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教養としてのロック名曲ベスト100【第1回】100位のナンバーは? by 川崎大助

「ゲッチュア・フリーク・オン」ミッシー・エリオット(2001年3月/Goldmind•Electra/米)


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Genre: Hip Hop, Rap
Get Ur Freak On - Missy Elliott (Mar. 01) Goldmind•Electra, US
(Melissa Elliott / Tim Mosley) Produced by Timbaland
(RS 466 / NME 86) 35 + 415 = 450

女性ラッパーの、いや、広義のヒップホップ/R&B音楽に関わる女性音楽家すべてのありようを「永遠に」変えてしまった米アーティスト、ミッシー・エリオットの代名詞的な1曲だ。売れに売れたし、なによりも、世界中のダンス・フロアで受けに受けた。米ビルボードHOT100では7位にランクインした。

楽曲の性格は、イントロにて(なぜか)日本語の語りで説明される。「これからみんなで滅茶苦茶踊って、騒ごう、騒ごう」――つまりはパーティー・チューンであるこの曲の、タイトルおよびキー・フレーズの和訳だ。魔術的音色と音階が繰り返す「ループ」は、インドの楽器、トゥンビとタブラによる、パンジャブ地方は「バングラ」音楽の引用だ。エリオットの盟友である名プロデューサー、ティンバランド謹製のトラックの上で、土足で卓袱台を引っくり返しては啖呵切るような、彼女のしたたかなラップが決まる――と、こんな構造のナンバーだ。

この曲は、エリオットの3枚目のアルバム『ミスE...ソー・アディクティヴ』にも収録された。ここまで、すでに彼女にはヒット作も多数あったし、プロデュースもソング・ライティングも一流の腕の「個性的な」女性ラッパーとして、その名を轟かせては、いた。しかしこの曲の桁違いのインパクトが、彼女を新しい地平にまで押し上げていった。それは「女性の」というただし書き不要の最強アーティストのひとりに「成り上がった」ことを意味した。

ヒップホップ界も、広義のロック界同様「男による、男のための」世界として最初から構築されていた。だからエリオット以前にも成功した女性ラッパーは幾人もいたのだが、しかし「はすっぱなセクシー女」だの「肝っ玉母さん」だの、いつもいつも「男に気に入られるための」キャラクター設定が最優先であるかのような、不自然な不文律、抑圧構造があった。だがそんな時代は、この曲およびエリオットによって「強制終了」させられた。

MV(ミュージック・ヴィデオ)の内容ひとつとってみても、当時の女性アーティストに「絶対に求められていなかった」ものしかない。日本には「吐いたツバ飲まんとけよ」というヤンキー漫画用語があるが、そのまんまなこと(?)をエリオットはやる。彼女が飛ばした唾液が意外な長距離を滑空し、あわれな男の口のなかに入ってしまうシーンは、伝説だ。ほかにも本人のろくろ首姿を始め、変態的な演出多数。今日、ニッキー・ミナージュやリゾ、あるいはリアーナに至るまで「自分の好きな姿勢や態度で」最高峰にて君臨する女性アーティストが「いくらでもいる」状態となったのは、このときに「ガラスの天井」が破られたせいだ。

(次回は99位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。

川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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