人が間違った質問をしたら……――ChatGPTの基礎知識⑫by岡嶋裕史
過去の連載はこちら
岡嶋さんの好評既刊
ChatGPTはここから始めることができます
人が間違った質問をしたら……――ChatGPTの基礎知識⑫by岡嶋裕史
「サンプル」の幅が広く、精度が高い
話をプログラムに戻そう。
俳句をアナグラムしたいからプログラミングしてくれと頼んだらダメだったが、サンプルなら出してくれた件である。「サンプルだよ?」と言って提示すれば、仮にそれを使ってひどいことになったとしても責任はコピペして実行した人に帰するから、割と常套手段のファインチューニングだと言える。
ところが、GPT-4 はこの「サンプル」を抱えている幅が広く、精度が高いのだ。けっこうそのまま使えちゃうのである。もう学生にバブルソートのアルゴリズム(小→大のように整列させるときの慣用手順)を教えて、「考え方は教えたから、自分でプログラムを書いて、実際にコンピュータ上で動くようにしてごらんよ」といった課題は出せないだろう。一瞬でGPT-4 が回答してしまう。
文脈が追える
本書で示した事例の場合は、ちょっとだけ惜しいところがあった。アナグラム部分は完璧なんだけれども、このままだと日本語が扱えないのだ。
プログラムの世界は英数字で完結するのが基本だし、サンプルコードもそれに基づいて作られている。だから英数字しか扱えないサンプルを出力してくるのは自然なのだが、俳句をアナグラムしたいと指示しているので、もうちょっと気が利いていれば日本語を扱えるサンプルを示すこともできたのである。
とはいえ、「これだと漢字が処理できないと思うけど、漢字が使えるように直せる?」とたたみかけたときに、すぐに使えるサンプルを吐き出してきたのはすごい。だって、俳句のデータも、日本語が扱えないアナグラムのサンプルも示していないのだ。
なのに連載第10回のような指示で、さっきのサンプルを修正して出力してくるのは優秀である。文脈が追えている。
環境に左右されない
また、プログラミング言語の教科書などに示されるサンプルコードは、個々人が使っている環境(コンピュータやソフトウェア)に応じて書き換えねばならなかったり、特定の部分を書き足したりしなければ動作しないものも多い。私もそうした書籍を書いたことがあるが、汎用的なサンプルを示すのはけっこう骨が折れるのだ。でも、GPT-4 が示してくるサンプルはプログラム開発環境にコピペするだけでそのまま動作するものがたくさんある。プログラミングを勉強するときなどには、大きな支えになってくれるだろう。
この俳句アナグラムシステムも、何も修正せずにさくさくと動いた。プログラムの解説まで付されていて、至れり尽くせりである。
話を膨らませられる
そう、聞いたこと以外のところまで話を膨らませられるのも、GPT-4 の特徴である。従来型のチャットボットは聞かれたことに答えるのにあっぷあっぷしていて、人が間違った質問をしても黙り込むのが関の山だったが、それを否定したり関連する知識をさらっとぶっ込んできたりするのだ。人間視点で見ると、まるで余裕綽々の態度である。
ディスカッションの相方として有能
ここまで進めてきて、だいぶChatGPT をどのように使えばよいか、視界が開けてきた。まず、ChatGPT はまだドラえもん的な使い勝手を獲得してはいない。
「あれ取ってよ」
「あれって何?」
「あれはあれだよ、察してよ」
「ああ、あれですね」
といった長年連れ添った配偶者のようなコミュニケーションは不可能である。指示はだいぶ具体的でなければならない。しかし、その具体性はディスカッションのように書き連ねていくことができる。
無理に一文の中に複雑な指示や情報を入れ込まなくても、それなりの指示を出して、返ってきた答えに対してそれを踏まえた上での追加指示を繰り返すことで、最終的に精度の高い成果物を出力することができる。
それを面倒だと感じる人もいるだろうが、ビジネスで利用するのであればどちらかと言えば有り難い部分に光が当たるだろう。一発で相手に理解してもらう指示文を組み立てるのは、相手が人間の場合だって難しい。
世代差や語彙の差、思考力の差、文化の違い、生き方の違いなどを超えてコミュニケーションを取るのは難事業である。だからツイッターは告発に満ちているし、裁判所は訴訟だらけになっているのだ。
コンピュータを相手にすると、情報の表現方法から扱い方、キリのいい数まで何から何まで違うことに戸惑うが、ひょっとするとそれは孫とコミュニケーションするのと同じくらいの違いでしかないのかもしれない。
指示した通りのプレゼン資料がなかなか上がってこないなあと、何度もやり直しを指示した場合、現状ではパワハラで訴えられる確率は累乗的に上がっていくが、ChatGPT なら当面の間は大丈夫だ。心おきなくプロンプトを繰り返して、成果物の精度を上げるべきである。
実際、ディスカッションの相方としては有能だと思う。特定の役割を与えて、その役に相応しい振る舞いをある程度してくれるからだ。
(続く)