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恋愛しなければ、結婚できない!? 未婚化・少子化の死角を突く|牛窪恵

はじめまして。私、世代・トレンド評論家で、マーケティング会社・インフィニティの代表取締役の牛窪恵と申します。
 
テレビ番組でコメンテーターなどを務める際は、「おひとりさま」や「草食系男子」「年の差婚」といった言葉を世に広めた、として紹介されることが多いのですが、本業は大手企業各社との新たな商品・サービス開発に向けたマーケティング業務や、立教大学大学院(MBA)の客員教授として「消費者行動論(Consumer Behavior)」を教えること、あるいは調査研究を続けることです。
 
その私が書いた、おそらく30冊目となる本が、今回ご紹介する『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)です。
これまでの本のなかで、間違いなく最も多くのパワーと歳月を要し、最も強く「一人でも多くの方にお読み頂きたい」との思いを2年間、育んできた1冊です。9月13日、ついに皆さんにお読み頂ける準備が整いました。

◎ 本書目次

第1章 なぜ「恋愛」「結婚」しないのか
第2章 ロマンティック・ラブ幻想史
第3章 恋愛常識の落とし穴
第4章 恋愛結婚とコスト
第5章 経済格差と社会通念の壁―― 「共創結婚」に向けた24 の提言

本書の企画~出版に当たっては、『「婚活」時代』(山田昌弘、白河桃子共著)や『超訳 ニーチェの言葉』(白取春彦編訳)など数多くの大ヒット作を世に送り出した、出版界の名プロデューサー・干場弓子氏に、大いにサポートしていただきました。
 
内容をひと言でいえば、「結婚には恋愛が必要だ」という昭和の常識から脱却し、「結婚に恋愛は要らない」との新たな価値観をはぐぐもうというもの。
いわば結婚に関する「プロセスイノベーション」で、そうした「恋愛と結婚の切り離し」の妥当性を、社会学や歴史学、脳科学、進化人類学、そしてマーケティングとも関係が深い行動経済学など、各方面から考察した一冊です。
 
本書には、日本のZ世代(弊社定義で、現19~27歳)を中心とした若者のナマの声や、国・民間による各種調査結果も盛り込みましたが、そのほか欧米を中心とした数多くの調査研究(論文)や留学生の声などを含むのも、特徴と言えるでしょう。
また、「婚活アプリの利用が婚姻率上昇に寄与しない理由」については、第4章の行動経済学の章を、あるいは若者を巡る格差やジェンダーギャップ、働き方や住まい方、家族の関係、卵子凍結(精子バンク)などに関する最新情報やその対策については、第5章(最終章)を、それぞれお読みいただければ分かるように構成しました。

私がなぜこの本を書きたいと考えたきっかけの1つは、先の干場氏との出会いです。
彼女は、7万部弱のベストセラーにもなった、拙著『恋愛しない若者たち――コンビニ化する性とコスパ化する結婚』(ディスカヴァー携書)が出版された2015年当時、ディスカヴァー・トゥエンティワンの前取締役社長で、みずからその製作をサポートしてくださいました。
 
このとき、20代の男女600人に対する独自調査(協力:クロス・マーケティング)や対面取材を通じ、「なぜ若者が、恋愛しないのか」を読み解いたのですが、当時から私たちは、「このまま恋愛しない若者が増えれば、婚姻率は上がるどころか下がり続けるだろう」と話し合ってきました。
なぜなら、令和の今も、多くの人々がイメージする「結婚」は「恋愛結婚」であり、「結婚には恋愛が必要だ」と考えられているから、つまり「恋愛しなければ、結婚できない」との概念が根強いからです。
 
ですが半面、私と干場氏の脳裏には「別の思い」が浮かんでいました。
――いや、必ずしも「恋愛離れ=結婚離れ」とは言い切れない。「結婚には恋愛が必要だ」との概念を捨てて、「結婚と恋愛は別だ」と割り切れば、むしろ未婚化の状況を好転させられるのではないか――。
 
そもそも恋愛と結婚、出産(性)をセットとして捉える「三位一体」の概念は、「ロマンティック・ラブ・イデオロギー」と呼ばれ、日本では半世紀程度の歴史しかありません。
実は、既に1990年代に入るころから、この概念の変容や機能不全を指摘する声が、中央大学文学部の山田昌弘教授や、東京大学の上野千鶴子名誉教授(いずれも社会学者)など、著名な識者を中心に、次々と上がっていたのです。
 
私自身は、親が熟年離婚しており、結婚が万能な制度だとは思いません。令和のいま、結婚してもしなくても個人の自由であり、「おひとりさま」が生きやすい世の中の実現を望んでいる一人でもあります。
 
ですが、「恋愛が面倒」だと言いながらも、いまも若い世代(18~34歳)の8割以上(82.9%)は、「いずれ結婚するつもり」だと考えています(2021年 国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査」)。
また、「おわりに」にも書いたとおり、日本が2025年に直面する、団塊世代(現72~77歳)を中心とした親世代の「介護」の問題を鑑みても、信頼できるパートナーと日々精神的に支え合える結婚という制度は、心理面のリスクヘッジになり得る制度でしょう。

だからこそ、岸田文雄首相が年頭の記者会見で「異次元の少子化対策(のちに「次元の異なる~」に言い換え)」を掲げた今年、この「恋愛結婚の終焉」を、どうしても世に送り出したかったのです。
 
おそらく若者の多くは、既に気づいています。恋愛と結婚は「混ぜるなキケン」であり、相容れないものであるということを。象徴的なのが、恋愛時点と「結婚相手に求めること」の大きな違いでしょう。
 
いまも結婚に至るまでの「恋愛」では、相変わらず、男性が女性に「女らしさ」を、女性が男性に「男らしさ」を求めていますが、先の調査では、男性の半数近く(48%)が女性に「経済力」を、女性の9割以上(97%)が男性に「家事・育児の能力や姿勢」を求めており(「第16回出生動向基本調査」)、恋愛と結婚のニーズが大いに矛盾しているのです。

また今年は、テレビドラマでも「恋愛と結婚の切り離し」をテーマにしたドラマが相次いでいます。4月から放送された「王様に捧ぐ薬指」(TBS系)や、7月から放送された「ウソ婚」(フジテレビ系)、そして10月から始まる「18歳、新妻、不倫します。」(テレビ朝日系)などは、その象徴でしょう。
 
本書ではふれませんでしたが、次回はこれらのドラマについても、令和の若者が求める新たな結婚のカタチを探るうえで、ご紹介させていただきます。

◎ 著者プロフィール

牛窪恵(うしくぼめぐみ)
世代・トレンド評論家。立教大学大学院(MBA)客員教授。経営管理学 修士。大手出版社に勤務したのち、2001年4月にマーケティング会社インフィニティを設立、同社代表取締役。著書を通じて世に広めた「おひとりさま」(05年)、「草食系(男子)」(09年)は新語・流行語大賞に最終ノミネートされる。近著に『恋愛しない若者たち』(ディスカヴァー携書)、『若者たちのニューノーマル』(日経プレミアシリーズ)、『なぜ女はメルカリに、男はヤフオクに惹かれるのか?』(共著/光文社新書)などがある。テレビのコメンテーターとしても活躍中。

「これまでの本のなかで、間違いなく最も多くのパワーと歳月を要し、最も強く『一人でも多くの方にお読み頂きたい』との思いを2年間、育んできた1冊です」と語る牛窪恵さん。

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