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【72位】フランツ・フェルディナンドの1曲―北の街の踊るアート・ロックが、新地平に笑顔で挑む

「テイク・ミー・アウト」フランツ・フェルディナンド(2004年1月/Domino/英)

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Genre: Indie Rock, Post-Punk Revival, Garage Rock Revival, Dance Rock
Take Me Out - Franz Ferdinand (Jan. 04) Domino, UK
(Alex Kapranos • Nick McCarthy) Produced by Tore Johansson
(RS 327 / NME 74) 174 + 427 = 601

音楽大国UKのなかでも屈指の沃野、スコットランドはグラスゴーに新時代が訪れたことを世界に知らしめた、新星による「切れ味のいい」ヒット曲がこれだった。バンド名を掲げたデビュー・アルバムからの第2弾シングルの当曲は、全英3位まで上昇した。

彼らが颯爽と登場したのは、ザ・ストロークスらが開闢した、リヴァイヴァリストたちのシーンだ。言い換えると、もはやモノマネやコスプレ、サンプリングのネタになるだけとなっていた「ロック・バンド」のありかたを、秀逸なる「デザイン感覚」によって再定義したかのような存在が彼らであり、そのアイデアの名刺がわりとなったのが当曲だった。ガレージ・ロックとポスト・パンクが交差するあたりが、立ち位置だ。

とにかく、ビート感が鮮烈だ。ざらついたギター・サウンドの「剛」と、途中のあざといテンポ・チェンジの「巧」が、なんの不都合もなく混ぜ合わされて「ポップで踊れるロック」となる――その手際のスマートさに、多くのリスナーが瞠目した。「新しかった」からだ。バンドマンの手クセ優先ではなく、まるで優秀なグラフィック・デザイナーが緻密に作品を組み上げたかのような、高度なバランス感覚というものが。

実際問題、彼らはアート・コンシャスだった。デビュー・アルバムのジャケットはロシア・アバンギャルト風、当曲シングルのジャケットはロシア構成主義の雄、アレクサンドル・ロトチェンコが手掛けた映画『世界の六分の一』ポスターが元ネタ。MVはダダイズムの影響が――といっても、アート・スノッブには全然なっていないところも、面白い。

スノッブどころか、逆にどこかいつも剽軽で、ユーモラスなのだ。これを僕は、ザ・カーズあたりの「パワー・ポップの血」のせいだと見るのだが……いずれにせよ、一種独特な新世代バンドとして、彼らは一躍インディー・ロック・ファンの耳目を集めた。

ところでバンド名の「苗字部分」、英語の発音に忠実に記すと「ファーデナンド」となる。だが元ネタへの敬意からか、日本では「フェルディナンド」とされている。その暗殺が第一次大戦の引き金となった、オーストリア=ハンガリー帝国の皇太子の名前を飄々と掲げているところも、彼ら一流の人を食ったユーモアの表出だ。

この曲およびアルバムは、カーディガンズおよび日本のカジヒデキ作品を手掛けたスウェーデンはマルメの名匠、トーレ・ヨハンソンがプロデュースした。ビルボードHOT100では66位止まりだったが、モダン・ロック・チャートでは3位と大健闘した。

(次回は71位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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