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解放! ごほうび! そば屋飲み|パリッコの「つつまし酒」#80

人生は辛い。未来への不安は消えない。世の中って甘くない。
けれども、そんな日々の中にだって「幸せ」は存在する。
いつでもどこでも、美味しいお酒とつまみがあればいい――。
混迷極まる令和の飲酒シーンに、颯爽と登場した酒場ライター・パリッコが、「お酒にまつわる、自分だけの、つつましくも幸せな時間」について丹念に紡いだエッセイ、noteで再始動! 
そろそろ飲みたくなる、毎週金曜日だいたい17時ごろ、更新です。

肉体&精神的限界の末に

 大変ありがたいことに、今年の8、9月の2ヶ月間で、のみタイム 1杯目 家飲みを楽しむ100のアイデア』『天国酒場』『晩酌わくわく!アイデアレシピと、立て続けに3冊の新刊本を出版させてもらうことができました。いつも応援してくださる読者のみなさまのおかげと、心から感謝しております。

 ところで、本を出版するにあたっては当然、原稿の執筆を中心としたさまざまな作業が生じます。『のみタイム』なら書き下ろしなので、共著者であるスズキナオさんやその他協力者の方々と分担しつつも、数十個ぶんの家飲みアイデアを考え、実践し、写真を撮り、原稿を書かなければいけない。『天国酒場』はWEB連載をもとにした本ですが、やはり原稿の加筆修正や、掲載するすべての写真の選別と調整作業がた〜んとある。『晩酌わくわく!アイデアレシピ』は、これまでにいろいろな媒体で発表してきたアイデアレシピをまとめたもので、新たに文章を書き直し、過去の写真を探してきて、選別調整するという作業がこれまたたっぷり。加えて、細々とした連絡、確認事項、打ち合わせ、本が完成に近づけば、それぞれを何度も読み直しながらの校正&赤入れ作業のくり返し。もちろん、その他の通常業務も行いながら。
 好きでやってる仕事なので精神的には苦にならないというかむしろ楽しいんですが、とにかく作業量が多いから時間との戦いになる。編集者さんやデザイナーさんをはじめとした関係者にはなるべく迷惑をかけたくないので(とかいってだいぶ迷惑かけてしまった気もしますが)、日々焦りがつのる。僕は朝型人間なので、日に日に起床時間が早まり、目覚ましの時間が5時→4時→3時と、それははたして朝なのか? という領域に突入していくことになります。

 そんな生活が3ヶ月くらい続いて、さすがに肉体&精神が消耗しつくしかけた9月の初旬。時刻は午後2時すぎ。ついに、3冊のすべての作業を終えることができました。
 徹夜に近い状態で、前日の夜からご飯も食べていない。正直、肉体的には限界で、今すぐにでも布団にばたーんと倒れこみたい。けれども精神のほうは、かつてないまでの解放感で完全にハイになっている。
 うん、いったん欲望のおもむくままに、飲んで食べよう! それから思うさま寝よう! という方針を固めました。

よ〜し、飲んじゃうぞ〜!

 さてさて、どこで何を食べ飲もうか。脳みその機能はもはや使いはたしてしまっているので、あまり考えるということができません。あと、わざわざ駅前まで行って、お店を選んで、なんてやってる余裕もない。そうだ、仕事場の近くに一軒そば屋があって、前からいつか行ってみようと思ってたんだ。そば屋飲みなんてごほうび感満点で、今日ほどちょうどいい日はないじゃないですか。きっと、ちょっとしたおつまみとビールに日本酒くらいはあるでしょ。

