「パリッコラーメン」開発計画|パリッコの「つつまし酒」#128
おでんを作っていて、ふと……
季節が徐々に夏から秋へと移り変わり、肌寒い日がちらほらと増えだすと、がぜん食べたくなるのが、おでん。僕も先日、さっそく今季初のおでんを作ってたらふく堪能しました。
我が家のおでんスープの定番は、たっぷりの鶏皮でだしをとり、そこにミツカンの「プロが使う味 白だし 地鶏昆布」を味を見ながら加えるだけ、というもの。あとは好きな具材を加えれば、それだけで非常〜に濃厚な、絶品鶏だしおでんが完成してしまうんです。
この組み合わせがすごい
ところで、おでんを作る際はまず、先述の組み合わせでベースとなるつゆを作ります。そのときにいつも思うのが、このつゆ、そのままラーメンスープとして使えるよな、ということ。後に大根やら練り物やらを入れてしまうので、最後はもちろんおでんとしか言いようのない料理に至るわけですが、鶏皮からだしをとって白だしを加えた時点では、どう考えても美味しいラーメンスープそのものなんですよね。
そこで僕は思いました。いちどこれをベースに、おでんではなくてラーメンを作ってみよう、と。
いや、ラーメンの世界がものすごく深い底なし沼だということは、もちろん存じております。ただ、なにも豚骨や鶏ガラを大鍋でぐつぐつと煮込んで、本格派こだわりスープを作ることだけがラーメンの楽しみではないはず。簡単で時間もかからず、だけど自分好みなラーメンスープレシピをひとつくらい持っておくと、ちょっとほら、いいじゃないですか。
つまり今回は、僕だけのラーメン、「パリッコラーメン」のレシピを開発しちゃおう! がテーマというわけですね。
まずは鶏皮×白だしスープで
そこでまずは、シンプルに先ほどの鶏皮と白だしベースのスープを作ってみることにしましょう。ふだんは大さじ小さじなどに縁のないフィーリング料理ばかり作ってますが、今回はレシピ開発なので、調味料の分量なども正確に計りながら加えていきます。
それではスタート
2人前を想定し、まずは鍋に1リットルの水、鶏皮200g、おまじない用にねぎの青い部分を入れて火にかけます。
10分ほどで鶏皮からは美しい黄金色の鶏油がたっぷりとあふれだし、ものすごく食欲をそそる香りが。そこに白だしを大さじ4、よりラーメン的なニュアンスを出すために醤油を大さじ1、それから、なんとなく酒少々、ニンニクチューブ少々、さらに、チャーシューがわりにハムを4枚。もういちど煮立ってきたら、スープのほうはもういいでしょう。
どうです? このそそる水面
今回はスープがメインということで、麺は市販の中華麺をゆで、ねぎとメンマも加え、どんぶりによそってスープを注げば、あっという間にパリッコラーメン試作版第1号の完成!
なかなか端正な見た目だ
さてどうだ? と、まずはスープをひとくち。ほほ〜、あ、こうなるんだ。もっとこってりとした味わいになるかなとの予想に反し、かなりあっさりしてますね。いわゆる、ちょっと物足りない味というか。あと、ハムを入れるのが早かったか、ハムの味がかなりする。これはないほうがよかったな。
もちろん、うまいはうまい。見知らぬ街でふらりと入った街中華で500円のラーメンを頼んでこれが出てきたら「そうそう、こういうのがいいんですよ!」なんてじんわりしてしまう自信はある。
けどな〜、これを「パリッコラーメン完成です!」と世に発表してしまうのは違う気がする。というかそもそも、銘柄まで指定して市販の白だしに頼っている時点で違う気がする。
そこで計画は第2段階へ。調味料をすべて一般的なものに変え、加えて今回の反省を生かして具材を調整し、さらにオリジナルなスープを作っていきたいと思います。
完全オリジナルスープの開発へ
鍋に水1リットルと酒少々、鶏皮200g、ねぎの青い部分は前回と変わらず。白だしの「地鶏昆布」要素としてだし昆布を1枚。それから豚の旨味もあったらよかろうと、豚ばら肉を200g。ブロックのほうがそれらしいかとも思いましたが短時間で手っ取り早く旨味を抽出するため、厚めにスライスしたものにしました。
それから玉ねぎ1/2個、にんじん1/3本、皮つきのにんにく3かけ。あまり詳しくはないんですが、鶏や豚には「イノシン酸」、昆布や玉ねぎやにんじんには「グルタミン酸」という旨味成分が多く含まれ、それらをかけ合わせることでぐんと美味しさがアップすると聞いたことがあります。
とくればあれだな、きのこの旨味成分「グアニル酸」も欲しいところだ。となると、干ししいたけの戻し汁? いやいや、それはちょっと面倒だ。我が家でもっとも常備率が高いきのこ、マッシュルームではだしはとれないのかな? と調べてみると、しいたけよりは少ないもののグアニル酸はちゃんと含まれていて、しかも加熱すると増加するんだとか。さらにマッシュルーム、グルタミン酸までたっぷりと含まれているらしい! こりゃ〜いいだし出そうじゃん! と、5つほどぽちゃぽちゃ。
頼む! いいスープになってくれ!
