コロナ禍で「人との疎遠度」が高まる日々|辛酸なめ子「新・大人のマナー術」#03
スパコン「富岳」のシミュレーション
また、富岳が飛沫のシミュレーションをしている……。日本が誇るスパコン、富岳のエクトプラズムみたいな飛沫のCGが毎回インパクトありすぎです。
先日は、飲食店における感染リスクのシミュレーションの映像をニュースで見ました。会食の席で感染者が会話した場合、一番距離が近い隣の人が感染リスクが高く、真正面の人の5倍の数の飛沫を浴びることになるとか。はす向かいは真正面の人の4分の1の飛沫数だそうです。皆はす向かいに座れば良いのかもしれませんが、声が聞こえなくなってしまいます。
富岳と理化学研究所の研究によると、感染リスクを軽減させるには、顎から鼻まで覆うおわん型ののマウスカバーが効果的だとか。
そこまでして……という気もします。富岳のCGを見ると、誰とも会話しない方が良いように思えてきました。もしかしてAIが人類の人間関係を希薄にして、最終的にコンピュータが支配しようとしているのでしょうか……。
「最近会食ある?」「全然ない」
飲食店の経済状況を考えると、微力でも外食した方が良いような気がして、ひとり食事することも結構あります。しかし、複数での会食の機会は激減しました。パーティもなく、人と疎遠になるいっぽうです。声が小さいというかくぐもっているので、私自身は飛沫を飛ばすことが少ないと自負しています。これからは声が通らない人が人気になって、いろいろな会食に呼ばれまくるのでは?と淡く期待していたのですが、一向にそんな気配がありません。
先日も友人の女性と、最近は会食が全然ないという話題になりました。「最近会食ありましたか?」と聞かれたので「全然ないです」と答えると「私も、もうほとんど会食ないですね。昼はまだ良いんですけど夜集まってお酒が入ると声も大きくなって危険ですよね」と、一体感で盛り上がったのですが「友だちとどんどん疎遠になりますよね」と言ったら、笑って流されたので、また少し疎外感に苛まれました。
先日、同窓会と仕事の会食がバッティングして、どうやって時間をやりくりしようと電車移動の計画を立てていたら、目が覚めて……全て夢でした。起きたら何の会食の予定も入っていないという現実が。そして4月、5月頃に何度か行われたZOOM飲み会もめっきりなくなってしまいました。あの不安な時期に感じた共感や友情は今、どこに……。オンライン飲み会のブームは私の周囲では一段落してしまったようです。「自分のステージが上がると、今まで周りにいた人は波長が合わなくなって疎遠になる」とスビリチュアル系の知人が言っていましたが、私の場合、必ずしもそういう理由ではなさそうです。
LINEの友だちリストは疎遠のリスト
最近、LINEの友だちリストは疎遠になった人のリストでは?と思いはじめています。なぜ、友人と疎遠になったり距離を置かれたりしたのか、我が身を省みてみました。まず、考えられるのは肉全般を食べなくなったこと。牛肉はかねてから食べていなかったのですが、今年2月に、マイクロブタカフェに行って子豚に懐かれ、どんな動物とも仲良くなれる気がしてきて、肉食をしばらくやめてみました。知人の集まりに行って「私は肉を食べないんで」とか公言していたら、誘われる機会がさらに減った気がします。お酒をほとんど飲まない上、肉を食べないと、さらに疎遠度が加速。
さらに、自業自得ですが、最近ハマっているアジアのBLの美青年の写真やURLを次々友人や知人とのLINEに投下していたら、だんだん反応が冷たくなってきました。最初は「キレイですね」「参考になります」などとリアクションしてくれていたのですが、私が送りすぎたのかいくつかのトークルームで会話が途絶えてしまいました。リアルでもネットでも疎遠になったら、どうしたら良いのでしょう……。
コロナを機に人間関係を整理する人は少なくないように思います。飛沫のリスクを犯してまで会う必要ない人と、こんな状況でも会いたい人に分類されているように思います。ただでさえストレスを感じる日々なので、ダークすぎる陰謀論にハマっていたり、ネガティブなことしか言わない人とは自然と距離を置きたくなります。
疎遠のプロ「探偵バー」
疎遠について考えていたある日、六本木の探偵バー「ANSWER」さんに話を聞きに行く機会がありました。優しそうな雰囲気の女性が実はやり手の女探偵で、別れさせ工作や復縁工作を行っていると話していました。
例えば不倫している女性からの依頼で、好きな人の奥さんに「工作をかける」ことがあるそうです。住所を調べて、ターゲットがよく行く店を割り出し、そこで探偵は自然な感じで話しかけます。「この街にはじめて来たんですが、周辺で手土産におすすめの店はありますか?」などと質問し、教えてもらったら感謝してその場を去ります。頼られる側はあまり邪険にできない、という心理があるそうです。
そして数日後、また偶然を装って2回目の接触。「先日はありがとうございました。よかったら色々教えてください」と言って、流れで連絡先を交換できれば成功です。その後は仲良くなって、夫のグチとか夫婦関係を聞き出すそうです。依頼主の愛人に、その情報を伝えて離婚の可能性があるかどうか推測します。別れさせ工作の場合は、奥さんに別の男性(実際は探偵)を紹介して夫婦仲に揺さぶりをかける場合も……。
私はそこまで複雑でディープな人間関係に巻き込まれたことがないので、「工作」にちょっと憧れます。ただ、探偵はそのあと自然にターゲットと疎遠になるそうで、一抹の淋しさが……。
「目的達成したらフェイドアウトします。主人の親が具合悪いのでしばらく会えない、とか自然な形で……。そのあとこっそりSNSを見て、元気にしてるな、と確認したりしています」と探偵の方はおっしゃっていました。いわば疎遠のプロです。もしかして、一時的に仲良くなったけれど疎遠になった人は探偵だったのかも……そう思うことで、疎遠になりがちな自分も少し心が慰められます。めったにないですが、偶然再会した人は探偵の可能性も……。
「いつか会う」という未来があるうちは……
また、最近疎遠の寂しさを和らげる方法を見出しました。LINEなどで、わずかな友人と近いうち会おう、と話しているのですが、一向に計画が具体化しません。でも、実際会ってしまうと、(人と会うリスクがある今)もうしばらくいいやという気持ちになって疎遠化してしまうので、会う計画を延々と先延ばしにしている方が関係を保てることに気づきました。そこで最近は「今度、表参道でお茶しよう」とか「今度」という単語で何ヶ月も計画し続けています。いつか会う、という未来があるうちは、友情もサスティナブルです……。
今月の教訓
実際会わないで会う計画を立て続けるのが、コロナ禍で一番安全に友情を保てます。
辛酸なめ子(しんさん なめこ)
1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。 漫画家、コラムニスト。女子学院中学校・高等学校を経て、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。恋愛からアイドル・スピリチュアルまで幅広く執筆。著書に『大人のコミュニケーション術』(光文社新書)、『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)、『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)、『霊道紀行』(角川文庫)、『辛酸なめ子と寺井広樹の「あの世の歩き方」』(マキノ出版)などがある。