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シャインマスカット祭|パリッコの「つつまし酒」#126

今年の夏も食べずに終わるはずが

 先日、日課のスーパー通いの最中、気づけばぼそりと、こんなひとりごとをつぶやいていました。
「へ〜、シャインマスカットも安くなってきたな〜」
 ご存知でしょうか? シャインマスカット。もとは広島で開発された、日本で一般にマスカットと呼ばれる「マスカット・オブ・アレキサンドリア」を日本の気候風土に合うように改良されたぶどうの品種のひとつ。大粒で種がなく、皮ごとそのまま食べられ、なにしろ甘い。
 かなりの高級品であることも大きな特徴と言えるでしょう。旬は8〜10月で、出たてのころには、それこそ4000円、5000円で売られていることも珍しくありません。が、市場に出回りだせば徐々に値段も落ち着いてきて、最近は地元のどこのスーパーでも1000円台くらいにまで下がってきた印象。そういう意味での「安くなってきたな〜」発言だったんですね。
 が、そのセリフには続きがあります。「まぁ、買えないけど」っていう。だって、そう簡単に出せます? ぶどうひと房に2000円弱。そんなわけで、「前回食べたのは確か数年前、山梨物産館で小皿に3粒のってお手頃だったやつ。あれ、甘かったな……」なんて、なんというんでしょう、あきらめとも違い、今の自分には縁のないものという感じで、今年の夏もシャインマスカットを食べずに終わろうとしていました。

我が家にシャインマスカット様が!

 ところが! そんな気持ちが大きく揺らいだのがつい数日前。とある八百屋さんの前を通ったら、これはきっと底値に違いないと思うんですけど、なんとひと房950円にまで値段が下がっていたんですよね!

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え! 950円!?

 これ、決して気取ってるわけじゃないことを信じてほしいんですが、実は僕の3大好きな果物、洋梨、パパイヤ、マスカットなんです。「いやいや、日本人なら、りんご、みかん、柿だろ!」と言いたい気持ちもよくわかるんですが、好きなんだからしょうがない。特にぶどう類は、そんなに日常的に食べる習慣のない僕が、唯一ちょこちょこと買う果物なんです。
 どうする? これを逃したらもう、次はない気がする。950円ならがんばればなんとか手が出せる。今年最後のシャインマスカットチャンス……まぁ、いくしかないよなぁ。
 で、僕がその950円のほうをレジへ持っていったかというと、そこがまた庶民の悲しさ。隣の1350円のほうが、全体的により大ぶりに見える。どうせ年に一度の機会なら、あと数百円だしてこっちにしちゃおうかな、う〜んう〜ん、えーい、ここは豪華に! と、そっちを選んでしまったのでした。が、今考えると本当、こんだけ底値を待っておいて、たった400円上乗せするだけのことで「豪華に!」もなにもないだろうと。
まぁ、そんな経緯はともかく、今目の前には、威風堂々たるシャインマスカット様が鎮座している! その事実は揺るがないわけで。

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どーん!

 僕が持っているなかでも最大級、直径約25cmの皿が小さく見えるほどの大迫力。これはもはや、マスカット山脈!

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1粒に重厚感がある

 ぱつんぱつんの実を1粒もぎ、まずはそのまま食べてみましょう。シャリッ、もぐもぐもぐ……ほほー、なるほど。やっぱりシャインマスカット様だ。まるでスイーツのように、なんらかの甘みを加工で足したかのように甘い。じっくりじわじわ、余韻まであまい。そのぶん、酸味やマスカット特有の香りはおだやかめなんですね。
 いや〜、久しぶりに出会えて嬉いな〜。

シャインマスカット三昧晩酌

 さて、この連載は「つつまし酒」。そう、いかにシャインマスカットであろうと、それをつまみにお酒を飲まなければ始まりません! そこで今回は、シャインマスカットを使ったおつまみ3種を作り、シャインマスカット三昧の晩酌をしてみようと思います。これは贅沢ですよ。いや、酔狂と言ってもいいかもしれない。とにかくいざ、シャインマスカット祭!
 メニューは検索したレシピなんかを参考にしたりしつつ、以下に決めました。

・シャインマスカットの生ハム巻き
・シャインマスカットとモッツァレラチーズのサラダ
・鶏もも肉のソテー シャインマスカットソース

 1品目は、シャインマスカットに生ハムを巻くだけ。
 2品目は、野菜サラダの上にカットしたシャインマスカットとモッツァレラチーズを散らし、オリーブオイル、塩コショウ、レモン果汁で味つけ。
 3品目は、鶏もも肉にグリルで火を通しておき、その間にマスカットを炒め、バルサミコ酢、白ワイン、みりんを加えて煮詰め、最後に鶏肉を加えて絡めながら焼きあげました。

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生まれて初めてのシャインマスカット炒め

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完成!

 いやはや、大皿の上にシャインマスカット料理が所狭しと並ぶ様はなんとも壮観。もちろん、せっかくなので白ワインも用意しました。

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「シャインマスカットの生ハム巻き」

 シャインマスカットに生ハムを巻いたもの、確か一度、どこかの酒場で出てきて感激した記憶があるんですよね。生ハムのことはよくわかってないのですが、お手頃ななかでは上等そうだった「ハモンセラーノ」というのを選んでみました。
 じゅわりと噛みしめてみると、うわ〜! 生ハムの塩気や熟成感とけんかしないのはきっとシャインマスカットならでは。優雅な甘みとの融合感がすばらしく、もはや一品料理。うまい!

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「シャインマスカットとモッツァレラチーズのサラダ」

 カプレーゼとカルパッチョを融合したようなオリジナルのフィーリング料理ですが、これまたいい!
 塩、コショウ、チーズ、オイルの相性がいいのは当然ですが、初対面のはずのシャインマスカットもいきなりその空気になじんでいます。すっごいコミュニケーション能力高いな〜、シャインマスカット。それでいて、いつも食べてるレタスやらにんじんなどの野菜が完全に「よそ行き」の顔になっていて、そこがまた楽しい。

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「鶏もも肉のソテー シャインマスカットソース」

 そしてメイン。これがものすごかった! ひと口食べた瞬間、誰もいない部屋で叫んでしまいましたよ。「……レストランッ!」って。
 シャインマスカットの甘さとバルサミコ酢の酸味の相性がばっちりで、ソースが濃厚かつさっぱり。そして火の通ったぶどうの食感が鶏肉と合わさることにより、ものすごいジューシーさ!
 どの料理も味わい深いんだけどどこか爽やかで、すっきりとした白ワインに合いすぎ、あっという間に1本空になってしまいました。さすがはシャインマスカット様だわ〜。
 また来年も、どうか無事、我が家でシャインマスカット祭が行われますように。

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また来年!


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