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【20位】グランドマスター・フラッシュ・アンド・ザ・フューリオス・ファイヴの1曲―「崖っぷち」に立つ師父と高弟五人、三位一体の改革を成す

「ザ・メッセージ」グランドマスター・フラッシュ・アンド・ザ・フューリオス・ファイヴ(1982年7月/Sugar Hill/米)

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※こちらはフランス盤シングルのジャケットです

Genre: Hip Hop, Electro
The Message - Grandmaster Flash and the Furious Five (July, 82) Sugar Hill, US
(Edward G. Fletcher • Melle Mel • Clifton "Jiggs" Chase • Sylvia Robinson) Produced by Edward G. Fletcher and Sylvia Robinson
(RS 51 / NME 97) 450 + 404 = 854

ヒップホップの黎明期、「オールドスクール」時代の最重要曲のひとつがこれだ。発表当時、〈NME〉は当曲に82年度のソング・オブ・ザ・イヤーの座を与えた。〈ローリング・ストーン〉に至っては、2012年の「グレイテスト・ヒップホップ・ソング・オブ・オール・タイム」の第1位にこのナンバーを選出。そして当ランキングでも、ヒップホップ・ソングの最高位となったのが、この1曲だ。

という高評価の理由は「ヒップホップ音楽の歌詞を、根本から変えた」からだ。そもそもがパーティー音楽であり、その定義の外に出たものはほとんどなかったラップ・ソングを、当曲は突如、「街の現実を活写するメディア」とした。しかも政府やマスコミやアカデミーが「目を向けたがらない」領域の現実、つまりニューヨークの「インナー・シティ」の荒廃と貧困と背徳、渦巻く凄惨が、当曲では縷々語られていく。

歌い出しは、こうだ。「ジャングルみたいなんだ、ときどき/不思議になる。どうして俺はまだ破滅してないのか」。野球のバットを持った麻薬中毒者が通りにいる。路上生活する女、借金の取り立て、ギャングの抗争、ポン引き、ヤクの売人がいて、ストで電車も止まってる――という描写のなかに「子供の姿」もある。その男の子も、一歩間違ったら(あるいは「ありがちな」コースをそのまま進めば)未来は真っ暗。刑務所に入って虐待され、自殺に終わる……という内容の随所に、冒頭のフレーズおよび、これが入る。「押すんじゃないよ/俺は崖っぷちにいるんだから/正気を失わないようにしているところ」。

これほどの内容が、グルーヴィなエレクトロ・サウンドのもと展開されたのだから、たまらない(シュガー・ヒル雇用の音楽家による手弾きだった)。はぐれブン屋の激ペン告発と、牧師の説教と、ダンスフロアの高揚の「三位一体」だ。これが「その後のヒップホップ」の、大河のひとつを生む。たとえばケンドリック・ラマーにまで至るような。

という当曲なのだが、全編出ずっぱりのメリー・メル以外のメンバーは、ほとんど登場しない。さらには印税配分でモメる火種となり、ヒップホップ初期の三大聖人のひとり、「レコード・マスター」こと元祖スーパーDJ、グランドマスター・フラッシュの脱退劇にまでつながってしまう。つまり「まるで戦場のような」光景は、歌のなかだけではなかった、ということだ。ビルボードHOT100では62位ながら、ホット・ブラック・シングルズでは4位まで上昇。全英では8位を記録した。これぞ「クラシック」の1曲だ。

(次回は19位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki




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