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【46位】R.E.M.の1曲―抽象界の「不明瞭の王」が、人の世で悶々日記をしたためる

「ルージング・マイ・レリジョン」R.E.M.(1991年2月/Warner Bros./米)

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Genre: Alternative Rock, Folk Rock
Losing My Religion - R.E.M. (Feb. 91) Warner Bros., US
(Bill Berry • Peter Buck • Mike Mills • Michael Stipe) Produced by Scott Litt and R.E.M.
(RS 170 / NME 101) 331 + 400 = 731

カレッジ・ラジオ界の雄として君臨していた彼らを、アメリカを代表するバンドのひとつへと押し上げたのが、このヒット曲だ。なんと、よりにもよって共感系の「痛くて泣けるラヴ・ソング」をR.E.M.がモノにしてしまう!という異常事態がここで出来した。

この曲のポイントは、めそめそ系のセンチメンタリズムだ。ただひたすら、主人公は「報われない愛」と、それへの「執着」について、ブツブツ言い続ける。印象的なタイトルは、宗教とは関係ない。米南部でよく使われる言い回しで「欲求不満で癇癪を起こしている」ような状態を指す。これを「相手のせいで」そうなった(と思い込んでいる)主人公の心境の象徴とした。つまり主人公は、恋人への愛の本質ではなく「傷ついた自分」の内面の話ばかりを、延々と述べ続ける……わけで、この情けない構造がまず受けた。まるで日記にしたためられていた繰り言の集成みたいな、生々しく「感情が乗った」フレーズの痛さが、聴き手のなかにある同種の傷痕へとダイレクトにつながった、とでも言おうか。

そんな恨みがましい歌詞を、クラシカルな「歌もの」構造へと解き放っているのが、ギタリストのピーター・バックが弾くマンドリンだ。トラッドの香りのする、軽やかな音色とフレージングが、この曲の暗い熱情をちょうどいいあたりに――「カラオケで歌いやすい」ぐらいのところに――落とし込んだ。こうして「親しみやすさ」へと着地した。

ヴォーカリストのマイケル・スタイプいわく「ポリスの『見つめていたい』みたいな執着心を描き、聴き手の共感を得るラヴ・ソング」を目指したという。元来のR.E.M.は「不明瞭の王」だった。抽象的な歌詞と酩酊型の「ジャングリー」ギター・ロックが得意技だった。しかし一方でグレン・キャンベルを好み、「ウィチタ・ラインマン」(61位、68年)をライヴ・カヴァーする体質もあった。これらの統合に成功したのが、この曲だ。

当曲は、彼らの第7作アルバム『アウト・オブ・タイム』の先行シングルとして発表された。ビルボードHOT100では4位を記録、チャート内に21週も留まった。また同アルバム・ロック、モダン・ロック・チャートではそれぞれ1位。全英では19位ながら、ベルギーとオランダでは1位を記録。批評家の年間ベストなどでは、同じ年にリリースされて大ヒットしたニルヴァーナの「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」と、つねに競り合い続けた。つまり、まさにこのとき本格化しようとしていた「オルタナティヴが本流になる時代」の波の先端につけていたナンバーのひとつが、これだった。

(次回は45位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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