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【11位】アイク・アンド・ティナ・ターナーの1曲―彼女の愛は河のように深く、山みたいに高く

「リヴァー・ディープ ― マウンテン・ハイ」アイク・アンド・ティナ・ターナー(1966年5月/Philles/米)

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※こちらはオランダ盤シングルのジャケットです

Genre: Soul, Pop
River Deep-Mountain High - Ike and Tina Turner (Mar. 66) Philles, US
(Phil Spector • Jeff Barry • Ellie Greenwich) Produced by Phil Spector
(RS 33 / NME 37) 468 + 464 = 932

日本では、ソロになってからのティナ・ターナー、しかも80年代以降の印象のほうが強いかもしれない。しかし彼女が最初に「大暴れ」した時代といえば、60年代。なかでもこの曲は、彼女のキャリアの極点のひとつに位置するものだ。伝家の宝刀、天性のシャウターの能力全開。だから踊らずにはいられない灼熱のソウル――なのだが同時に、至高のポップ・チューンでもある。微に入り細を穿ったアレンジが幾重にも層を成した「音の壁(ウォール・オブ・サウンド)」が地平線まで埋め尽くす、その様子はまさに圧巻だ。

プロデュースは(実生活では問題を多く抱えるものの)巨匠、フィル・スペクター。彼がティナの歌声に惚れ込んだところから、すべては始まった。自らが経営するフィリーズ・レコードに、違約金を積んでまでティナを引き抜いた。この曲を録るためだ。だから録音は苛烈をきわめ、スペクターからティナには「鬼のダメ出し」があったという。歌い直しに継ぐ歌い直しで、ティナいわく「50万回は歌った。汗だらけになって、シャツを脱いで、ブラだけになって歌った」そうだ。ちなみに夫婦デュオである片割れ、つまり夫であるアイク・ターナーは、この曲ではとくになにもしていない。

演奏を担当したのは「あの」ザ・レッキング・クルーの面々だ。レオン・ラッセルがキーボード、バーニー・カッセルとグレン・キャンベルがギター、ドラムスはアール・パーマー、そしてベースにはキャロル・ケイ――さらにアレンジはジャック・ニッチェ。つまり「スペクター組」最精鋭の総力を結集したような1曲だった……のだが、しかし、売れなかった。マスコミや音楽業界内での評価は高かったものの、ビルボードHOT100では88位止まりで、失意のスペクターはこの後2年間ほど業界から遠ざかり、一種の世捨て人となる(そして、自己破壊的傾向がここから高まっていく)。

失敗の理由は、こうした形の「人種融合的ソウル音楽」は、当時のアメリカの流行ではなかったから、と分析されている。もっと純粋なブラック・パワー、公民権運動オリエンテッドなものが求められていたのだ。つまり逆に言うと、海を渡ると話は違った。全英では3位、オランダ9位、スペインでは1位まで上昇する。さらにはアニマルズやディープ・パープルにカヴァーされるに至り、69年、当曲はA&Mから再発売されることになる。

このときの再評価を背に、当曲は「名曲」としての地位を固めていく。そして立ち直った(?)スペクターも、60年代末の混沌のなかへと突進していくことになる。

(10位発表の前に、次回は特別コラムです。お楽しみに! 金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki



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