が女性活躍推進を地道に一歩進めたことは間違いない(ここでは、「女性活躍推進」という言い方が「上から目線」であり、雇用対策、少子化対策しか考えていないという批判は承知の上で、女性の就業機会を広げるという意味で女性活躍推進という言葉を使う)。

安倍首相は就任早々、成長戦略の「3本の矢」のひとつとして、まず「女性活躍」を掲げた。そして毎年各所で開かれる女性関連の国際的なイベントに、安倍首相は必ずといっていいほど顔を出してスピーチ、その姿をテレビカメラが追いかけニュースとなった。

「見えない」ことは問題として認知されない。意思決定層に女性が少ないことは問題である、組織で女性の力が生かし切れていないという安倍首相の折に触れてのメッセージが、問題を「見える化」したこと、福利厚生ではなく経営戦略として女性活躍を位置付けるよう促したことは評価できるだろう。

女性役員登用に向けての動きも早かった。2013年に経済3団体に「上場企業は女性役員を最低ひとりは置くように」と首相自ら要請し、15年には有価証券報告書に役員の男女別人数、女性比率の記載を義務づけた。18年のコーポレートガバナンスコードの改定では、女性取締役の登用を促し、達成できない場合は説明を求めるとした。こうした働きかけが女性取締役増の契機となった。

企業を動かすために政府がとった施策は、おもには女性活躍に関する情報を開示するように求めて変化を促すというソフトなアプローチだった。女性割合を定めて、達成しない場合は罰則を科すといった強制力のあるものではない。

2015年に成立した女性活躍推進法では、従業員301人以上の組織に対して、女性活躍推進計画の策定、提出、情報の一部公開が義務付けられた(2022年からは従業員101人以上)。公開情報をもとに女性活躍推進企業に投資をするファンドが作られ、ESG投資が膨らむ一因ともなった。また女性活躍を進め業績も認められる上場企業を対象にした「なでしこ銘柄」の選定も、企業の背中を押すことになった。

これらが奏功し、女性の就業率は70%を超え、子育て期に就業率が落ち込むM字カーブは解消されつつある。女性の雇用者も300万人強増えた。一方、女性リーダーは増えたといっても、ようやく企業の管理職は11・9%(2019年度雇用均等基本調査)、女性取締役比率は5・2%(2019年7月末、役員四季報)、国会議員の割合は衆議院では約1割にとどまる。

冒頭で述べた通り、202030は未達に終わった。政財界の女性リーダーの少なさが響いて、2019年末に発表されたジェンダーギャップ指数が153か国中121位と過去最低になったことは、よく知られている通りである。さらに男女の賃金格差は、2013年から2019年にかけて男性100に対して女性は71から74となったものの、その差は僅か縮まったに過ぎない。これもまた、121位低迷の一因だ。

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足りなかった3つの施策

では、声高らかに「女性活躍」の旗振りをしてきた安倍政権の施策に何が足りなかったのか。

その①アクセルの踏み込みが足りなかった

ひとつは、「アクセル」の踏み方が弱かったことだ。その背景にあるのは、社会全体の「危機感の薄さ」だ。市場が変化するなか、女性をはじめ多様な人材を生かさないとイノベーションを起こせない、このままでは組織も、国も沈んでしまうという危機感だ。組織を担う人材を、男性だけではなく、女性もLGBTQも含めて広く社会全体から募ることで、競争力が高まるのは間違いない。

しかし日本はこの危機感の薄さで、先進国の中で大きな後れをとっている。男女格差を是正するため、変化を加速させる必要があるとして各国が導入するのが、ジェンダー・クオータ制(割当制)だ。

たとえば政治分野では、候補者の一定割合を女性もしくは男性に割り当てることで女性議員を増加させるといった動きが先進国に広がるなかで、日本は男女候補者の均等を各政党に求める「努力義務」しかない。「政治分野における男女共同参画推進法」が2018年に施行されて後初めて行われた2019年の参院選をみると、当選した女性議員数は前回と「同数」だった。罰則規定のない努力義務では効力がないことが実証されることとなった。

格差是正をするために期間限定で強制力のある施策でアクセルを踏み込んで変化を加速しよう、こんな議論が盛り上がらないのは、危機感の欠如ではないか。

強制力のある施策ではなく、情報開示を求めることで企業の業界横並び意識を刺激して変化を促すといった、間接的なアプローチは正攻法である。各政党に候補者の男女均等を促す施策も軋轢は少ない。

しかし、変化に時間がかかる。世界経済フォーラムがあらゆる分野で男女平等を実現するのに99・5年かかると試算するように、日本でも今のままではトップ層まで、さらには津々浦々までジェンダー平等を実現するには100年かかるかもしれない。

孫の時代どころか、ひ孫か玄孫(やしゃご=孫の孫)の時代になるということだ。100年玄孫プランか、あるいは生き残りをかける喫緊プランか、時間軸をもって議論をしたい。いつまでにどこまで実現するのか、どのような実効性のある策を打つのか、合意形成する必要があるだろう。

