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【82位】ザ・テンプテーションズの1曲―異形のソウルは、サイケデリックのトンネルを延々進む

「パパ・ワズ・ア・ローリン・ストーン」ザ・テンプテーションズ(1972年9月/Gordy/米)

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Genre: Psychedelic Soul
Papa Was a Rollin' Stone - The Temptations (Sep. 72) Gordy, US
(Norman Whitfield•Barrett Strong) Produced by Norman Whitfield
(RS 169 / NME 310) 332 + 191 = 523
※83位、82位が同スコア

サイケデリック・ソウルといえば、まずはこの曲だ。聴き手を没入させる「この感じ」が、その後のファンク音楽やファンク・ロックは当然、ヒップホップやR&Bのトラックにまで、決定的な影響を与えた。歴史的にとてつもなく重要な1曲が、これだ。

この曲は、なによりもバックトラック(オケ)だ。のっけから雰囲気満々。時計的に刻まれるハイハットのビートに、短く差し込むベースがからみ、カッティング・ギターが緊張感を高めていく。コードの動きは、ほとんどない。これが繰り返し、延々続く……という構造から生じてくる快感を能弁に伝え得たことで、当曲は大成功した。歌詞のストーリー(子供が母に、放蕩のあげく死んだ父の話を聞く)以上の、なにかに取り憑かれたようなエモーションがとぐろを巻く、異形のソウルのありように人々は魅了された。

だからと言うべきか、この曲は、長い。アルバム・ヴァージョンは約12分。イントロだけで4分近くもある。シングル盤用のエディットでは、A面のヴォーカル・ヴァージョンですら約7分。B面のインストが約5分。そして面白いことが起こった。この各面ごとにグラミー賞を受賞したのだ。A面でベストR&Bヴォーカル・パフォーマンス賞のグループ部門を、B面は同インストゥルメンタル賞を受賞。ベスト・ソング賞も獲った。

最大功労者は、プロデューサーでありソングライターのひとり、ノーマン・ホイットフィールドだ。H-D-Hのすこし後方でモータウンを支えていた彼が、同社スタジオ・ミュージシャンのファンク・ブラザーズとともに、このアレンジを開発した。そして(こんなに長いのに)ビルボードHOT100で1位にまで持っていった(全英14位)。米R&Bチャートでは5位止まりだったのも興味ぶかい。ソウル・ファンよりも先に「サイケデリック・ロックを通過したあと」の耳に、より強くアピールしたのかもしれない。

そしてこれは、ホイットフィールドとともに幾多のヒット曲、名曲を残した名門ヴォーカル・グループ、ザ・テンプテーションズにとって最後のナンバーワン・ヒットともなった。このときすでに、「マイ・ガール」などで知られるデヴィッド・ラフィンはおらず、後釜としてリード・ヴォーカルをつとめていたデニス・エドワーズが歌った。また当曲は、綺羅星のような名曲を量産した〈ヒッツヴィルUSA〉のスタジオAにおける、最後のビッグ・ヒットともなった。すでにモータウンはロサンゼルスに引っ越していたのだが、テンプスはデトロイトに居残って作業していたからだ。

(次回は81位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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