 というわけでやってきたのは、いかにも昔ながらの街のおそば屋さんという佇まいの「朝日屋」。長年このあたりをうろちょろしていながら初めて入りましたが、清潔で明るくて気取ったところのない、大変居心地のいいお店ですね。席についただけで名店の予感……。
 さてメニューはどんなだ? 冷たいそば/うどん、温かいそば/うどん、あれこれ揃ってるな。それからきしめん、鍋焼きうどん、カレーライスにかつ丼あたりはもちろん、はは、チャーハンまである! そうそう、こういうお店ですよ。老舗そば屋でやる「蕎麦前」ほど粋なものじゃない、あくまで「そば屋飲み」にふさわしいのは。

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お酒&おつまみメニューは、と

 メニューを裏返してみると、ビール、日本酒に加え、嬉しいことにチューハイまであって、値段もお手頃。さらにちょっとしたおつまみもあれこれある。完璧じゃないですか。よ〜し、飲んじゃうぞ〜!

まさに「ごほうび」タイム

 まずは瓶ビールに冷奴、それから、そば屋飲みの定番といえば天ぷらですが、ちょっと変化球でフライの3点盛りを頼んでみます。

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まさに「ごほうび」タイム

 すぐにビールとサービスのタクアン、冷奴がやってきました。トクトクっとグラスに注ぎ、ごくごくごくーっと一気に飲み干す! わ! なんだなんだ、この心と体にしみわたる夢のような液体は!? あ、そうかビールか。そうだったそうだった。このひと口で張りつめていた緊張の糸がぷっつりと切れたのか、ものすご〜く心身がリラックスしだしましたよ。
 タクアンをぽりぽりとかじる。えー! タクアンってこんなに美味しいものだっけ!? またしてもビールぐいー。冷奴に醤油を回しかけ、ひと口。ふわー、ちゃんとおろしたショウガ、ちゃんと刻んだネギ、ちゃんと削ったカツオ節、ちゃんとづくしの冷奴、これまたなんてうまいんだ。

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そうこうしていると……

 追ってフライ盛りも到着。イカ、キス、コロッケのようですね。大好きなイカフライのぷりんとした食感、自家製コロッケの滋味深さ、そしてキスのほっくほくの身。カラリと軽快な衣に包まれた三者三様のフライ、そしてビール。それはまるで、砂漠のように乾いていた僕の心と体を潤す恵みの雨……。

 なんてうっとりしていたら、あ、ビールがなくなった。そば屋飲みならここで日本酒に行くのが定石でしょうが、すみません、今日ばかりは欲望にまかせ、やりたい放題やらせていただきます。

「すいませ〜ん、チューハイください!」

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なんて爽やかな見た目

 すぐにやってきたチューハイの、丸っこいジョッキの可愛らしさ! 頼もしい量! 思わず目尻が下がってしまう輪切りレモン! 飲み慣れたプレーンなチューハイとは違い、どちらかというとレモンサワーなんですが、甘さ控えめのキリッとしたタイプで、むしろ今日のモードにはこれがベストって味。
 はぁ、3ヶ月前は到底超えられない山に思えたけど、やれば終わるもんだなぁ、仕事って。だからこそ、この一杯がうますぎる。

シメはもちろんそばで

 この時点ですでに酔いもお腹もずいぶん満足だったのですが、最後にそばを食べないことにはね。スルっと「もりそば」をいただいて帰りましょ。

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日本人で良かった

 しばらくしてやってきたのは、清楚でありながらボリュームたっぷり。朝日屋の魅力を体現するようなそばでした。
 むっちりとした食感で食べごたえのあるそばを、キリッとしょっぱくて出汁の香り強烈なつゆに容赦なく浸し、ズルズルーっとすする。あぁ、そばって、なんでこんなにもうまいんだろうか。
 ズルー、ごくごく。ズルー、ごくごく。夢中で食べ進め、良きところで出してもらったそば湯で最後の最後まで堪能。

 はぁ、完全に復活しましたよ。これからさらにとっぷりと寝ていいわけでしょ? 起きたら新しい人間に生まれ変わっちゃってるんじゃないかな? 僕。

パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。
この9月には『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)という2冊の新刊が発売。『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。Twitter @paricco



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