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第17回【84位】「ハウ・スーン・イズ・ナウ?」ザ・スミス(1985年1月/Rough Trade/英)

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Genre: Indie Rock, Post-Punk
How Soon Is Now? - The Smiths (Jan. 85) Rough Trade, UK
(Johnny Marr•Morrissey) Produced by John Porter
(RS 477 / NME 4) 24 + 497 = 521

沼ギターに捕らえられた懊悩の詩人が、無限地獄の中心で

さぞやイギリス人はこの順位に不満だろう。〈NME〉の500曲リストでは堂々4位だったこの曲が、〈ローリング・ストーン〉のせいでこんな低位に……という英米間での分裂具合が、ときに「さもありなん」と思わされるバンドの筆頭こそ、80年代中期UKインディー・ロックの薄暗き象徴、ザ・スミスだ。彼らの代表曲のひとつがこれだ。

この曲の主役は、作詞者にしてヴォーカリストのモリッシー、ではない。トレモロ・ギターによるリズム・カッティングこそが、主役だ。「ぶわぁん、ぶわぁん」とこだまするように鳴るサウンドが、まず聴く者の耳を奪う。それが曲の最初から最後まで、延々続く。シングルでは3分台にカットされたが、オリジナル版は6分以上もあった。

これはギタリストのジョニー・マーの新境地だった。ザ・バーズ直系のキラキラした音色でジャカジャカ鳴る「ジャングリー」ギターの使い手として、マーはインディー界屈指のギター・ヒーローとなった。要するに「リフ」によって、つねに端正に、的確に、楽曲をリードし続ける「リズム」を叩き出す天下一品のセンスと腕前が彼にはあったのだが、それをここで発展させた。フェンダーのアンプ、ツイン・リヴァーブ4台を連結、トレモロを重ね、手作業でこのサウンドを練り上げた。それは転生したボ・ディドリーみたいな「Swamp(沼的な)」ギターが、聴き手のなかに酩酊を生み出すものだった。ちょうどこの曲の数年後に全英を覆うアシッド・ハウスみたいに。

このサウンドがすべてを「支配する」ことによって、ユニークな抑制効果が生まれた。苦悶とその恍惚を歌うカリスマ、憂いと鬱屈の桂冠詩人であるモリッシーを、あたかも縛り付けられた聖セバスティアヌスのごとく拘束した、とでも言おうか。内気な青年の孤独を歌う歌詞が、ここでは激情へと過度に傾斜していかない。「愛を求めながらも、得られない狂おしさ」の地点のど真ん中で、逃げ場もないままに、主人公の痛みだけが、呪わしく長く長く「ぶわぁん、ぶわぁん」と反響し続けるのだ。まるで無限地獄のように。

初出はシングル「ウィリアム、イット・ワズ・リアリー・ナッシング」(84年)のB面だったのだが、ジョン・ピールらラジオDJの熱心な推しもあり徐々に人気が上昇。あらためて表題曲としてシングル発売された(全英24位)。コンピレーション盤『ハットフル・オブ・ホロウ』(84年)や、アルバム『ミート・イズ・マーダー』(85年)のアメリカ盤にも収録された。マーいわく「スミスで最も末永く愛された曲」だという。

(次回は83位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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