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【75位】ジェームス・ブラウンの1曲―男の、男の、男の、嘆き節の切なるソウルは熱く

「イッツ・ア・マンズ・マンズ・マンズ・ワールド」ジェームス・ブラウン(1966年4月/King/米)

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Genre: Soul
It's a Man's Man's Man's World - James Brown (Apr. 66) King, US
(James Brown, Betty Jean Newsome) Produced by James Brown
(RS 124 / NME 288) 377 + 213 = 590

「JB」の頭文字を聞いただけでだれもがひれ伏す、あるいは踊り出す、「ソウルのゴッドファーザー」ことジェームス・ブラウンの、激越な人生のなかでも屈指の充実期だったのが60年代中盤。そんな時期に発表された、彼の代表曲のひとつがこのナンバーだ。

とにもかくにも、エモーショナルなソウル・バラッドだ。「ディスイズ・ア・マァァァンズ~」の歌い出しだけで、もう条件反射のように打ちのめされてしまう人がいても、不思議はない。しかもこの「あふれすぎる」情緒の出どころがユニークで、フェミニスト・ソングとして制作された点にあった。ただし、男根主義的な古い時代の価値観・世界観にもとづいて「女性の存在をあがめようと」試みた歌、というただし書きがつくのだが。

のっけから「この世界は男が作った」と、男の実績の実例が縷々述べられる。男は自動車を、列車を、電灯を、船を、ノアの箱舟だって作った。「だがしかし」女(Woman)や女の子(Girl)がいなければ、「なんの意味もないんだ」――と、こういう内容だ。

だから当然「ちょっと待った!」との意見も多く、近年では、07年の英〈ガーディアン〉にて、いろんな曲を「フェミニスト・ソングとして見た場合」のレーティングと寸評が記されていたのだが、当ナンバーには「10点満点中の1点」と手厳しいものだった。

とはいえ――玄妙と言わざるを得ないポイントが、この歌にはある。「主人公が悩んでいる」様が活写されているところだ。つまりこの歌は、強烈な嘆き節なのだ。「マンズ・マンズ・ワールド」である現実は、歌の主人公にとって「耐えがたくつらい」ものであることが、圧倒的熱量で伝えられる。この悩み、心痛の転写を、まるで教会のお説教のように段上でシャウトするのが我らがJBであって、この構図の全体に、まず聴き手は吸引されるのだ。フェミニスト・ソングとしては不完全ながらも。その燃えたぎるソウルに。

というこの曲の歌詞は、JBの当時のガールフレンドだった、共作者のベティ・ジーン・ニューサムがじつはほとんど全部書いた。だがのちに印税の配分などでトラブルがあったという。もちろん「JBが彼女にきちんと支払わない」ことが問題視された……という裏話まで含めての「業」も、当曲の伝説に彩りを加えた。

ビルボードHOT100では8位まで上昇。R&Bチャートでは1位。全英では13位を記録。幾度も繰り返し映画やTV番組で使われ、カヴァーされ、アンサー・ソングまでよく作られた。そんな「いわくつき」の名曲が、このナンバーだ。

(次回は74位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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