その②共働き社会へと転換できなかった

2つ目は、男性稼ぎ主の片働きから共働き社会へと仕組みを転換しきれなかったことだ。90年代後半に共働き世帯が主流となり、いまや片働きの約2倍に達する。にもかかわらず、組織では男性中心型雇用慣行から抜けきらず、税制・社会保障制度もそれを補完する。

1986年に男女雇用機会均等法が施行されると同時に、会社員や公務員の配偶者に扶養される専業主婦(夫)の年金保険料納付を免除する「第三号被保険者」制度ができた。共働き社会への転換に向けてアクセルとブレーキを同時にかけたのである。その後、扶養枠の見直しがなされるものの、安倍政権下でもブレーキにあたる「配偶者控除」や「第三号」の制度は温存された。雇用慣行や税制・社会保障制度が「男性は外で働き、女性は家庭を守る」という性別役割分業を色濃く残す限り、女性は家庭を守ることを中心にするライフスタイルに誘導されてしまう。

コロナ禍では女性が職場の仕事だけでなく、家庭でケア労働の大半を負担していたことが改めて浮き彫りになった。安倍政権が掲げる「女性が輝く社会」の裏で、女性は新たな性別役割分業「女性は仕事も家庭も」を担うことになったのである。女性が仕事も家事も、育児も介護もといったダブルワーク、トリプルワークにならないような共働き社会の仕組みづくりを急ぐ必要がある。ようやく緒に就いた男性育児休業取得の後押しにも力を入れるべきだろう。また202030と同様に目標未達が必至となった、「2020年度末までに待機児童ゼロ」の対策も、言うまでもなく喫緊の課題である。

その③安定した雇用を創出できなかった

3つ目は、安定した雇用の創出が十分ではなかったことだ。女性の雇用者が300万人強増えたといっても、うち57%は非正規雇用である。報道の通り、コロナ禍では非正規、なかでも女性が大きな打撃を受けている。2020年7月の労働力調査では、非正規従業者が前年同月比で131万人の減少となった。うち81万人が女性である。

非正規の多くが主婦パートだから低収入でも問題ないだろう、というのは旧常識である。2016年「パートタイム労働者総合実態調査」と2017年「就業構造基本調査」から筆者が試算したところ、配偶者のいない約130万人の女性がパートで生計を立てている。非正規で働く女性の約7割が年収150万円未満であり、母子家庭や単身一人暮らしでは生活が厳しい。

そんな一人である栗田隆子は著書『ぼそぼそ声のフェミニズム』のなかで、「『ガラスの天井』につきあたるような優秀な女性ばかりではない」「アルバイトであれ正社員であれ、1日8時間の単純労働で月給手取り15万円もらえていたら……」と呟く。

安倍政権下では2018年働き方改革の中で「同一労働同一賃金」のガイドラインが示され、大企業には2020年4月から、中小企業にも21年4月から施行される。女性活躍推進の波が大企業正社員の女性だけではなく、非正規にもあまねく広がるようにすることが次の課題だ。女性が経済的に自立できるような雇用対策が求められる。

経済的自立

このままでは日本は衰退の一途を辿る

このように、安倍政権下の女性活躍推進の取り組みでは、地道な成果もみられるが、一方で、あと一歩踏み込みに欠けた点もあることが分かる。


1、社会全体の危機感を受けてのアクセルの踏み込み不足
2、片働き社会から共働き社会へと仕組みを転換しきれなかったこと
3、安心できる雇用の創出が不十分だったこと

本稿で挙げた3つの課題は、「202030」未達の原因と根本でつながっている。積極的な格差是正策(ポジティブアクション)と共に、社会全体の仕組みを変えていかない限り、女性リーダー30%、さらにはその先にある意思決定層パリテ(男女同数)は見果てぬ夢に終わるだろう。

さて安倍首相の退陣とともに、女性活躍推進の潮流もしぼんでいくのかと懸念する声も上がる。もしもそうなったら、日本は衰退の一途である。

202030がなぜ達成できなかったのか、安倍政権が敷いた女性活躍の道筋の評価できる点、不十分だった点を今一度総括して、次期政権は次のステップへと歩を進めるべきだろう。

日本

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野村浩子(のむら ひろこ)ジャーナリスト。1962年生まれ。84年お茶の水女子大学文教育学部卒業。日経ホーム出版社(現・日経BP)発行の「日経WOMAN」編集長、日本経済新聞社・編集委員などを務める。日経WOMAN時代には、その年に最も活躍した女性を表彰するウーマン・オブ・ザ・イヤーを立ち上げた。2014年4月~20年3月、淑徳大学教授。19年9月より公立大学法人首都大学東京(20年4月より東京都公立大学法人)監事、20年4月より東京家政学院大学特別招聘教授。著書に、『女性リーダーが生まれるとき』(光文社新書)、『女性に伝えたい 未来が変わる働き方』(KADOKAWA)、『定年が見えてきた女性たちへ』(WAVE出版)などがある。




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