先生にはもうちょっと、親の話を聞いてもらいたい―岡嶋裕史著『大学教授、発達障害の子を育てる』
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先生にはもうちょっと、親の話を聞いてもらいたい―岡嶋裕史著『大学教授、発達障害の子を育てる』

光文社新書編集部の三宅です。

今日は2月16日に出たばかりの『大学教授、発達障害の子を育てる』からまえがきと目次を紹介します。

著者の岡嶋裕史さんは中央大学国際情報学部教授で、著書多数、メディア出演も多数です。著書のジャンルも幅広く、タイトルをランダムに並べると『ジオン軍の遺産』『ブロックチェーン』『5G』『個人情報ダダ漏れです!』『プログラミング教育はいらない』『思考からの逃走』などなど。今挙げたのは一般書ですが、国家試験の教本も山のように書かれ、確かラノベの著書もお持ちだったような……。

ご執筆だけでなく、テレビやラジオにも出演され、当然のことながら大学の授業もあるわけで、いったいいつ息をしているのだろうというご活躍ぶりです。

そんな岡嶋さんの今度のテーマは発達障害です。

自閉スペクトラム症と診断されたお子さんとの日常生活を、さまざまなトピックでまとめたものです。同時に、ご自身の少年時代を振り返り、自分にもその傾向があったかも、というエピソードが披露されます。

ご本人が研究者ですので、発達障害に関する文献を読み込んで咀嚼し、子育て体験と絶妙にブレンドされて平易に書かれています。ですので、発達障害当事者のご家族、周囲の方々にとって、痒いところに手が届く情報が多く含まれていると思います(もちろん、発達障害にもいくつかのタイプがあり、個人差もありますので、全ての方に当てはまるわけではありません)。

また、多様性を謳いながら、暗黙のうちに普通ではない(と判断された)人を排除する力学が働く、日本社会の問題点にも斬り込みます。社会論的な側面を持つ一冊とも言えます。

前振りはこの辺にして、実際に「はじめに」と目次を見ていただきましょう。ちなみに本書は上記「本がすき。」で連載したものをベースにしており、連載時の原稿はまだ読むことが可能です。

はじめに

 子どもが発達障害です。

「困ったな」と思いました。ぼくはそもそも、「子どもをちゃんと育てられるだろうか」と危惧していたのです。人間の赤ちゃんを動物と一緒くたにしてはいけませんが、食べ物を与え、環境を快適に保ち、危険や不具合があればそれを除去するといった一連の作業は共通しています。

 ぼくのこれまでに育ててきた生き物(それなりに生き物好きの子どもだったのです)のことごとくは、あまり天寿を全うしていません。色々な要因があるでしょうけれども、主因はぼくのお世話が下手な点に求められるのではないかと思います。

 そこへ、人間の子どもです。ただでさえ難易度が高そうで、びくびくしていました。それが発達障害なのですから、大変なことです。高尾山を登り始めたら、実はそれがK2への道だったと判明したくらいのインパクトがありました。

 正直なところ、何をしていいのかよくわかりませんでしたが、取り敢えず目を閉じたり耳を塞いだりするのはやめておこうと思いました。子どもに障害があるという事実はなかなか飲み込んだり咀嚼したりしにくいので、まるでそんなものはなかったかのように振る舞う戦略もありますが、それでいつの間にか障害の事実が消えてなくなるわけではありません。

 ぼくにとっては、知らないこと=怖いことなので、素人なりに障害のことをよく知ろうと思いました。入門書や専門書、各種法令やハンドブックに至るまで、大量の文献を読みあさりました。ぼくは大学で教員をしていて(情報ネットワークや情報セキュリティが専門なので、分野は全然違いますが)、文献を読むのは好きなのです。

 そんな生活を送っていて思ったのは、専門書に書いてあることと、現実に遭遇する実態はけっこう違うなあということでした。もちろん専門書は専門書で意味があります。体系的で網羅的で、障害というつかみどころのないものをよく言語化しています。

 でも、子どもとやり取りしたり、役所に掛け合ったり、施設を選んだりするのに一番役立ったのは、先達が残してくれた手記やブログでした。それらは個人的な体験ですから、そのまま自分の子に当てはまるわけではないですし、自分の地域のしくみや規約とは異なっていることもあります。しかし、障害のある子を育てるという暗夜行路の中で、確実に強い光を放って足下を照らし、無聊をなぐさめてくれました。

 記した人に直接お礼を言うことはできないけれど、いつか療育が一段落したら自分も何か書き残しておこうと思ったのを覚えています。その、「やっと一段落」がとうとう成って、ちびちびと「本がすき。」に連載をさせていただいたのが2019~2020年のことです。発表の機会をいただいた光文社様と、目にしていただいた読者の皆様には改めて御礼を申し上げます。

 1年半にわたる連載をまとめて、加筆・修正したのが本書です。ぼくとしては、経験に基づいた役に立つ障害の知識だったり、子どもの様子だったりを書き連ねた気分でいたのですが、今読み返してみると、自分が変であることを主張するような書籍に仕上がっていました。

 そう、子どもの障害と向き合うことは、自分自身と向き合うことでもありました。ぼくは子どもの頃から、「なんだか、まわりの人みたいにうまくやれないなあ」とか、「そもそも、多くの人とものの感じ方や世界の捉え方が違うみたいだ」となんとなく思っていました。「生きるのがしんどいなあ」とも。

 子どもが発達障害であると断じられて、その症状や症例について勉強し、改めて自分の人生を見直してみると、「あっ、これは自分もその気があったな」とうなずくことばかりでした。だから、連載で取り上げた事例も、だんだん子どもの様子から、自分の体験談へとシフトしてしまっています。

 老人の体験談など開陳しても、何もいいことはないのですが、「その気のある人」の心象風景としての描写は正確であることを心がけましたので、何かのご参考になれば嬉しいです。知識として役に立たなくても、「こんなにいい加減だったり、失敗したりしている人でも、まあなんとかなったんだな」と、自信をつける踏み台に使っていただければ、筆者としては本望です。

 なお、連載から時が経ち、子どもの様子や障害を取り巻く状況、規約などにも変化が見られます。しかし、当時感じたことをダイレクトにお伝えしたいと考え、この点についての修正は必要最小限に抑えました。お読みになるときに、お含み置きいただければ幸いです。

目  次

はじめに

1 発達障害について調べてみた
実は自分も……
発達障害や自閉症って何? 
広汎性発達障害とアスペルガー障害の関係
DSM‐ⅣとDSM‐5の違い 
相互関係の障害――自閉症とは(1) 
逆さバイバイ、クレーン現象――自閉症とは(2) 
言葉を介さないコミュニケーションの障害――自閉症とは(3) 
限定された反復する様式の行動、興味、活動――自閉症とは(4)
自閉症スペクトラム障害は必ず幼児期にはその症状が現れる――自閉症とは(5) 
社会と関わらなければ、特に困らず過ごせる自閉症の子もいる――自閉症とは(6)
カナー型の自閉症――様々な自閉症(1)
アスペルガー症候群――様々な自閉症(2)
ウィングの分類方法――様々な自閉症(3)

2 我が子の発達障害に気づいたとき  
早くもなく遅くもなく…… 
先生には、もうちょっと親の話を聞いてもらいたい 
どうする? セカンドオピニオン 
療育はどんな感じで進むのか? 
意外にふつうな療育施設のプログラム 
ABAは効きますか? 
ABAを自宅でやるのは難しい 
幼稚園より保育園のほうが寛容?
発達障害を取り巻く状況は「早期発見・早期絶望」 
知能検査、受けるべきか、受けざるべきか 
「手取り足取り何度も教えてあげれば何でもできるようになる」の罠 
行間を読み取る能力 
なぜ音が届いていても、聞こえないのか?――知覚過敏(1) 
真面目にやっているつもりでも、不真面目に思われる――知覚過敏(2) 
自閉症児にも、心の理論がわかるときがくる 

3 悩み多き学校教育  
普通級と特別支援学級と特別支援学校のどこに行くか? 
普通級に進むメリット 
混合教育は定型発達の子にも、自閉圏の子にも負荷が大きい? 
スクールシャドーを入れるのは難しい 
共生教育の考え方(1)――功利主義 
共生教育の考え方(2)――自由平等主義 
共生教育の考え方(3)――完全自由主義 
自閉症と式典は相性が良くない 
特別支援学級でもプログラミング教育をやって欲しい理由 
eスポーツをうまく活用できないか? 

4 コミュニケーションというやっかいなシロモノ
コミュニケーションの困難 
モテ・非モテ 
いじめへの対処の仕方 
引きこもりになりがち? 
キャバクラトーク 

5 日常に潜むワナ  
お金をちゃんと使えるか? 
時間管理は難しい 
忘れ物は多い? 少ない? 
発達障害特有の偏食――醤油は飲み物 
お箸を使う練習 
騎馬戦出場……大丈夫? 
黙読派か? 音読派か? 
オキシトシンの効果 

6 学校生活と居場所  
多様化したのはいいけれど…… 
学校に行かなくても、友達がいなくても、最高に幸せな子もいる 
学びのコスト 
教育格差が生まれる理由 
大学生活と発達障害 
わかることとやれることは違う 
どこに居場所を見つけるか? 

7 コロナ禍での日常  
新型コロナウイルスと自宅学習
リアルな人生を楽しむスキル 
ウイルスは目に見えないから、教えるのは難しい? 
自閉症と自粛生活 
自閉症の子はオンライン授業に向いている! 
これは本当に発達障害なのだろうか? 

どうか「今」を楽しんでください。あとがきに代えて  

読者の方の質問にお答えします  
発達障害の子を育てるのって、お金がかかりますか?/療育は早く始めたほうがいいですか?/進学時に特別支援学級をすすめられ、困惑しています。 /子どもが一日中ゲーム三昧なんですが、大丈夫でしょうか?/習い事はどうすればいいでしょうか?/子どもの寝つきが悪く、困っています。/運動は大事ですか?/ABAって効きますか?



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