若者の投票率が1%下がると……参院選後に考える若者の政治意識と日本の未来
若者の投票率が1%下がるとどうなるか
7月5日、体育館に集まった群馬県立高崎女子高校3年生約280人を前に、時事YouTuberで主権者教育を行う笑下村塾代表・たかまつななさん(29)が、元気な声で特別講義を始めた。題して、「笑える!政治教育ショーin群馬」。お笑い芸人たんぽぽの二人と軽妙な掛け合いで、笑いあり、拍手ありで進んでいく。
壇上に引き付けられた高校生の顔に、なるほど、という表情が広がった。
「若者は選挙に行かないと損をする」と話は続く。
具体的な数値を突き付けられた生徒たちの顔は、真剣みを増していく。
続いて、高校生がブラック校則を変えるために裁判を起こした例、ある商品の値上げに反対して署名を集めたケースなどが紹介される。これを受けて一人ひとりが「私が社会を変えるためにできること」をシートに記入する。発表タイムでは「17歳にも選挙権を」「プリクラの値上げ反対!」「子供の7人に一人が相対的貧困の状態にある、これを変えていきたい」「少子高齢化の課題に対応するために、育休制度を変えたい」といった決意表明の声が次々に上がった。
最後に、会場の高校3年生に、授業のはじめと同じ質問がされる。「選挙に行こうと思っている人、手を挙げて」。授業前の7割ほどから、ほぼ10割へと膨らんだ。
講義を聞いた生徒たちは何を思ったのか。
話を聞いた7人全員が、「若者の一票の重みが分かった」という。進学校に通う女子高生で、かつ生徒会活動にかかわる積極的な生徒たちだからこその反応という面はあるものの、授業が生徒を覚醒させる効果は大きいといえそうだ。群馬県ではこの「笑える!政治教育ショー」を、山本一太知事の音頭により2022年度に県内すべての高校で実施することを目指している。全国の自治体のなかでも、極めて珍しい取り組みだ。
お笑い芸人と全国の高校を回って
「主権者教育」をする意味とは
たかまつさんは、大学院時代からユーチューブなどSNSを中心に、若者と政治をつなぐ活動を続けてきた。NHKに入局して若者向け政治番組を提案するもなかなか実現せず、退職して活動に専念する道を選ぶ。約4カ月かけて英国やフランスなどで「主権者教育」を取材して、コントあり、ゲームありの笑いに満ちた授業内容を練り上げた。日本では、主権者教育のための適切な教材がほとんどなく、教員向けの研修も行われていない。危機感を覚えて、高校を中心に全国で出張授業を行っている。
欧州調査では、子どもたちに「社会を変える経験をさせること」の重要性を痛感した。授業では、例えば「学校のカフェテリアが閉鎖される、さてどうするか」について話し合う。地元の政治家に訴える、地元メディアに取り上げてもらう、といった課題解決策を議論する。またフランスでは、青少年議会などで子どもに権限、予算を与えて、子どもらの決定を社会に反映させる仕組みを作っている。その先に選挙がある。社会を変えるひとつの手段が、選挙投票を通しての政治参加なのだ。
欧州の主権者教育の根底には「子どもを信じる」文化があるという。子どもはただ守るべき存在なのではなく、自立した存在として尊重して権限を持たせる。もし失敗に終わったとしたら、どう修正するかも子どもたちに考えさせる。これが学びにつながる。たかまつさんは、こうした教育を日本に根付かせたいと奔走する。
若者と各政党の政治家が
互角に意見を交わす「対話」イベント
6月20日、参院選を前に開かれた「選挙アップデートfor U30」で、若者からこうした声が上がった。オンラインメディア・ハフポスト日本版が、一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN代表の能條桃子さん(24)と組んでの企画だ。主要7政党の議員を迎えて若者の質問をぶつけるリアルイベントである。
畳みかけるようにデータが示された。20代後半の約半数が年収300万円未満にとどまる。一方で社会保険料は上がり続ける。若者の将来不安に、各政党はどう応えるのかと迫る。これに対して「賃金を上げる企業を増やす。いいものを高く売れる社会をつくる」(自民党・鈴木憲和衆院議員)、「最低賃金を上げる。企業の内部留保に課税をする」(共産党・吉良佳子衆院議員)など、主要政党7党の議員が30秒以内で次々答えていく。
これに対して、会場参加者から「いいね!」と「?」の札が上がる。自らの発言中、聴衆席がほぼ「?」マークで埋まった議員がたじたじとなる場面もあった。
会場は、東京千代田区の3331 Arts Chiyodaのクリエイティブなコミュニティスペース。若者を政治に引き付けるには、こうした「楽しさが欠かせない」とイベント責任者の中村かさねさんは言う。
事前に集まった約700の質問コメントを会場に貼りだし、来場者がスマートフォンで「いいね!」を押した数が多いものから、質問を繰り出す。
参加者は、政治家と互角に意見を戦わせた。企画・進行を手掛けた能條さんは、「議論を経て政治家を選ぶ文化をつくりたい」と言う。
未婚、子どもなしの若者を
「主語」にして政策が語られない
能條さんは、前出のたかまつななさんと同様、海外での経験から日本での若者の政治参加に疑問を募らせた。2019年にデンマークに7カ月留学、同級生が政治家となり、30〜40代が中心となる組閣がなされるさまに目を見開いた。
留学中に早速、若者と政治をつなぐ団体NO YOUTH NO JAPANを立ち上げた。インスタグラムを中心に、軽やかで機動的かつデザイン性の高い発信を続ける。インスタのストーリーズは、24時間で消えるので気楽に発信できるという。政党のテーマごとの政策比較やリアルイベントの実施・配信などを行い、いまフォロワーは約10万人に達する。
若者の選挙投票率の低さは「若者の意識の低さが原因と、問題が矮小化されがちだが、それは違う」と能條さん。課題のひとつは、ネット上で投票ができず、住民票のある自治体でしか投票ができないアナログな仕組み。大学進学などで親元を離れた後も、実家に住民票を置いたままで投票がむずかしい学生は少なくない。スマートフォンでの不在者投票を可能にし、いずれは選挙制度自体をデジタル化することで「どこでも投票」が可能になると提言する。
2点目は、若者が参入しにくい政治環境。被選挙権を18歳以上へと引き下げると同時に、選挙や政治活動にお金のかかる仕組みを改めることで、若者の政治参加を促す環境を整えるべきだという。
3点目は、政党からU30が受益者となる提言を出すこと。例えば「未婚で子どものいない人」を主語にした政策が不足している。「いまの若者は」とひと括りにして、見えないものにラベルを張って理解しようとする風潮にも警鐘を鳴らす。どんな土地に、どんな家庭に生まれたかによって、持ち得る選択肢が違う。世代内格差が広がっているのだ。U30を主語にしつつも、世代内格差に目配りをした政策が必要だと訴える。
最後に、影響力をもつ20代のキーパーソンを通して見えてきた、若者と政治をつなぐおもなツボをまとめておきたい。