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予約半年待ちの有名店「肉山」の焼肉弁当|パリッコの「つつまし酒」#113

あの「肉山」が、向こうからやってくる?

 ある日、我が家のポストに1枚のデリバリーチラシが入っていました。ん? なんだか全体的に茶色いな。良さそうだな。と思ってよく見てみると、なんと「吉祥寺『肉山』の焼肉弁当」と書いてあります。
「肉山」と言えば確か、数ヶ月先まで予約が埋まっているなんて聞く有名店。なんでも、メニューは5000円だかのおまかせコース一択で、夢のように美味しい肉料理が次から次へと、「もう食べられないよ〜」ってくらいに出てきて、肉好きなら120%大満足待ちなし! なんて噂に聞く、あの肉山ですよね? ず〜っと前から、ぜひ一度行ってみたいなと思いつつ、計画性がなく、先の予約を取ったりするのが極度に苦手なもので、誰かに誘ってもらうのを待っていたところ、今のところ誰からもお声がかかっていないという、あの肉山ですよね?
 その肉山特製の焼肉弁当が、何? 家で注文すると、向こうからやってくる? これはすごいことなんじゃないでしょうか。とっても興味深いなと、あらためてじっくりメニューを読みこんでみます。
 ふむふむ、肉山のお弁当には、大きく分けてふたつの流派があるようです。醤油ベースの「秘伝ダレ」派と、「特製塩ダレ」派。それぞれに、もっとも高級な「肉山カルビの焼肉弁当」(2580円)から、「厳選豚バラの焼肉丼」(1280円)まで、10種類ずつ。加えて、「ソースかつ」系の弁当が3種類と、「鶏の唐揚げ」や「ポテトフライ」などのサイドメニューがいくつか。

いよいよ決行の日

 全体的にお弁当としてはかなり高級だけど、しばらくできていない外食と比べて考えれば、たまの贅沢として自分に許しを出していいレベルでしょう。なにしろ、あこがれの肉山のお弁当なわけですし。
 というわけで、いよいよ決行の日。我が家の娘はまだ4歳で、まだこういう肉をありがたがるほどの味覚ではないので、妻が仕事休みの平日、ふたりでふたつのお弁当を頼み、シェアして楽しもうということになりました。
 メニューをくまなく読みこんだ結果、やはりメインは焼肉弁当のよう。なかでもふたつ折り計4ページの表紙にどーんと鎮座しているのが、「肉山名物」とある「赤身肉の焼肉弁当」(1980円)。これは頼まざるをえないでしょうね。となるともうひとつは趣向を変えたい。そこで僕の大好きな豚ばら肉がメインの「厳選豚バラの焼肉弁当」(1480円)をチョイス。牛は秘伝ダレ、豚は特製塩ダレで、いざ注文!
 オーダーはスマホからあっという間にできてしまったんですが、こんなことで本当にあの肉山が我が家にやってきてくれるんでしょうか? そわそわしながら待つこと約20分。当初表示された到着予測時間より20分も早く、配達員さんが到着。その手から、確かにメニュー写真のとおりのお弁当を受け取ることができたのでした。いやはや、すごい時代になったもんだ……。

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わざわざ向こうからやって来てくれた肉山弁当

完全にイン・ザ・ヘブン

 大急ぎで届けてもらえたこともあり、まだかなりホカホカな状態のお弁当。こんなに美味しそうなものを酒なしで食べるのは失礼と、まだお昼ですが、ビール開けさせてもらいます。

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発泡酒でなく、ビールを

 さぁ、いよいよあこがれの肉山とご対面だ。まずは「赤身肉の焼肉弁当」から。おずおずと肉をひときれ持ち上げ、パクッとひと口でいただきます! すると……う、うお、こりゃあすごい! まず、ふだん食べている赤身肉から想像していた10倍は肉が柔らかい! そして、どんなにいい肉を買ってきて家で焼いてもこうはならないんだよな、っていう専門店の味。そこにテンションがあがる。下処理とか、漬け込みとか、熟成とか、よくわかんないけどそういう関係なのかな? いやそもそも、仕入れルートからして違うのかな? とにかく、暴力的に食欲をそそるんだけど、同時に気品もある、なんとも幸せな味が口いっぱいに広がります。
 続いてタレの染みたごはんをほおばる。あ〜、米も最高にうまい! こ〜りゃたまらんわと、ここでやっとビールに到着。ゴクゴクゴク……っふぅ、完全にイン・ザ・ヘブンですねこれは。

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肉の宝石箱

 お次は「厳選豚バラの焼肉弁当」。まずですね、厚切りの豚肉がこれでもかと何重にものる、見た目の贅沢感からしてやばいです。

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豚ばら好きにとってこれ以上の絶景があるか?

 もはやさっきの牛で勢いもついてます。豚ばら肉をがさっと3枚くらい箸でつかみ、がぶりと豪快に食らう。うわ〜、たまらん! きちんと歯ごたえもありつつ、ジューシーな脂の旨味が噛めば噛むほど溢れだす、めっちゃくちゃ美味しい豚肉だ。いや〜、厳選したな〜、肉山さん。
 また、尖ったところのないまろやかな味ではあるんだけど、ごま油やニンニクの香りでしっかりパンチもある塩ダレ、これがいいんですよ。豚は塩ダレにして正解だったな。……いやでも待てよ、さっきの醤油ダレでも食べてみたいか。う〜ん、翻弄してくるな〜。
 と、夢中になってガツガツがぶがぶやっていたら、さっき我が家にやってきたばかりのふたつのお弁当は、あっという間に僕の目の前から消えてしまっていたのでした。
 いやぁ、スペシャル感あった。また食べたい。そうだ、今日から「肉山小銭貯金」でも始めようかな……。
 ところで、お店のほうの肉山って、こんなレベルの肉のいろいろな部位が、焼きたてでどんどん出てくるわけですよね? そりゃあちょっととんでもなさすぎますよ。行った帰り道に死なないか心配。でも、やっぱりいつか行ってみたいな〜。

パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。
2020年9月には『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)という2冊の新刊が発売。『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。Twitter @paricco

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