鍋に火をつけ、沸騰したらあくをとり、火を弱めにして15分ほどくつくつ。ちょっと味見してみると、お! 手前味噌ながら、それぞれの食材の旨味がすごくいいバランスな気がする。
そこに慎重に味を見つつ、塩小さじ1、醤油大さじ2、ちょっと甘味もいるかな? と、みりん大さじ1。さらに、冒頭で紹介したミツカンの白だしのボトルに「地鶏・昆布・鰹の合わせだし」と書かれていたことに気づき、もしかしたらと小分けパックのかつお節を1袋お茶パックに入れて加えてみたところ、お、ぐっとラーメンらしさが増した!
これ、ついに完成したんじゃないですか!?
こりゃうまいでしょう
さっそく麺をゆで、ねぎ、メンマ、味玉、さらにはスープ作りの副産物であるチャーシュー風のゆで豚をたっぷりと盛りつけ、スープを注げば、ついにパリッコラーメン試作版第2弾が完成
いただきます
まずはスープをひとすすり……あ〜、これはうまいわ。
ものすごく優しくてふくよかな味わいで、市販のインスタント麺のような刺激的な旨味が強いわけではありません。よく考えたら、無化調ってやつだもんな。だけど、鶏、豚、昆布、かつお、野菜などの旨味が、それぞれきちんと感じられ、じわじわ〜っと心身を癒してくれるような美味しさ。ひと口、またひと口と、うっかりしているとスープをすすり続けてしまいます。
美しいスープだ
おっといけない、と麺をすすると、あの優しいスープが麺に絡んでずぞぞぞぞと口のなかへ。あぁ、快感。
おっとなおさらいけないいけない。このラーメンには、絶対ビールが必要だ。そこで、自宅なのにわざわざ小グラスを用意し、注いでは飲む。飲んでは麺をすする。すすっては注いで飲んですすって……なんて幸せな時間なのでしょうか。
豚肉もそこまで旨味が抜けておらず、一緒に煮込んだスープの味がしっかりと沁みて絶品だ。しかも鍋にはまだまだ残ってる。こりゃあ今夜は、煮豚、メンマ、味玉の中華おつまみ3種盛りで晩酌か〜? あ〜楽しみ。
というわけで、パリッコラーメン開発計画は今回、偉大なる(?)第一歩を踏み出しました。だが、もちろんここで終わりではない。ラーメン、それは無限の宇宙。いずれは自家製麺にも挑戦したいし、スープだってまだまだ成長の余地があるはず。今回のレシピをベースにさらなるオリジナリティーを加えてゆくことにより、パリッコラーメン、略して「パリラー」をさらに進化させることが今後の僕の使命と言っても……過言ですかね?
【パリッコラーメン・レシピ】
水 1リットル
酒 少々
鶏皮 200g
豚ばら肉スライス 200g
だし昆布 1枚
玉ねぎ 1/2個
にんじん 1/3本
マッシュルーム 5個
ねぎの青い部分 1本
にんにく 3かけ
かつお節 1パック
醤油 大さじ2
塩 小さじ1
みりん大さじ1
以上を煮てスープを作り、お好みの麺や具と合わせて盛りつける。
パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco