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「水キムチ」のある生活|パリッコの「つつまし酒」#77

人生は辛い。未来への不安は消えない。世の中って甘くない。
けれども、そんな日々の中にだって「幸せ」は存在する。
いつでもどこでも、美味しいお酒とつまみがあればいい――。
混迷極まる令和の飲酒シーンに、颯爽と登場した酒場ライター・パリッコが、「お酒にまつわる、自分だけの、つつましくも幸せな時間」について丹念に紡いだエッセイ、noteで再始動! 
そろそろ飲みたくなる、毎週金曜日だいたい17時ごろ、更新です。

ほんのり悶々とした日々

 京都、大阪、神戸などにそれぞれ何人かの飲み友達が住んでいて、関西に行く際は必ず連絡し、タイミングが合えば遊んでもらったりしています。インターネットがこれだけ発達した時代、連絡はいつでも気軽に取りあえるし、思いたったらWEB飲みをすることもできる。ただ、どうしても距離的なカルチャーの違いというものを感じることはあって、「なんか最近、関西勢のみんながおんなじ話題で盛り上がってて楽しそうだな~」と指をくわえつつ眺めているなんてことがけっこうあります。「え? なんで突然みんな、粕汁にハマりだしたの? こっちであんまり食べられる店ないんだけど!」みたいな。
 最近だと「水キムチ」がそう。生まれてこのかた、そんな単語聞いたことないですよ僕は。なのに関西のほうからやたらと「水キムチうめー」なんて声が聞こえてくる。しかもですよ? しめしあわせたかのように、「サッポロ一番塩ラーメン」の冷製アレンジに水キムチを加えて食べている。「何それ何それ? 僕も仲間にい~れ~て!」と気軽に言える性格ならどんなに生きやすいだろうと思う。しかしその一言が言えない。結果、「水キムチってなんなんだよぉ~」と、ほんのり悶々とした日々を過ごしておりました。

充実のキムチライフ

 状況が変わったのはつい数日前。仕事というほどのものでもない、ちょっとしたお手伝いをさせてもらった関西の友達のひとりが、「何もお礼できないのは悪いので」と、大阪鶴橋の美味しいキムチあれこれを送ってくれたのですが、そのなかに入ってたんですよね。水キムチが!
 水キムチは別に関西の名物というわけではなく、キムチっていうだけあって、韓国発祥のものらしい。一般的なキムチとはまったくの別物で、もち米粉を水でといた「のり」と呼ばれるものなどを加えた汁に野菜を浸しておくと、乳酸発酵の力で、翌日くらいにはもう美味しいお漬物になるらしい。野菜はもちろん、その漬け汁も栄養満点かつ美味しいらしい。と、まぁそういうものなんだそうです。それを『ごろごろ、神戸。』などの著書を持つ作家、平民金子さんが気に入り、徐々に関西の飲み友達の間に広まっていたというわけだったんですね。
 さっそく、驚くほどたくさんの種類を送っていただいてしまった、大阪「豊田商店」のキムチ他で晩酌を始めましょう。まだ開封できていないものもあるんですが、初日のラインナップは「水キムチ」「きゅうりキムチ」それから、「チャンジャ」と「岩海苔味付け」の4種類。

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家にキムチが売るほどある幸せ

 で、このキムチたちがどれもうまい! 好きなのでスーパーなどでもよく買うんですが、やっぱりそれとは別物。どれも見た目の印象に反して、素材の味を活かした淡めの味つけになっていて、体が喜ぶありがた~い味がします。しかもです。最近毎日のようにこのキムチたちを食べているんですが、日を追うごとに酸味や風味が増し、力強い味になっていく。1日でこうも変わるか! と驚くほど。その変化も楽しく、大変充実したキムチライフを送らせてもらっている昨今です。

冷製サポ塩コリアン水キムチスペシャル

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ちなみに水キムチとはこういうもの

 肝心の水キムチが、これがまた驚くべきうまさ。いわゆる浅漬けに近い味わいなのですが、大根が甘く、ほんのりとしたショウガや唐辛子の風味がアクセントとなり、滋味深い酸味が体に染みわたるようで、確かにスープだけでも極上のつまみになるんですね。これまた、1日1日味が変わっていくので気が抜けない。調べてみたところ、米のとぎ汁などを使って自作することもできるそうなので、こんど作ってみようかなぁ。

 ところで、水キムチを手に入れたら絶対にやってみたかった食べかたがありました。それが冒頭でもふれた、サッポロ一番を使ったアレンジ。平民金子さんが発明し、「冷製サポ塩コリアン水キムチスペシャル」(妙に口に出して言いたくなる語感)と命名した料理だそうで、最近、関西勢がこぞって作っては食べているんですよね。具体的には、サッポロ一番塩ラーメンをゆで、水で締め、氷水にスープの素を溶かして食べる、サポ塩の冷製アレンジ。そのスープに適量、水キムチの漬け汁を加えたものらしい。
 見よう見まねで作ってみましたよ。まずは、冷製サポ塩コリアン水キムチスペシャル、略して「冷サ塩コリ水キムSP」によく合うらしいオクラをさっと湯がく。そしたらそのお湯で、豚肉をゆでて冷しゃぶにする。そのまま乗せたんじゃ味気ないだろうと、そのふたつを食品用ビニール袋に入れ、水キムチのつけ汁を加えてもみこんでおく。麺をゆでて水で締める。ラーメンどんぶりに氷水をいれ、若干薄味になるようにサポ塩のスープの素をとかす。そこでちょっと味見をしてみると、すでにめちゃくちゃうまい。この粉、水に溶かすだけでこんなに美味しかったんだなと驚きつつ、そこに水キム汁を加えてゆく。サポ:水キを2:1くらいにしてみたところちょっと水キが勝ちすぎたので、3:1くらいに調整。なるほど、水キムチの汁を加えることにより、がぜん冷麺感が出るんだな。ものすっごくうまい! そしたらすべてを盛りつけ、メンマを意識して細切りにした大根の水キムチと、いろどり&酸味要員の輪切りトマトとレモンを加え、サポ塩付属のふりかけをふって完成!

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「冷製サポ塩コリアン水キムチスペシャル」by パリッコ

 ……かなり手間のかかる料理だな。冷サ塩コリ水キムSP。が、いざ食べてみたところ、その手間がまったく惜しくないと感じられる、満足感ある一食でございました。
 水キムチはもちろん店によっても、そして日を追うごとにも味が変化する。スープに加える割合も、そこに加える具材もバリエーションは無限大。冷サ塩コリ水キムSP、平民金子さんが、1年365日、1095食(公称)食べているというのもうなづける、奥深い世界だと感じましたね。

パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。著書に『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)など。Twitter @paricco


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