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【30位】ベン・E・キングの1曲―夜闇が地を覆い、空が墜ち、山が海に崩れようとも

「スタンド・バイ・ミー」ベン・E・キング(1961年4月/Atco/米)

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Genre: R&B, Soul
Stand by Me - Ben E. King (Apr. 64) Atco, US
(Ben E. King, Jerry Leiber and Mike Stoller) Produced by Jerry Leiber and Mike Stoller
(RS 122 / NME 65) 379 + 436 = 815

一説によると、録音されたカヴァーだけで400種を超えるという。最も有名なのが、75年のジョン・レノンによる名唱か。「カヴァーなのに」彼のソロ・キャリアのなかでも指折りのエポックとなったのは、この曲の力ゆえだ。86年には、スティーブン・キングの中篇小説を原作とした同名映画のテーマ・ソングとしてリヴァイヴァル・ヒットした。07年には、ショーン・キングストンの「ビューティフル・ガールズ」があった。売れに売れたこのナンバーは、当曲の印象的なベース・ラインをサンプリングしていた。

などと挙げ始めると、本当にきりがない。人類史に残る名曲、と呼んで過言ではないこれを書いたのは、オリジナル版を歌ったベン・E・キングと、リーバー&ストーラーだ。つまり「監獄ロック」(56位)「ハウンド・ドッグ」(50位)を書いた才人コンビが、キングのアイデアに肉付けした。「あのベース・ライン」は、ストーラーの発明品だ。

この曲は、ラヴソングともとれる。愛する人(ダーリン)に「そばにいておくれ」と繰り返し呼びかけるからだ。しかし恋愛ではなく、前述の映画のように「無二の親友」が相手でもいいかもしれない。親族でもいい。あるいは一度も会ったことはなく、一方通行の感情だったとしても「心を寄せた」相手に、呼びかけているのかもしれない。「あなたがいてくれるならば」なんとか自分はやっていけるんだ、と。いなければダメなのだ、と。

つまり当曲の主人公は、なんとも不穏な前提に立っている。これから「とてつもなく恐ろしい」目に遭う可能性について述べ、だからこそ「あなた」が必要なのだと言うのだが、この構造は旧約聖書の詩篇46に基づいている。人がいかなる困難に遭遇したときにも、神はかならず「避難所となってくれる」ことを述べた詩だ。当曲のヴァース1および2の「恐ろしい」状況の描写は、ここからの孫引きにあたる。20世紀初頭に世に出た、当曲と同名のゴスペル・ソングが下地となっているからだ。つまり「神様由来」のハードな世界認識が、このナンバーを凡百のラヴソングとは一線を画するものとした。だから「ソー、ダーリン、ダーリン」のところから、胸かきむしられる情感が炸裂するのだ。

キング版は、発売当時にまずビルボードHOT100の4位まで上昇、R&Bチャートの1位を記録。またのちに幾度も、米英のみならず世界のいたるところでリヴァイヴァルし、チャートに復帰し続ける。99年、米著作権管理団体BMIは、当曲を「20世紀で4番目に多く実演された歌」だと認定した。およそ700万回が確認できたという。

(次回は29位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。

川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki



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