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【第32回】なぜイスラエルが世界を動かすのか?

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★現代の日本社会では、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」こそが、最も厳選されたコンテンツといえます。この連載では、高橋昌一郎が「教養」を磨くために必読の新刊「新書」を選び抜いて紹介します!

「エルサレム宣言」の背景

イスラエルといえば徹底したコロナ政策が思い浮かぶ。2020年3月4日、議会総選挙を終えたばかりのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、その時点で国内に新型コロナウイルス感染者が10人程度だったにもかかわらず、外国人の入国を拒否する「鎖国政策」と感染者をAIで追跡する「監視政策」を定めた。

さらに、日本の10分の1以下の人口に対して毎日1万件の「PCR検査」を実施、2021年4月26日時点でワクチン接種(1回以上)の割合を62.26%と世界第1位にした。ちなみに、この時点でアメリカの接種率は42.15%、日本は1.64%と大幅に遅れていた。5月4日、ネタニヤフ首相は「初期段階のパンデミックは乗り切った」と勝利宣言し、経済活動の緩和に踏み切った。

本書の著者・澤畑剛氏は、1975年生まれ。東京外国語大学外国語学部アラビア語専攻卒業後、NHKに入社。報道局国際部・カイロ支局などを経て、現在はエルサレム支局勤務。本書は、2017年以降のイスラエル最前線ルポである。

さて、なぜイスラエルが世界を動かすのかといえば、イスラエルがアメリカを動かすからである。2018年の統計によれば、アメリカ合衆国の人口の約23.1%が無宗教、約23.0%がカトリック、約22.5%が福音派、約11.0%がプロテスタント主流派である。つまりアメリカ人の2人に1人以上がキリスト教徒であり、そのキリスト教徒の2人に1人近くが福音派なのである。

「福音派(Evangelical)」とは、19世紀にイギリスのピューリタンから派生し、キリストの言葉(福音)すなわち「聖書」の教えを厳密に守ろうとする原理主義的な立場を指す。20世紀に「反中絶・反進化論・反イスラム」の右派保守主義を掲げて、アメリカ国内で急速に広まった。彼らは、ドナルド・トランプ氏を熱狂的に支持し、結果的に彼を大統領に当選させた。

アメリカのユダヤ人は約600万人にすぎないが、数千万人の福音派を加えると一大勢力になる。2017年12月、トランプ大統領は、イスラエルが軍事的に占領したエルサレムを「イスラエルの首都」と公式に認める「エルサレム宣言」を発表して、世界を驚かせた。彼は、イスラエル建国70周年の2018年5月14日、テルアビブのアメリカ大使館をエルサレムに移転させた。

エルサレムといえば、もちろんユダヤ教・キリスト教・イスラム教の聖地であり、その帰属は長く和平交渉のテーマになっている。トランプ氏の独断的な「宣言」は、EU諸国をはじめとする国際社会から大きな非難を浴び、国連では「撤回を求める決議」が総会で採択された(賛成128カ国、反対9カ国、棄権35カ国、欠席21カ国)が、アメリカは拒否権を発動した。

本書で最も驚かされたのは、国連決議も国際法も無視してイスラエルが続々と建設しているユダヤ人入植地に、福音派のアメリカ人がツアーを行っているという事実である。彼らは、キリストが十字架を背負って歩いたゴルゴダの丘の跡地を泣きながら歩き、広大なブドウ畑で何日も無償で働く。完成したワインはアメリカに輸出され、その大部分は福音派が購入して飲む。彼らがイスラエル支援のロビー活動を行い、アメリカを動かしているのである!


本書のハイライト

見渡せば、日本は不安定な中東から原油を輸入するだけでなく、イスラエルのイノベーションを取り込む時代に向かっている。立ちはだかる最大のリスクは、一触即発のイランvs.イスラエル・アメリカ・サウジアラビアの緊張関係だ。この問題は現在の中東で、平和構築を語るうえでも、日本がビジネスを行ううえでも避けては通れない。日本はこれを中東情勢の本丸の問題と捉えて、アメリカに追随するのではなく、緊張緩和に向けて独自のイニシアチブを発揮できないだろうか。歴史的な再編が進む中東情勢は、日本自身の問題にほかならないからだ(p. 231)。

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著者プロフィール

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高橋昌一郎/たかはししょういちろう 國學院大學教授。専門は論理学・科学哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『フォン・ノイマンの哲学』『ゲーデルの哲学』『20世紀論争史』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』など、多数。

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