【58位】ザ・ホワイト・ストライプスの1曲―ミニマルなコペ転で、いにしえの息吹きを今日の世に
「セヴン・ネイション・アーミー」ザ・ホワイト・ストライプス(2003年3月/XL•V2/英)
Genre: Alternative Rock, Garage Rock
Seven Nation Army - The White Stripes (Mar. 03) XL•V2, UK
(Jack White) Produced by Jack White
(RS 286 / NME 16) 215 + 485 = 700
※58位から56位までの3曲が同スコア
ゼロ年代に巻き起こったガレージ・リヴァイヴァル・ブームの契機となったのが、ザ・ホワイト・ストライプスの成功だった。90年代終盤、デトロイト出身の姉弟デュオという触れ込み(本当は元夫婦)でインディー・デビューした彼らの代表曲がこれだ。4枚目のアルバム『エレファント』に収録。シングルとしては、ビルボードHOT100では76位だったが、USオルタナティヴ・ソングスでは1位。全英インディーでも1位、全英総合チャートは7位まで上がり、第46回グラミー賞ではベスト・ロック・ソング部門で受賞までしてしまう。つまり、大流行曲となったわけだ。とてつもないインパクトによって。
どれぐらい流行ったかというと、まず発売直後から2018年のW杯に至るまで、大小さまざまなサッカー会場で「みんなで歌う」アンセムとなっていたことが確認されている(もちろん、サッカー以外のスポーツ会場でも同様の動きは見られた)。また政界でも人気で、ドナルド・トランプが16年の大統領選時に使用(もちろんアーティスト側は怒った)。イギリスでは労働党の党首だったジェレミー・コービンも使ったから、つまり保革両方に「とにかく人気」だったことがよくわかる。
人気の秘訣は「極端なシンプルさ」から生じるキャッチーさにあった。ミニマリズム的構造から立ち上る、意外性の面白さだ。まずドラム(メグ)とギター(ジャック)の2人だけという編成そのものが「最小単位」だ。だが「最小」なれども、多人数のバンドに引けをとらないロック・サウンドを鳴らせる「アイデア」こそが、彼ら最大の武器だった。
その典型例が、当曲の冒頭から鳴り続ける印象的なフレーズだ。これはベースの音域なのだが、ピッチを変えて1オクターブ下の音を出すエフェクター(ワーミー・ペダル)を使用し、ジャックがギターでやっている。
彼のこの技術、「ひとりでいろんな音を出す」技は、大道芸人にも近いのだが、最も近いのは「いにしえのブルースマン」たちだ。ハウンドドッグ・テイラー、エルモア・ジェイムスなど、ストーンズを始め60年代組バンドの多くが焦がれた、「たったひとりで」いろいろやるギタリスト兼歌手のありかたを、「発想の転換」で今日に蘇らせたアイデアマンこそが、ジャック・ホワイトだった。つまり荒削りで尖りまくった「命の息吹き」がそのまま込められた、やばい系のブルースの「ミニマルな今日版」がこの曲であり、だからゼロ年代初頭の、一種のロック・ルネッサンス運動の象徴ともなった。
(次回は57位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)
※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki