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♯01_飛沫を避ける仮想コミュニケーション

SNSなどのソーシャルメディアが発達した昨今、マナーやコミュニケーションにも変化が生じています。この連載では、独特の画風、そして鋭い観察眼と妄想力で描く文章が人気の辛酸なめ子さんに「最近の大人のマナー」を綴っていただきます。

最近、駅でイチャつくカップルを見かけない

2019年までは、何も考えずに飛沫を浴び放題の日々でした。それが今や状況が一変し、パンデミックの世の中で人々は飛沫感染を怖れるようになりました。人間関係にも大きな影響を及ぼしています。

お店などには飛沫防止シートやパネルが導入され、社会生活を送る上でマスク着用が必須になりました。そういえば、最近駅などでイチャつくカップルをあまり見かけない……と思ったのですが、さすがに密集する駅構内でお互いの飛沫を吸い込む行為はリスクが大きいということなのかもしれません。

「唾液が飛び交う宴会」という言葉のインパクト

飛沫といえば、大阪府が感染者が減ったのを受けて「5人以上の飲み会の自粛」の要請を8月末に解除。引き続き「多人数での唾液が飛び交う宴会」は控えるようにという呼びかけがありました。

「唾液が飛び交う宴会」という言葉のインパクトにハッとしました。「飛沫」と間接的な表現をせず、はっきり「唾液」と明言していて、これまで普通に行われていた宴会は、知らず知らずのうちに唾液の応酬や交換になっていたのだと気付かされました。

ソースの2度づけはもちろんのこと、鍋の文化、じか箸で料理を取る行為なども厳しくなってしまうのでしょうか。お酒を飲むと知らずのうちに声が大きくなって唾液を飛ばしてしまいます。それが顔や料理にかかったり……。

これから新しい日常では、「あいつツバ飛ばすから誘うのやめようぜ」と判断基準になったりしそうです。また、喋る前にはあらかじめ唾液を飲み込むとか、マフィンやスコーンなどを食べて口の中の唾液を干上がらせておく、といった新しいマナーが推奨される世の中になったり……と妄想はつきません。唾液を少なくするツボを会食中に押した方が良さそうです。

ちなみにサイゼリアで推奨されていた、食事中もつけられるマスクの提案(マスクに紙ナプキンを挟んで口を覆う)は、実際やったら結構貧乏臭かったのであまりおすすめできません。

飲み会

「行為」の時はマスク着用でキスを避ける?

唾液といえば、先日ある商店街で「絶対にお札をなめないでください」とレジ横に貼り紙をしているお店を見つけて、その強い口調に、感染症対策への意識の高さを感じました。

他人の唾液が危険視される今、さらにディープなコミュニケーションだと、キスなどの濃厚接触がしづらくなっている現実があります。各国の健康に関する団体がガイドラインを出しています。ニューヨーク市保健精神衛生局(DOHMH)は、同居している安全なセックスパートナー以外と行為をいたすときは、顔を覆うマスクやフェイスガードを着用し、キスを避け、消毒していない手で目や鼻や口を触らないように、と提言しています。

英語で唾液は「saliva」だとこの書類で学びました。直接合うよりも、ZOOMなどでの「動画セックス」を薦めていて、人類は新たな局面に行きつつあることを感じさせます。

ハーバード大学による「新型コロナ時代の性的健康」という論文や、イギリスのテレンス・ヒギンズ財団によるガイドラインも、行為の時はマスク着用でキスを避けることを薦めていました。マスクプレイを想像すると、フェティッシュ的な行為に思えます。舌にはACE2受容体(ウイルスが入り込む組織)があるため、キスで感染するリスクが高いようです。その反面、飛沫や唾液を交換し、お互いのバクテリアを共有することで免疫力がアップする、というキスの効果についての記事を見たことがありますが、それができなくなって人類は大丈夫なのでしょうか……。

キス

ドラマ「半沢直樹」で得られる「飛沫擬似感」

リアルでスキンシップや飛沫交換ができない今、新たなニーズが生まれつつあるように思います。それは、テレビやドラマを観て飛沫を疑似体験する、という……。

例えば毎回視聴率が20%超えで大ヒットしている「半沢直樹」。銀行員が巨悪と戦い成敗する、というカタルシスを得られるストーリーが受けているのだと思いますが、もしかしたら今、世の中の人ができないことをやってくれているシーンが多いのも人気の理由かもしれません。

このドラマを観て感じたのは、役者同士の顔が近い、ということ。もうすぐキスするんじゃないかと思うほどの距離感で男同士にらみ合ったり、突然声を荒らげて叫んだり……。

大金を扱うと人はおかしくなってしまうのかと思わされる演出。「おしまいDEATH!」「わびろわびろわびろわびろわびろ半沢!」「お~ね~が~い~し~ま~す!」「さあさあ!」「さあさあ!」などと大迫力で叫んでいて、笑いと恐怖を刺激されます。

こんなに飛沫を浴びせまくるコミュニケーションは、今は通常では考えられません。「半沢直樹」撮影現場では、スタジオ入りする前に消毒液で手指を消毒し、靴裏を拭いて、不要不急の会話をしない、物を手渡ししないといったルールが徹底されているそうです。出演者は細心の注意を払った上で飛沫を浴びせ合っているのでしょう。視聴者として、そんな登場人物を見ることで飛沫疑似感が得られます。「非接触型仮想コミュニケーション」とでも名付けたいところですが、スキンシップに関しても疑似感で少し心が満たされます。

BLドラマの麻酔効果

このところ私はタイのイケメンが出てくるBLドラマ「2gether The Series」にハマっていて、男子大学生のサークル活動や恋愛を描いた青春ラブコメストーリーも素晴らしいのですが、とにかく主演の2人がかっこよくて適度にイチャついてくれるのが目の保養です。プリッツを両側から食べながらキスしたり、狭いソファで抱き合って寝たり、頭を撫でたり……。

そんな萌えシーンの数々を見つめがら、男女のドラマだったらつい女性側に感情移入して、こんなシーンを体験したい、と思ってしまうけれど、美しいBLの場合は自分は参加しない心境でずっと傍観者でい続けられ、それでも多幸感に満たされることに気付きました。スキンシッブがしたい時は、2人の幸せな姿を見て心を満たすというのは、一種の悟りの境地(もしくは魔境?)ではないでしょうか。しかも脳髄が痺れたようになって、コロナの恐怖をあまり感じなくなるという、萌えの麻酔効果が。

しばらくは、ドラマで飛沫スキンシップを体感する、非接触型仮想コミュニケーションで行こうと思います。勢い余って、タイのBLの美青年の写真をLINEで次々と友人に送っていたら、反応がなくなってきて現実の友情も疎遠になってしまいそうです。

ますます仮想のドラマに没入して慰められるしかありません……。

今月の教訓
濃厚接触は疑似体験にとどめて、自分の飛沫は自分で飲み込みます。

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辛酸なめ子(しんさん なめこ)
1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。 漫画家、コラムニスト。女子学院中学校・高等学校を経て、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。恋愛からアイドル・スピリチュアルまで幅広く執筆。著書に『大人のコミュニケーション術』(光文社新書)、『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)、『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)、『霊道紀行』(角川文庫)、『辛酸なめ子と寺井広樹の「あの世の歩き方」』(マキノ出版)などがある。
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